断罪回避のため、秘蔵のデザートを差し出します

綾瀬ひまり

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午後の風が通り抜ける生徒会棟前の回廊にて、セレナは今日も菓子を届け終えた帰り道だった。

「セレナ=シュヴァルツ。まるで行商人のようですな」

低く落ち着いた声が背後からかかる。振り向くと、黒髪をきちりと撫でつけた青年が腕を組んで立っていた。生徒会副会長、ユルゲン=ヴァイス。王太子の側近にして、学園で最も規律に厳しい男。

「菓子で断罪を避けられるなら、世の中もう少し平和でしょうな」

皮肉たっぷりの言葉に、セレナは涼しい顔で応じた。

「まあ。では副会長様は、味も知らずに評価なさるご趣味をお持ちなのですか?」

ユルゲンが片眉を上げるのを見て、セレナは小さな紙箱を取り出した。

「失敗作ではございますが。ほんのり塩気のあるラベンダーマカロン、おひとついかがかしら」

「……毒は入っていませんね?」

「入っていても、“美味”であればご満足でしょう?」

挑むようなその言葉に、ユルゲンはため息をついてマカロンをつまみ、慎重にひと口。

次の瞬間、その表情が一瞬だけ崩れた。

「……これは……悪くは、ない」

「まあ。意外と甘党でいらっしゃる?」

そう囁くセレナに、ユルゲンは咳払いをひとつし、顔をそむけた。

「職務中ですので、あくまで試食として受け取ったまでです」

「はいはい。次はもう少し“毒気”を控えめにしますわ」

ふたりの会話は、風に紛れて回廊の奥へと消えていった。だがその背中に、確かに小さな火種が灯ったのを、セレナは感じていた。
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