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第2章 あれ、人生やればできるかも?
第15ガチャ それは呪いか祝福か?
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「ねえ、聞いた?奥様の話…」
「ええ…絶縁ですって?一週間後、お邸を出ていくそうよ」
「……」
相変わらず、この邸のメイドは口が軽い。
(人の不幸は蜜の味、…ってね)
「シャル!」
「こっちこっち!」
「ケディ、フォーレ!わあ、なんだか今日はかっこいいね」
明日、エイデン一家はみんな、帰ってしまう。
せっかく仲良くなれたのに、少し寂しい。…だから、今日はお別れのパーティー。
「二人とも、女の子の格好はやめたの?」
こそっと聞くと、ケディもフォーレも笑って答えた。
「だって、意味ないし」
「シャルはちゃんと俺たちを見てくれるしだろ?…それに」
すると、二人が私に向かってすっと手を伸ばした。
「この格好じゃないと、決まらないじゃん」
「エスコートさせてください、お嬢様」
「!」
今日はいつもよりも、私の服装も華やかだ。
長い髪は、メイドのメルが緩い三つ編みで仕上げてくれたし、ドレスも…ふ、フリルはまだ抵抗があるので、お断りして…代わりに、水色のシフォンドレスを着させてもらった。
(な、なんか、お姫様になった気分)
ダンスとかそう言うのはまだまだ先の話だけど、私も目いっぱい背伸びして、二人の手を取った。
「えへへ、よろしくお願いします」
ただ、美味しい料理とデザートを食べて、談笑するだけのアットホームなパーティー…まるで、夢の中にいるようで、気持ちもふわふわしてしまう。
(スイーツが美味しい…!)
「食べ過ぎるなよ、シャル。…だが、たくさん食べなさい」
「うん!」
お父様もステキな正装で、私の水色のドレスとお揃いのタイをしてる。
…でも、ここにロザベーリはいない。
あれ以来、部屋に閉じこもりきりらしい。何があったか、誰も教えてくれないけど…想像はできる。
(お父様の服、はだけてたし…でも、合意ではなかったような)
――大人の事情はよくわからない。
でも、私はあの時、微かにリア―ネの気配を感じた。…見えない力が働いたから、お父様も無事で、私も無事だったのかもしれない。
そして、ラウは…あれ以来、誰も行方を知らないままだ。
何処から来たのか、誰の紹介だったのか…厨房のシェフたちもそれぞれ記憶が曖昧で、でもいつの間にか溶け込んでいたと口をそろえて言う。それが不気味で…少しもやもやする。
(ヴァラモ家…)
私はこの世界のことをまだよく知らない。
でも、わかったこともある。ラウの誘拐、ロザベーリの派手な行動、亡くなったメイドも、元はロザベーリの実家…ヴァラモ家にいたことがあるらしく、紹介状も持っていた。
その全ては偶然ではなく、――絶対的な後ろ盾「ヴァラモ家」に結びついてる。
でも、一体…何が目的だったのか。それは、今でもわからない。
「また、難しい顔をしてる」
「え?」
「…あまり難しいことばっか考えてると、顔がぶすになるぞ」
「ケディって、すっごく失礼な時、あるよね」
「な、なんだよ!笑ってた方が…シャルはかわいいと思うぞ!」
(あら、可愛いだって)
「ふふ、ありがと!」
「あのさ、…シャル」
「ん?」
すると、ケディは何かを言いたそうに口ごもる。
そして…私の耳に手を当てた。
「実は、最初に女の子の格好しよう!って言ったの…僕なんだ」
「え?」
そう言えば、最初に出会ったとき、双子の兄が『フォーレ』で、妹が『ケディ』と聞いてた。
「フォーレってさ、あいつ僕より、頭がいいじゃん。本当は、みんなフォーレの方が先に生まれてたら…ってそんな風に思ってるんじゃないかって。勝手に想像しちゃってさ」
「うん…」
「なんか…すげえ落ち込んじゃって」
「ケディ…」
「その時……父上から、親友の家にいる僕たちと、年の近い女の子の話がいるって聞いたんだ」
(そう言えば、二人とも最初から私のこと知っていたよね)
「先に生まれたとか、後に生まれたとか…僕たちを知らない女の子は、ケディックの事を、フォーレスの事を…どう見るんだろう?そう、思ったんだ」
「…それで、どうだった?」
一瞬迷った風だったが、ケディは私の方をしっかりと見た。…その表情は、どこか大人びていて、ちょっとカッコイイ、なんて不覚にも思ってしまった。
「想像以上だった!変な格好しなくても、シャルは…ちゃんと、僕たちを見てくれてる。なんかそれがすごくうれしい。だから、さ」
突然周りをきょろきょろしだしたと思ったら、ケディは私の手を取り、テラスの方に連れ出した。
「僕の事、目が離せなくなるくらいもっともっと格好良くなってやる!…だから、かくごしろよ!」
「え…」
まるで宣戦布告のようにそれだけ言うと、ケディは顔を真っ赤にして、ぱっと顔をそむけた。
あれ、これってもしかして実質プロポーズになるのかな?…なんて。
「ま、毎月手紙書くし…だから、返事くれよな!」
「…うん!!絶対、忘れない!」
「あ!ケディ、シャルと二人で何話してるんだよ!」
「べっつに!」
「俺だって、手紙書くから…忘れないでよ?」
「忘れないよ、ケディ、フォーレ!…また、逢おうね」
きっとこの子たちは、将来すごくかっこよくなるんだろうな。
その頃は、私の事を忘れてるかもしれないけど。
(私は、絶対忘れない。…この世界に来て、初めての友達だから)
こうして――エイデン一家は、次の日…自分たちの領地に帰っていったのだった。
そして。
しん、と静まり返る部屋に、高らかとノックの音が三度、響く。
「…いるよね、そこに。…ロザベーリ」
返答はない。でも、私は続けた。
「聞きたいことがあるの。お母様を…リア―ネを死に至らしめたのは、あなた?」
これも返答はない。
でも、扉の向こうに、彼女はいる。
「ベラドンナを栽培していたのは、死んだメイド。それを採取していたのは、ラウ。そして…あなたは、採取したベラドンナを使って、何か知らの方法でリア―ネに幻覚を見せ、孤立するように仕向けた…これであってる?」
私がそう言うと、少し間があいて…ドアが開いた。
――立っていたのは、ローブドレス姿の、ロザベーリ。少しやつれているように見えるが、立ち姿は依然として凛として、落ちぶれた様子はない。
(彼女の…プライドがそうさせてるのかな)
「…随分と、大人びた子供ね。お前、何者?」
「どうでもいいでしょ、そんなこと。ここから少し離れたところに、護衛の騎士がいてくれるから…私に何かしようとしても、無駄だよ」
「……何が目的?」
「知りたいだけ。あなたがベラドンナの薬をどこで作ったのか…を。それと」
そう言って見せたのは、例の飾り箱に入っていた小さな瓶と、白いハンカチ。
「この、花の意味」
「……」
あの後、ジェンナ先生と調べて、一つ分かったことがある。
それは…小瓶の蓋と一緒に会った布、それは少し歪な白い花の刺繍がされたハンカチだった。
私は何も気が付かなかったけど…そのモチーフを見た瞬間、ジェンナ先生の顔が強張った。
「…ヴァラモ家」
「え?」
「……奥様の御実家、アズレアで最も力ある一族、ヴァラモ家で使われることがある印章です。私の母も…そうでした」
「先生…」
「この左右非対称の花と一緒に…このベラドンナの薬を強要されたのでしょう」
「どういう、意味?」
私が聞くと、先生は困ったようにうつむいた。
そして、小さく…ごめんなさい、とだけつぶやき、それ以上何も教えてくれなかった。
「利口な先生ね…お前は、それを知ってどうするの?」
「…知りたいの。あなたが何を思って、リア―ネを追い詰めて…リア―ネはどんな思いでその生涯を終えたのか」
「……なぜ?」
「未来のリッハシャル=ルドヴィガの為に」
こんな理由、ロザベーリは一生理解できないと思う。
でも、リッハシャルはこれから起きた未来で、ロザベーリに追い詰められ、母を亡くしたことで果てのない孤独を思い知り、静かに息を引き取る結末になる。
(今から全部変えるからその未来はなくなるだろう。でも、私だけは覚えていたい)
「美しいものにこそ、価値がある。それが、あの家の全て」
「…何、それ?」
「だって、あの家は呪われているから」
ヴァラモ、という名前を彼女は口にしない。
「あの家の娘はね、他家に嫁ぐまでその白い花をモチーフとして使うのよ」
「…他家に、嫁ぐまで…?」
「その花に名前はない。ただ何色にも染まり、完ぺきではない形で、いくらでも姿を変えられる。死ぬまでそれを持ち、最後まで誰にも渡さない…実りを紡ぐまで」
「……どうしてそれを、リア―ネに」
ロザベーリはふっと、笑う。
「――使い古された花だから、よ。賢いお前なら、わかるでしょう」
ゾッとした。
【何色にもなれない、不完全のままの死】
ただ花のまま、母親にもなれず、虚ろな愛だけを胸に、夢の中で眠りについたまま枯れる事すら許さない―――そう言うことだ。
「リッハシャル…お前が何者か、どうでもいいわ。けれど、一つだけ断言できる。お前は国一つ傾ける程美貌を持っている。その美貌は、大人になった瞬間周囲を惑わし、男たちを狂わし、みんな競ってお前に愛を乞う……」
「…っ」
私の髪を強く引っ張り、ロザベーリは嗤った。
「よく覚えておきなさい。お前の存在は、望まぬ望まざるに関わらず、その美貌で周囲を不幸にするでしょう」
「そんなこと…しない!」
「美を呪いにするか、祝福にするか…私の言葉を、忘れないことね」
「忘れないよ…!私は、絶対に祝福にする!!」
―――その日を最後に、ロザベーリと顔を合わすことはなかった。そして三日後…
彼女は颯爽と、馬車に乗り込む。一度も振り返ることなくロザベーリという女性は、ルドヴィガの家から去っていた。
(…美しくなるために、ロザベーリを頼り、薬を与えられ…その美しさを“祝福”されて死んだ)
「…どうして、そんな孤独を抱えたんだろう。お父様はあなたを愛していたのに、リア―ネ…」
過去、私が使っていた部屋にある「ベラドンナ」の文字。
それをそっとなぞると、ヒヤッと背中に寒気を感じた。
「…リア―ネ?」
『……』
そこには、とても穏やかな表情のリア―ネがいた。
「…ロザベーリの夜這いから、お父様の事、助けたでしょ?やるじゃん!」
それに、多分私の事も。
『あなたのおかげで、わかったわ』
「…?」
『レイドックは…本当に私を愛してくれていたのね』
ロザベーリが去った後から、お父様は薬指に指輪をしている。
それは、結婚指輪にしては珍しい黒い石だったんだけど…今、リア―ネも同じ指輪をしているってことは。
(意外と情熱的でロマンチストだよなあ…お父様って)
「私は、別に何もしてないよ…」
『…もうそろそろ、行くわ』
「!」
ゆらり、とリア―ネの姿が揺らめく。
「あ…そうだ!あのね、枕元に立てば、お父様にきっと会えるよ!だから…!」
『ありがとう、律葉。…シャルの事、よろしくね』
そして…消えていった。
「ええ…絶縁ですって?一週間後、お邸を出ていくそうよ」
「……」
相変わらず、この邸のメイドは口が軽い。
(人の不幸は蜜の味、…ってね)
「シャル!」
「こっちこっち!」
「ケディ、フォーレ!わあ、なんだか今日はかっこいいね」
明日、エイデン一家はみんな、帰ってしまう。
せっかく仲良くなれたのに、少し寂しい。…だから、今日はお別れのパーティー。
「二人とも、女の子の格好はやめたの?」
こそっと聞くと、ケディもフォーレも笑って答えた。
「だって、意味ないし」
「シャルはちゃんと俺たちを見てくれるしだろ?…それに」
すると、二人が私に向かってすっと手を伸ばした。
「この格好じゃないと、決まらないじゃん」
「エスコートさせてください、お嬢様」
「!」
今日はいつもよりも、私の服装も華やかだ。
長い髪は、メイドのメルが緩い三つ編みで仕上げてくれたし、ドレスも…ふ、フリルはまだ抵抗があるので、お断りして…代わりに、水色のシフォンドレスを着させてもらった。
(な、なんか、お姫様になった気分)
ダンスとかそう言うのはまだまだ先の話だけど、私も目いっぱい背伸びして、二人の手を取った。
「えへへ、よろしくお願いします」
ただ、美味しい料理とデザートを食べて、談笑するだけのアットホームなパーティー…まるで、夢の中にいるようで、気持ちもふわふわしてしまう。
(スイーツが美味しい…!)
「食べ過ぎるなよ、シャル。…だが、たくさん食べなさい」
「うん!」
お父様もステキな正装で、私の水色のドレスとお揃いのタイをしてる。
…でも、ここにロザベーリはいない。
あれ以来、部屋に閉じこもりきりらしい。何があったか、誰も教えてくれないけど…想像はできる。
(お父様の服、はだけてたし…でも、合意ではなかったような)
――大人の事情はよくわからない。
でも、私はあの時、微かにリア―ネの気配を感じた。…見えない力が働いたから、お父様も無事で、私も無事だったのかもしれない。
そして、ラウは…あれ以来、誰も行方を知らないままだ。
何処から来たのか、誰の紹介だったのか…厨房のシェフたちもそれぞれ記憶が曖昧で、でもいつの間にか溶け込んでいたと口をそろえて言う。それが不気味で…少しもやもやする。
(ヴァラモ家…)
私はこの世界のことをまだよく知らない。
でも、わかったこともある。ラウの誘拐、ロザベーリの派手な行動、亡くなったメイドも、元はロザベーリの実家…ヴァラモ家にいたことがあるらしく、紹介状も持っていた。
その全ては偶然ではなく、――絶対的な後ろ盾「ヴァラモ家」に結びついてる。
でも、一体…何が目的だったのか。それは、今でもわからない。
「また、難しい顔をしてる」
「え?」
「…あまり難しいことばっか考えてると、顔がぶすになるぞ」
「ケディって、すっごく失礼な時、あるよね」
「な、なんだよ!笑ってた方が…シャルはかわいいと思うぞ!」
(あら、可愛いだって)
「ふふ、ありがと!」
「あのさ、…シャル」
「ん?」
すると、ケディは何かを言いたそうに口ごもる。
そして…私の耳に手を当てた。
「実は、最初に女の子の格好しよう!って言ったの…僕なんだ」
「え?」
そう言えば、最初に出会ったとき、双子の兄が『フォーレ』で、妹が『ケディ』と聞いてた。
「フォーレってさ、あいつ僕より、頭がいいじゃん。本当は、みんなフォーレの方が先に生まれてたら…ってそんな風に思ってるんじゃないかって。勝手に想像しちゃってさ」
「うん…」
「なんか…すげえ落ち込んじゃって」
「ケディ…」
「その時……父上から、親友の家にいる僕たちと、年の近い女の子の話がいるって聞いたんだ」
(そう言えば、二人とも最初から私のこと知っていたよね)
「先に生まれたとか、後に生まれたとか…僕たちを知らない女の子は、ケディックの事を、フォーレスの事を…どう見るんだろう?そう、思ったんだ」
「…それで、どうだった?」
一瞬迷った風だったが、ケディは私の方をしっかりと見た。…その表情は、どこか大人びていて、ちょっとカッコイイ、なんて不覚にも思ってしまった。
「想像以上だった!変な格好しなくても、シャルは…ちゃんと、僕たちを見てくれてる。なんかそれがすごくうれしい。だから、さ」
突然周りをきょろきょろしだしたと思ったら、ケディは私の手を取り、テラスの方に連れ出した。
「僕の事、目が離せなくなるくらいもっともっと格好良くなってやる!…だから、かくごしろよ!」
「え…」
まるで宣戦布告のようにそれだけ言うと、ケディは顔を真っ赤にして、ぱっと顔をそむけた。
あれ、これってもしかして実質プロポーズになるのかな?…なんて。
「ま、毎月手紙書くし…だから、返事くれよな!」
「…うん!!絶対、忘れない!」
「あ!ケディ、シャルと二人で何話してるんだよ!」
「べっつに!」
「俺だって、手紙書くから…忘れないでよ?」
「忘れないよ、ケディ、フォーレ!…また、逢おうね」
きっとこの子たちは、将来すごくかっこよくなるんだろうな。
その頃は、私の事を忘れてるかもしれないけど。
(私は、絶対忘れない。…この世界に来て、初めての友達だから)
こうして――エイデン一家は、次の日…自分たちの領地に帰っていったのだった。
そして。
しん、と静まり返る部屋に、高らかとノックの音が三度、響く。
「…いるよね、そこに。…ロザベーリ」
返答はない。でも、私は続けた。
「聞きたいことがあるの。お母様を…リア―ネを死に至らしめたのは、あなた?」
これも返答はない。
でも、扉の向こうに、彼女はいる。
「ベラドンナを栽培していたのは、死んだメイド。それを採取していたのは、ラウ。そして…あなたは、採取したベラドンナを使って、何か知らの方法でリア―ネに幻覚を見せ、孤立するように仕向けた…これであってる?」
私がそう言うと、少し間があいて…ドアが開いた。
――立っていたのは、ローブドレス姿の、ロザベーリ。少しやつれているように見えるが、立ち姿は依然として凛として、落ちぶれた様子はない。
(彼女の…プライドがそうさせてるのかな)
「…随分と、大人びた子供ね。お前、何者?」
「どうでもいいでしょ、そんなこと。ここから少し離れたところに、護衛の騎士がいてくれるから…私に何かしようとしても、無駄だよ」
「……何が目的?」
「知りたいだけ。あなたがベラドンナの薬をどこで作ったのか…を。それと」
そう言って見せたのは、例の飾り箱に入っていた小さな瓶と、白いハンカチ。
「この、花の意味」
「……」
あの後、ジェンナ先生と調べて、一つ分かったことがある。
それは…小瓶の蓋と一緒に会った布、それは少し歪な白い花の刺繍がされたハンカチだった。
私は何も気が付かなかったけど…そのモチーフを見た瞬間、ジェンナ先生の顔が強張った。
「…ヴァラモ家」
「え?」
「……奥様の御実家、アズレアで最も力ある一族、ヴァラモ家で使われることがある印章です。私の母も…そうでした」
「先生…」
「この左右非対称の花と一緒に…このベラドンナの薬を強要されたのでしょう」
「どういう、意味?」
私が聞くと、先生は困ったようにうつむいた。
そして、小さく…ごめんなさい、とだけつぶやき、それ以上何も教えてくれなかった。
「利口な先生ね…お前は、それを知ってどうするの?」
「…知りたいの。あなたが何を思って、リア―ネを追い詰めて…リア―ネはどんな思いでその生涯を終えたのか」
「……なぜ?」
「未来のリッハシャル=ルドヴィガの為に」
こんな理由、ロザベーリは一生理解できないと思う。
でも、リッハシャルはこれから起きた未来で、ロザベーリに追い詰められ、母を亡くしたことで果てのない孤独を思い知り、静かに息を引き取る結末になる。
(今から全部変えるからその未来はなくなるだろう。でも、私だけは覚えていたい)
「美しいものにこそ、価値がある。それが、あの家の全て」
「…何、それ?」
「だって、あの家は呪われているから」
ヴァラモ、という名前を彼女は口にしない。
「あの家の娘はね、他家に嫁ぐまでその白い花をモチーフとして使うのよ」
「…他家に、嫁ぐまで…?」
「その花に名前はない。ただ何色にも染まり、完ぺきではない形で、いくらでも姿を変えられる。死ぬまでそれを持ち、最後まで誰にも渡さない…実りを紡ぐまで」
「……どうしてそれを、リア―ネに」
ロザベーリはふっと、笑う。
「――使い古された花だから、よ。賢いお前なら、わかるでしょう」
ゾッとした。
【何色にもなれない、不完全のままの死】
ただ花のまま、母親にもなれず、虚ろな愛だけを胸に、夢の中で眠りについたまま枯れる事すら許さない―――そう言うことだ。
「リッハシャル…お前が何者か、どうでもいいわ。けれど、一つだけ断言できる。お前は国一つ傾ける程美貌を持っている。その美貌は、大人になった瞬間周囲を惑わし、男たちを狂わし、みんな競ってお前に愛を乞う……」
「…っ」
私の髪を強く引っ張り、ロザベーリは嗤った。
「よく覚えておきなさい。お前の存在は、望まぬ望まざるに関わらず、その美貌で周囲を不幸にするでしょう」
「そんなこと…しない!」
「美を呪いにするか、祝福にするか…私の言葉を、忘れないことね」
「忘れないよ…!私は、絶対に祝福にする!!」
―――その日を最後に、ロザベーリと顔を合わすことはなかった。そして三日後…
彼女は颯爽と、馬車に乗り込む。一度も振り返ることなくロザベーリという女性は、ルドヴィガの家から去っていた。
(…美しくなるために、ロザベーリを頼り、薬を与えられ…その美しさを“祝福”されて死んだ)
「…どうして、そんな孤独を抱えたんだろう。お父様はあなたを愛していたのに、リア―ネ…」
過去、私が使っていた部屋にある「ベラドンナ」の文字。
それをそっとなぞると、ヒヤッと背中に寒気を感じた。
「…リア―ネ?」
『……』
そこには、とても穏やかな表情のリア―ネがいた。
「…ロザベーリの夜這いから、お父様の事、助けたでしょ?やるじゃん!」
それに、多分私の事も。
『あなたのおかげで、わかったわ』
「…?」
『レイドックは…本当に私を愛してくれていたのね』
ロザベーリが去った後から、お父様は薬指に指輪をしている。
それは、結婚指輪にしては珍しい黒い石だったんだけど…今、リア―ネも同じ指輪をしているってことは。
(意外と情熱的でロマンチストだよなあ…お父様って)
「私は、別に何もしてないよ…」
『…もうそろそろ、行くわ』
「!」
ゆらり、とリア―ネの姿が揺らめく。
「あ…そうだ!あのね、枕元に立てば、お父様にきっと会えるよ!だから…!」
『ありがとう、律葉。…シャルの事、よろしくね』
そして…消えていった。
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