兄はBLゲームの主人公……でした。

なみなみ

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プロローグ

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私がこの高校に入学してから1ヶ月がたった。

新しいクラスにも馴染んできて、クラス内にも話せる友達ができた。
友達の名前は柏原詩織ちゃん。
ショートボブで目がくりっとしてとても可愛らしい。
出身中学は違うけど、同じ吹奏楽部に入部して仲良くなった。

柏原さんと昼休みに一緒に教室でお弁当を食べていると、クラスメイトの女生徒達数人が、窓の外を見て歓声をあげた。オシャレで可愛らしい外見で、自分に自信があるタイプの子達だ。
「斎藤せんぱ~い!一条せんぱ~い!三田せんぱ~い!きゃあっ。こっち向いた!ほんとにかっこいい!」

私は咀嚼していた卵焼きを飲み込むのに失敗して、ごほっと変な咳をした。
前の席に座っている柏原さんが咳き込む私に、心配そうな目を向けてきた。
「斎藤さん、大丈夫?」
「う……うん。ごめんね。」
私は卵焼きをお茶で流し込みながら、歓声をあげている女生徒達をちらりと見た。
彼女達はキラキラした目で窓の外を見つめている。

(相変わらずだなあ、蓮琉くん。お兄ちゃんも三田くんも人気があるんだなあ。)

私は中学生の頃を思い出した。
蓮琉くんは、お兄ちゃんの幼馴染み。そして彼は出会った時から女の子に人気があった。蓮琉くんの家は隣なんだけど、バレンタインの日には女の子が必ず家のチャイムを鳴らしているのを見るのが毎年の風物詩だった。
運動会のリレーは絶対選手に選ばれるし、テストもたいてい上位に入っている。しかも背も高くて、整った顔立ち。いつも微笑んでいるような甘いマスク。
これでもてないはずがない。
高校でも、彼の周りには女の子の熱い視線が飛び交っている。

そして、恐らくその蓮琉くんの隣にいるのは私の兄である斎藤環。
中学生の頃は天使のように可愛らしかった容姿も高校三年生となった今では男らしさもプラスされ、容姿端麗な男性に成長している。

そして見えないので想像だが、お兄ちゃんにまとわりつくようにして歩いているのは茶髪にピアスの三田くん。お兄ちゃんの友人だ。私が中二の時にお兄ちゃんの友達になった。その頃から誘われたら誰とでも寝るという遊び人の匂いがプンプンしてたんだけど、実際同じ高校に入った今となって目の当たりにすると、確かにすごい。
廊下でたまにすれ違うんだけど、たいてい女の子を連れて歩いている。お兄ちゃんはあれでもマシになった方だと言っていたけど、以前の彼を想像するのが怖い。

正直言って近づくのが怖い。
隠すつもりもないけれど、自分から吹聴することもないので、斎藤環は私のお兄ちゃんであることを周囲にバレるまでは黙っておこうと思っている。

柏原さんは騒いでいる女生徒達を呆気にとられたような視線で見ていたが、私に話しかけてきた。
「斎藤先輩と、三田先輩と、一条先輩だっけ。ほんとに人気があるみたいだねえ。」
「そ……そうみたいだね。」
「あんなにカッコイイんだから、彼女とかいるんだろうなあ。」
(たぶん、今はいないと思います。)
私は心の中で呟きながら、食べ終わったお弁当を片付けた。

その時廊下から、私達の教室をのぞき込む男子生徒がいた。
学生服の襟についている学年章から三年生であることがわかる。
その生徒は、教室の中を見回していたかと思うと、いきなり大きな声をだした。
「詩織!気がついてんだろ~が。さっさと来いよ!」
いつも穏やかな柏原さんの表情がピキッとかたまった。
くりっとした目が見開かれて少し怖い。
その男子生徒は教室にズカズカと入ってくると、柏原さんのカバンを勝手にあけて中を探り始めた。
「あった。あった。辞書借りてくぞ。………うがあっ!」
勝手に辞書を持って歩き出した男子生徒がいきなりうずくまった。
驚いて隣を見ると、柏原さんが社会資料集を持って男子生徒を見下ろしていた。社会資料集はかなり分厚い。あれで殴られたらかなり痛いと思う。
「勝手に持っていくんじゃね~よ。このクソ兄貴!」
「おまっ……それで殴るか?マジで!」
「う・る・さ・い!」
「……へへっ。な~んちゃって。じゃあな~。」
「あっ!こらあ!待ちなさいよクソ兄貴!」
「ギャハハ!ばいばいき~ん。」

柏原さんは哄笑とともに走り去る男子生徒に罵倒と一緒に食べ終わったお弁当を投げつけていたが、はっとするように私を見た。
「…………見た?」
「…………?何を?」
「高校からは大人しくしようと思ってたの……っ。うわあ。斎藤さんぜったい私のことひいたよねえ?せっかく理想のお淑やかで女の子らしい大人しそうな友達ができたと思ったのに!あのクソ兄貴のせいでっ……あの野郎。マジでぶち殺す。」
柏原さんの目は笑ってないのに、口だけか笑いを浮かべている。
そのまま三年生の教室に殴り込みそうな彼女に私は慌てて話しかけた。
「あの……っ。大丈夫!大丈夫だよ?ひいてないから!柏原さんと友達でいたいと思ってるから!」
「………ほんと?」
私は必死にコクコクと頷いた。
「うん。柏原さんと仲良くしたいもの。」
「……じゃあ、私のこと詩織って名前で呼んでくれる?」
「う?うん。……ええと詩織ちゃん?」
彼女はぱあっと輝くような笑みを浮かべた。
「うん。うんっ!名前で呼び合うの憧れてたんだあ。たいていのヤツは私のこと柏原サンとか、柏原って名字でしか呼んでくれなくて。はあ~いいねえ。」
「ええと、じゃあ。私のことも花奈って呼んでくれる?」
ほわほわしていた詩織ちゃんは、私の方にぐいっと顔を向けた。
目がやけに真剣だ、
「……マジで?マジでいいの?」
「え?うん。だって詩織ちゃんって呼んでいいんでしょ?私のことも花奈って呼んでくれたらうれしいなあって。」

詩織ちゃんは何故か奇声をあげながらその場で小躍りを始めた。
そして、頬をそめて私をちらっと見ると、そのまま恥ずかしそうに見上げてきた。
「か……花奈ちゃん?」
「うん、なあに?詩織ちゃん?」
「…………イイ。」
詩織ちゃんはまた小躍りを始めた。
(おもしろいなこの子。)

彼女を暖かく見守っていると、廊下からひょっこりと知っている顔が覗いてきた。
「斎藤……っ?なんだその女。」
二葉くんだった。彼は小躍りしている詩織ちゃんを見て眉をひそめた。

私と同級生で同じ中学校だった二葉くんはお兄ちゃんの攻略対象の1人で後輩キャラだ、
名前は二葉侑心。短く刈り込まれた短髪にキリッとした目元。彼も質実剛健といった雰囲気を兼ね備えたイケメンだ。今はお兄ちゃんと同じくらいの背だけどいずれは追い越して三田くんと同じくらいになることを私は知っている。
お兄ちゃんを心から尊敬しており、お兄ちゃんと同じ剣道部に入ることを目指して努力して、見事この高校に合格した。
「二葉くん、どうしたの?」
「いや……恭子から伝言だ。また中学校の部活に顔だして下さいって。」
「え……ふふっ。そう言ってもらえるとなんだか嬉しいね。」
「ああ。」
恭子ちゃんは二葉くんの妹だ。
中二の時に初めて会って、最初は二葉くんと私のことを仲がいいと勘違いしてヤキモチをやいたりしたこともあったけど、誤解が解けてからは仲良くしてくれている。
中学校に入った彼女は吹奏楽部に入ってくれて、とても楽しく過ごさせてもらった。
二葉くんと話していると、小躍りをしていた詩織ちゃんが動きを止めて私と二葉くんをジーっと凝視していた。
「詩織ちゃん?」
「花奈ちゃん。なにその男。もしかして彼氏?」
「ええ?違うよ?そんなの二葉くんに迷惑だよ。」
「……俺はまったく迷惑ではないけどな。」
「二葉くん気を使わなくていいよ?詩織ちゃん紹介するね。彼は二葉侑心くん。中学校が一緒だったんだ。二葉くん、彼女は柏原詩織ちゃん。お友達になってくれたんだよ?」

「……柏原です。」
「二葉だ。」

なぜだか睨み合うふたりの背景に吹雪が見えたような気がした。

「じゃあな、斎藤。また来る。」
「うん、またね。」
「…………。」
黙って二葉くんを見送る詩織ちゃんに私はそっと話しかけた。
「詩織ちゃん?」
「あいつ、かなり出来るでしょ?」
「ん?んんと、剣道部だよ。中学校の時には主将もしてたかなあ。」
「へえ……通りで。」
詩織ちゃんは油断なく二葉くんを見ていたけど、背中が見えなくなると同時に睨みつけていた目を優しく和ませて私を見て、荒らされた自分のカバンを思い出したのかキイっと声をあげた。表情がコロコロ変わって面白い。
「あ~そういえば辞書を兄貴にとられたんだった。腹立つなあ。……花奈ちゃんも兄弟とかいるの?あ、姉妹かな。」
「お兄ちゃんがいるよ?」
「えっ?そうなの?むかつかない?朝から目の前でケツかいたり、オナラしたり、休日ゴロゴロしたり。オヤジかっての。放課後なんて友達連れてきて遅くまで騒いだりさあ。マジムカつく。」
「ええと……。」
まさか、私の兄は学校で有名らしい斎藤環ですとはまだ言いにくくて、私は咄嗟に言葉を濁した。
「私のお兄ちゃんは、優しい……かな。」
「そうなの?やっぱり花奈ちゃんのお兄ちゃんだからかなあ。あのクソ兄貴とは違うんだろうね。」

そのままチャイムが鳴り、次の教科の先生が教室に入ってきたので、詩織ちゃんとの話しはそれまでになった。











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