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証言の波が落ち着いた大講堂に、再び静寂が戻る。
だが、それは終わりではなかった。
「最後の証人を呼びます――シオン=ミルフォード殿」
呼び上げられた名に、聖堂内が再びざわつく。王立エルシュタイン学園の留学生。だが、ただの生徒ではない。彼は“香りの歴史”を記録する異国の学問機関より派遣された、調香と感覚の専門家だった。
柔らかな金髪と銀縁の眼鏡を揺らしながら、シオンは証人台に立つ。背筋は伸び、語る声には確かな芯があった。
「味は消えても、香りは記録される。私たちの国では、それを“感覚の書庫”と呼びます」
そう言って彼は、小さな香炉を壇上に置き、セレナの焼いたシュトロイゼルクーヘンに使用された香料の組成を順に読み上げた。
「金桂花の蜜香、リモナ・シュガー、そして青銀香――これらはすべて、記憶を呼び覚ます調香です。そしてこれは再現可能であり、検証もできる。つまり“事実”です」
その言葉に、審問官たちの表情が変わった。
彼は続けて、香りが記録された菓子を囲むように並べられた容器を示す。
「これは、私の記録です。そして、証明です。セレナ嬢の菓子は、何人もの記憶に実際に作用し、感情を動かしました。その事実は、数値としても、感覚としても記録されています」
堂内に、再び重い沈黙が落ちる。
審問官たちは目を交わし、しばしの審議の後、厳かに立ち上がった。
「本審問において――香りと味によってもたらされた記憶、感情、証言のすべてを、我々は正式に“証拠”として受理する」
「神託に代わるものとして、この記録を神殿法のもとに刻む」
その宣言が告げられた瞬間、大講堂の奥、神託文書を保管する銀の書架に、新たな項目が記された。
――《第七審問録・感覚記述部》
記録名:セレナ=シュヴァルツによる甘味および香気証明。
それは、神の声ではなく、人の舌と心によって導かれた新たな審判の形。
セレナの甘さが、ついに神殿に“記録”として刻まれた瞬間だった。
だが、それは終わりではなかった。
「最後の証人を呼びます――シオン=ミルフォード殿」
呼び上げられた名に、聖堂内が再びざわつく。王立エルシュタイン学園の留学生。だが、ただの生徒ではない。彼は“香りの歴史”を記録する異国の学問機関より派遣された、調香と感覚の専門家だった。
柔らかな金髪と銀縁の眼鏡を揺らしながら、シオンは証人台に立つ。背筋は伸び、語る声には確かな芯があった。
「味は消えても、香りは記録される。私たちの国では、それを“感覚の書庫”と呼びます」
そう言って彼は、小さな香炉を壇上に置き、セレナの焼いたシュトロイゼルクーヘンに使用された香料の組成を順に読み上げた。
「金桂花の蜜香、リモナ・シュガー、そして青銀香――これらはすべて、記憶を呼び覚ます調香です。そしてこれは再現可能であり、検証もできる。つまり“事実”です」
その言葉に、審問官たちの表情が変わった。
彼は続けて、香りが記録された菓子を囲むように並べられた容器を示す。
「これは、私の記録です。そして、証明です。セレナ嬢の菓子は、何人もの記憶に実際に作用し、感情を動かしました。その事実は、数値としても、感覚としても記録されています」
堂内に、再び重い沈黙が落ちる。
審問官たちは目を交わし、しばしの審議の後、厳かに立ち上がった。
「本審問において――香りと味によってもたらされた記憶、感情、証言のすべてを、我々は正式に“証拠”として受理する」
「神託に代わるものとして、この記録を神殿法のもとに刻む」
その宣言が告げられた瞬間、大講堂の奥、神託文書を保管する銀の書架に、新たな項目が記された。
――《第七審問録・感覚記述部》
記録名:セレナ=シュヴァルツによる甘味および香気証明。
それは、神の声ではなく、人の舌と心によって導かれた新たな審判の形。
セレナの甘さが、ついに神殿に“記録”として刻まれた瞬間だった。
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