背徳の海に舞うナリラ

菜種K

文字の大きさ
1 / 16
第一章

1.ムルルカ島の巫女

しおりを挟む
 遥か南洋の海。

 明るい太陽。
 風に揺れる椰子の木。
 軽快な太鼓の音に合わせ、働き、踊り、生きる喜びと悲しみに歌う人々──

 ムルルカ島はそんな人々の暮らす、豊饒な実りと敬虔な神への祈りに支えられた島だった。
 
 ある朝──
 その島の小さな砂浜で、ひざまずき大きく手を広げる一人の少女がいた。
 
 濃い褐色の肌。
 明るい栗色の巻き毛。
 胸帯に隠された膨らみかけの胸に、腰蓑が包むほっそりした腰つき。
 見た者に忘れることを許さない、印象的な紫色の瞳──
 
「ナリラ!」
 
 少女を呼ぶ声がした。
 大きな瞳が振り返って、椰子の木の下を見る。

「ああ、ノルシラ」
 木陰から現れたのは、果物のカゴを抱えた娘だった。
 だが、ナリラと呼ばれた少女と同じくその島の娘らしい簡素な装束に包まれた体は、ナリラよりもはるかに豊満だった。
 
 島の娘たちは皆そうだ。
 十五も過ぎれば皆、その体が海の女神に例えられるような豊満さを見せる。
 薄く細い胸帯の下にはち切れんばかりの豊かな乳房。
 短く刈り込まれた腰蓑に包まれる大きな腰の揺れ。
 見え隠れする褐色の太腿は、男の目を惹きつけずにはおかない。
 
 この南の海で、ムルルカの女たちはとりわけ美しく魅力的であるという評判があった。

「朝のお勤め?」
「うん。でももう終わったの」

 ナリラは供物を片付けて袋に入れると、立ち上がってノルシラの元に向かった。

「私は神殿にお供え持っていくの。一緒に行こ」

 神殿へ登っていく坂道を歩きながら、娘たちは話し続けた。

「ナルラはお祭りで踊るの?」
 ノルシラが聞いた。
 お祭りとは、もうすぐ開かれる収穫祭のことだった。
 年に一度、漁や畑での収穫を島の女神〈ムロシャラ〉に感謝するために行われる。
 その日と夜、人々は仕事を休み、広場で太鼓を鳴らし燃え盛る炎を囲んで踊り明かす。
 
「うん、踊るよ。神殿の中庭でだけど」
「なんだー。ナリラも広場で踊ればいいのに」
「それはだめよ……」
「まあ、巫女さんには無理かもねー」

 収穫祭の間、広場がどんな様子になるかは、ナリラも知っていた。
 この島の主神、女神ムロシャラへの感謝をする祭りではあったが、あまりにも賑やかで猥雑な雰囲気に包まれるのだ。

 ムルルカの島は、普段から解放的で性愛にもおおらかな土地柄だった。
 男も女も、夫婦めおとの契りを交わすまでは何人かの相手と情を交わすのが普通なのだ。
 そして、収穫祭の夜はその風潮がさらに顕著になる。
 人々が踊る広場の隅、椰子の木陰、海岸の岩場の陰などで、まぐわう男女の姿がいくつも見られる。

 それは、女神に仕える巫女の身であるナリラにとっては、避けるべきものだった。

 ナリラは赤子の頃、この島に流れ着き、島の神官に引き取られ巫女として育てられた孤児だった。

 十代も折り返してだいぶ経つが、成熟の手前で戸惑い立ち止まったようなほっそりした体つきも、巫女に相応しく思われていた。
 顔立ちは美しく、この島には見られない神秘的な紫色の瞳は、まるで海の妖精ネースのようだと言う者もいた。
 そして、この歳になるまで男には手も触れたことがないほどの清女でもあった。

「ナリラはちょっとかわいそうだね。お祭りの時くらい、誰かに抱いてもらえればいいのに」
「いいよ。私はそういうの。それより、ノルシラは誰かに抱いてもらえそうなの?」
「うん!」
 ノルシラはうれしそうに答えた。
「粉屋のサナタがね、私を欲しいって。メリリたちとも集まってどこかで一緒に……しようかなって」

 あっけらかんと打ち明ける友人が、すでに何人かの少年と経験を済ませた「女」であることはナリラも知っていた。
 この島では当たり前のことだが、ナリラはそういう話を聞くたびに自分が置いてけぼりにされたような気がしてちょっと寂しかった。

「ああ、楽しみだなあ! サナタ上手だといいな。顔はすごくいいんだけど」
 ノルシラは子供のように飛び跳ねた。
 大きな胸が揺れ、首飾りが音を鳴らす。

「そ……そんなに楽しみなの?」
 ナリラはあまり関心がないようなフリをして言ったが、ノルシラはイタズラっぽい笑顔を浮かべて友の顔を覗き込んだ。
 
「ナリラも来る? こっそり」
 巫女は身をすくめて、大きく首を振った。
「バカ言わないで! 神殿から追い出されちゃう」
 
 ノルシラはさらにナリラに近づき、肩を擦り寄せながら耳元にささやいた。
「男の子はいいよ……上手な子は優しい言葉で心を先に溶かしてから、一番感じやすいところに触れてくるんだ。もう、思い出してだけで濡れてきちゃう……」
「濡れる?」
「そっか。わからないんだ……」

 ノルシラは出し抜けにナリラの手をつかむと、自分の腰蓑の奥へとそれをつっこんだ。
「ちょっと!」
 慌てて手を引っ込めたナリラは、その前にはっきり感じた。
 一瞬触れたノルシラの、茂みに包まれた秘所がしっとりと濡れていたのを。

「ね! 男の子を迎える時、これがもっとあふれるんだよ」
 屈託なく笑う友に、ナリラは頬を染めながら顔を背けた。
「わかったから、もうやめて……」

 これ以上、色恋の話をしていると、変な気持ちになってくる……
 ナリラは自分の腹の下に不思議な熱がたまってくるのを感じた。

 あとで熱を冷まさないと……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...