背徳の海に舞うナリラ

菜種K

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第一章

2.魔女と処女(おとめ)

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 やがて二人は、島の北端に位置する神殿の中庭にたどり着いた。
 そこでは、この島の神事を司る神官トルリルと、数人の槍を持った男たちが何やら話し込んでいた。
 
「では、よしなに……」
 
 男たちは、ナリラたちと入れ違うように去っていった。

「ナリラ、帰ったか。ノルシラ、ご苦労様」
 神官トルリルは顎に手を当て難しい顔をしていたが、二人の娘に笑顔を向けた。
 
 トルリルは、女神ムロシャラの敬虔な信徒であり、島民の人望厚い誠実な神官だった。
 中年に差し掛かったばかりで、整った顔立ちにたくましい褐色の体躯と、黒く短い縮れ毛の上に、高さのある神官の冠をいただいたその姿は、彼自身がこの島を護る神像のようにも見えたりした。
 そしてナリラの敬愛する育ての親でもあった。

「神官様、あの方たちは?」
 ナリラが聞いた。

「うむ。防人の戦士たちの代表だ。近々、大掛かりな海賊退治の航海に出るので、成功のための祈祷をして欲しいという依頼だったのだ」
「海賊退治……」

 トルリルは中庭からも見渡せる南の海を指し示しながら言った。
「いま、このあたりの海は不穏な空気に包まれている。呪いの気が濃いのだ。海賊の動きが大きくなっているのもそのせいだ。ナリラも霊力が強いから、そのうちわかるだろう」

 トルリルの言う通り、ナリラには人なみ以上に霊力があった。

 巫女には強い霊力を持つ者が選ばれる。
 その霊力をもって、呪いから島を守るのも巫女の務めだった。
 ナリラは時々、島民から死者の声を聞いてくれと頼まれたり、行方知れずの者を探すよう頼まれ、見事に成功させていた。

「だが我が娘よ、気をつけるのだ。強い霊力は呪いを引きよせもする。もし魔女に目をつけられたら、霊力の強い処女おとめは生贄にされてしまうこともある」

 ナリラもノルシラも怖気だった。

「魔女なんて、本当にいるの?」
 ノルシラが震える声で聞いた。

「うむ。特に南海の大魔女と呼ばれ恐れられているイシュタ=ラ・ヴェラは、霊力の強い処女おとめの心の隙をつき、夢から侵入して意のままに操る。特に、恋や男のことで思い悩むことは慎むのだ。そんなもの思いから生まれる切り口こそ、最も魔女がつけ入りやすい隙なのだ」
 
「はい……気をつけます」
 ナリラは言った。
 
 ノルシラとの話でおかしな気持ちになったりすると、それこそ危ないかも。
 すでに処女おとめではないノルシラなら心配無用だろうが……。

「そういえば、ナリラ。聞いてる?」
 トルリルが去った後で、ノルシラが耳打ちした。
 あんな話の後なので、ナリラは友の何気ない言葉にも警戒したが、ノルシラの顔は先ほどまでと違って真剣そのものだった。

「サーダ島の酋長の娘がね。カルララ姫っていうんだけど、ポロ島に輿入れする途中で海賊に襲われたんだって」
「輿入れって……お嫁入りってこと?」
 ノルシラはうなずいた。

「そう。祝いの宴で舞いを舞う舞姫たちと一緒に船に乗ってたんだけど、それが襲われて……みんな海賊たちに……犯されちゃったらしいわ」
「──!」
「大掛かりな海賊退治をするのは、きっとそのせいね。嫌だわ。無理やり見も知らぬ男に弄ばれるなんて。本当に退治してほしいものね……」

 ナリラは息を呑んだ。
 嫁入りの途上でそんな目に遭うなんて、信じられない!

 その夜──

 少女ナリラは、神殿の控えの間に敷いた藁布団に身を横たえ、波の音を聞いていた。

 窓から差し込む月明かりが、栗色の長い巻き毛を照らす。
 胸帯の下で膨らみ切っていない乳房がしっとりと汗をかいている。
 その奥に重く沈むものがあった。

 朝、耳にした酷い話。

 何人もの男たちに陵辱されたというカルララ姫──
 
 あまりにもかわいそうだ。
 小さな島国とはいえ、族長の娘に生まれ、姫として大切に育てられてきた。
 それなのに──海賊たちの手で無惨に散らされた花。

 奪われたものは二度と戻らない。
 その悔しさと悲しさを思うと、ナリラの胸は締めつけられた。

 許嫁いいなづけがいたというのに、その人に捧げたかった純潔を奪われる──
 その瞬間の彼女の気持ちは、どれほどのものだっただろう。

 ナリラは思わず、自分の体を抱きしめた。
 指先が素肌を撫でると、不意に胸の奥がざわめく。

 ──男に抱かれるとは、どんなことだろう?

 ノルシラやカルララの話を思い返すうちに、胸の奥に生まれて初めての熱が灯る。

 ナリラは腰蓑に指を差し入れ、そっと秘所に触れてみた。
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