6 / 50
6
しおりを挟む
午後の風が通り抜ける生徒会棟前の回廊にて、セレナは今日も菓子を届け終えた帰り道だった。
「セレナ=シュヴァルツ。まるで行商人のようですな」
低く落ち着いた声が背後からかかる。振り向くと、黒髪をきちりと撫でつけた青年が腕を組んで立っていた。生徒会副会長、ユルゲン=ヴァイス。王太子の側近にして、学園で最も規律に厳しい男。
「菓子で断罪を避けられるなら、世の中もう少し平和でしょうな」
皮肉たっぷりの言葉に、セレナは涼しい顔で応じた。
「まあ。では副会長様は、味も知らずに評価なさるご趣味をお持ちなのですか?」
ユルゲンが片眉を上げるのを見て、セレナは小さな紙箱を取り出した。
「失敗作ではございますが。ほんのり塩気のあるラベンダーマカロン、おひとついかがかしら」
「……毒は入っていませんね?」
「入っていても、“美味”であればご満足でしょう?」
挑むようなその言葉に、ユルゲンはため息をついてマカロンをつまみ、慎重にひと口。
次の瞬間、その表情が一瞬だけ崩れた。
「……これは……悪くは、ない」
「まあ。意外と甘党でいらっしゃる?」
そう囁くセレナに、ユルゲンは咳払いをひとつし、顔をそむけた。
「職務中ですので、あくまで試食として受け取ったまでです」
「はいはい。次はもう少し“毒気”を控えめにしますわ」
ふたりの会話は、風に紛れて回廊の奥へと消えていった。だがその背中に、確かに小さな火種が灯ったのを、セレナは感じていた。
「セレナ=シュヴァルツ。まるで行商人のようですな」
低く落ち着いた声が背後からかかる。振り向くと、黒髪をきちりと撫でつけた青年が腕を組んで立っていた。生徒会副会長、ユルゲン=ヴァイス。王太子の側近にして、学園で最も規律に厳しい男。
「菓子で断罪を避けられるなら、世の中もう少し平和でしょうな」
皮肉たっぷりの言葉に、セレナは涼しい顔で応じた。
「まあ。では副会長様は、味も知らずに評価なさるご趣味をお持ちなのですか?」
ユルゲンが片眉を上げるのを見て、セレナは小さな紙箱を取り出した。
「失敗作ではございますが。ほんのり塩気のあるラベンダーマカロン、おひとついかがかしら」
「……毒は入っていませんね?」
「入っていても、“美味”であればご満足でしょう?」
挑むようなその言葉に、ユルゲンはため息をついてマカロンをつまみ、慎重にひと口。
次の瞬間、その表情が一瞬だけ崩れた。
「……これは……悪くは、ない」
「まあ。意外と甘党でいらっしゃる?」
そう囁くセレナに、ユルゲンは咳払いをひとつし、顔をそむけた。
「職務中ですので、あくまで試食として受け取ったまでです」
「はいはい。次はもう少し“毒気”を控えめにしますわ」
ふたりの会話は、風に紛れて回廊の奥へと消えていった。だがその背中に、確かに小さな火種が灯ったのを、セレナは感じていた。
13
あなたにおすすめの小説
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました
ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」
王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。
誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。
「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」
笑い声が響く。
取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。
胸が痛んだ。
けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。
悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)
三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる