兄はBLゲームの主人公……でした。

なみなみ

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桜木先生のお話

24柴崎蓮

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バイトが終わった僕は、急ぎ足で帰り道を歩いていた。

目的地はバイト先の近くのカフェだ。
今日は斎藤から話を聞いてくれとの連絡があった。約束の時間はもうすぐに迫っている。

カフェについた僕は、店内を見回した。
斎藤は存在感があるので、どこにいてもすぐにわかる。カフェの道路側の席に佇む彼の姿はその整った容姿からまさに麗人といったところか。かといって女性的な雰囲気はまったくない。携帯電話とにらめっこしている姿も絵になる彼は僕に気がつくと花が咲くように微笑んだ。
「柴崎。」
「斎藤、悪かったねバイト終わるまで待たせてしまって。」
「いや、俺こそ無理言って悪いな。何頼む?今日はおごるぞ?」
席についた僕は、メニュー表にさっと視線を走らせた。
「じゃあ、カフェラテの砂糖抜き。」
「それだけでいいのか?場所変えて飯でもいけど。」
「充分だよ。話をする場所はこのままでいいよね。だいたい話の内容は予想がつくし。長くなりそうだよね。」
「悪いな。」
「で?さっさと話しなよ。」
「……ああ。」
「…………。」
「……………。」
斎藤は黙ったまま何も言わない。
僕はため息をついて、助け舟を出すことにした。
「………で?一条がどうしたの。」
「なんで蓮琉のことだってわかるんだ?」
「桜木先生の一件から想像つくでしょ。なに?あの男、ついに1人で西京地区に行ったわけ?いつ行ったの?昨日?」
「……昨日だ。」
僕は鼻を鳴らすと頬杖をついた。
「あの子が桜木先生のそばにいるって自分で決めたんだったら、一条の告白に対しては断りをいれるだろうね。変に律儀なとこあるし。あいつはそれを見越して、あの子を丸め込みに行ったんでしょう?」
「丸め込むって……否定できねえな。」
「西京地区から帰ってきて、あんな話を聞いたあとなのに、意外に大人しいなって思ってたら、ついに行動をおこしたね。」
斎藤は乾いた笑を浮かべた。
「蓮琉の奴、大学さぼって一週間くらい西京地区に居座るつもりらしい。」
「へえ……。それはそれは。ふっ。」
「ふっ。やっぱり笑うよなあ?」
「一条もまだまだ詰めが甘いよね。」

『絶対、明日にはこっちに帰ってくるだろうな(ね)。』

声がはもってしまい、顔を合わせた僕らはさらに笑いだした。
「あははは。だよなあ。馬鹿だよなあ。蓮琉のやつ。帰らずにずっと西京地区にいたら花奈が大学はどうしたの?って心配するの当たり前だっての。」
「そうだよねえ。今日あたりにはなんでまだいるの。大学は?って質問されて誤魔化そうとして失敗する一条の姿が目に浮かぶよ。で?斎藤は兄的にはどうなの?」
「なにが?」
「兄的には誰がオススメ?腹黒い男幼馴染?過去に傷を持つ、実家が極道の男?それともチャラいモデル男?」
「悪意しかねえな。」
「まああの子が誰を選ぶかなんだろうけど。」
「俺は、花奈が幸せならそれでいいんだけどな。」
遠い目をした斎藤から視線を外すと、僕はカフェの窓の外を見た。すると、そこに見たことのある人物が歩いているのを見つけた。
「あれ?あそこにいるの君の後輩じゃない?」
「あ。ほんとだ。お~い。侑心!お前今部活の帰りか?何か飲むか?おごってやるぞ?」
斎藤の後輩、二葉侑心は手招きする斎藤のもとへふらふらと近寄ってきた。
少し疲れているのか、どこか精彩をかく表情だ。
目の下に隈まで出来ている。
二葉は変わらない表情のまま、斎藤に頭をさげた。
「環先輩、お疲れ様です。柴崎先輩もお疲れ様です。」
「はい、お疲れ様。」
そして、訝しげに僕達の周りを見回した。
「今日は一条先輩は一緒じゃないんですね。」
「ああ。あいつ今西京地区に行ってんだよ。」
「西京地区ってことは、斎藤の病気は落ち着いたんですか?桜木先生と三田先輩も一緒に風土病にかかったと聞いてるのですが。面会謝絶って聞いてるので柏原も心配してます。」
ちらりと斎藤を見ると、顔を引き攣らせて固まっているのが見えた。
(斎藤どうするのかな。二葉くんに教えてあげるのかな。でもまさか銃で撃たれて意識不明で、つい最近意識が戻ったなんて言えないよねえ。)
二葉くんを見ると、真っ直ぐな瞳で僕達を見つめていた。なんだかじっと見つめてくるその瞳が心の底まで観察されてるような気がして落ち着かない。 
「環先輩、先日お会いした時は切羽詰まったような表情をされていましたが、今日は明るい表情ですね。……どうされたんです?」
「くっ。」
(こいつ勘良すぎだろ。うわ。見てる。すっげえ見てる。)
僕は斎藤の心の中の声が聞こえるような気がして、思わず苦笑いをした。
「大きな犬が待ての状態で唸ってるみたいだね。諦めて話してあげたら?あの子のこと本気で心配だったんでしょ。このままじゃ可哀想だよ。」
斎藤は助けを求めるように僕を見た。
勿論知らないふりをする。
斎藤はため息をつくと、二葉くんを見た。
二葉くんはただ、斎藤を見つめている。
「………。」
「環先輩?」
「………はあ。わかった。……ん?電話だ。ちょっと待ってくれるか?ああ。花奈?どうした?」

その時、斎藤の携帯電話の着信音が鳴り響いた。
相手はあの子らしい。
二葉くんの目がきらりと輝いた。
「………っ!?」
「ああ。いいぞ。蓮琉だろ?あいつ大学さぼるつもりだからな。明日にでも追い返せ。ああそうだ。今大丈夫か?侑心、花奈だ。電話にでるか?」
「………はい。」

二葉くんは震える手で斎藤の携帯電話を受け取ると、そっと耳に近づけた。
そのまま何も言わない二葉くんに、斎藤も僕も顔を見合わせた。

気がついたら二葉くんの目から涙がひとすじこぼれ落ちていた。
斎藤が二葉くんにそっと寄り添うと彼の肩をそっとなでた。涙をひとすじ流して立ち尽くす二葉くんに、声をかけるのも憚られたのか。申し訳なさそうな、つらそうな表情で二葉くんを見ている。

「………っ。」
二葉は涙をさっと拭うと、先程までの憔悴した様子が嘘のように前をむいた。
彼をまとう空気が、凛とした清らかなものに変化したのだ。
二葉くんは黙って携帯電話を返すと、ふっと微笑んだ。

日頃表情があまり変わらない二葉くんの滅多にないであろう柔らかい表情に、斎藤と僕は言葉もなく魅入られていた。

彼の表情はすぐにいつもの落ち着いたものに戻ってしまったのだけど。

僕と斎藤は、帰っていく彼の背中をぼんやりと見送った。

「ねえ。君の後輩いい男だね。」
「そうだな。あいつ、結局何があったとか聞かずに帰ったな。」
「あの子の元気な声をきいて、満足したんじゃない?ほんといい男だ。西京地区にいる誰かに爪の垢でも飲ませてあげたいな。」
「蓮琉とはまた違う愛し方なんだろう。俺は好きだな。」
「あれ?お兄ちゃんオススメ?」
「……決めるのは花奈だ。まあ、友人としては蓮琉も応援してるぞ。」
「とりあえず、卒業式、かな。」
「桜木先生も卒業式までは手を出さねえって言ってたしな。まあ、その前に大学受験だ。」
「それもそうだね。まずは現実問題を踏破しないと。」

あの子が帰ってくるのもそう先の話ではないだろう。
頑張り屋のあの子だから、帰ってきたらとにかく勉強頑張るだろうな。
大概僕もあの子に対して過保護だ。
だって、どう手助けするかな?とか今から考えてしまっている。
まあ、まずは危機管理意識を再確認してからかな。
もう冷めてしまったカフェラテを一口飲む。
砂糖抜きのはずなのに、不思議に甘い。
僕はこれからのことを考えて、こっそりと笑った。















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