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第2章 あれ、人生やればできるかも?
第16ガチャ 春の訪れ
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そのガラスの庭園は、とある森の奥にひっそりと佇む。薔薇の花だけでも数百種、それ以外の花も数えきれない程様々な花が一年中咲いている。
訪問者はごく限られた人間のみで、誰も知らない、知られてはいけない秘密の場所。
その館の現在の主人は、青い髪と、銀色の瞳を持つ不思議な容姿を持つ一人の少年。
口のきけない老齢の庭師、生まれた時から傍にいた老婆。そして、彼に従う同じ年頃の少年もいるが、彼のことを名前で呼ぶものはおらず、知っていても、口に出すことはできない。
彼は長い間、ずっとその場所にいる。月に複数回尋ねてくる大人が持ってくる大量の本と、老婆の作る手料理、庭師の花だけが彼の孤独を癒す――誰かはそこを「永遠の春」と呼び、ある人は「花の檻」と呼んだ。
「…よし!」
庭園から少し離れた場所に、とても大きな樹がある。上へ上へと目指し、古木の上から見下ろす風景を見るのが、少年はとても好きった。
「もっと高く登れば、もっとよく見えるのに…」
風に揺れる枝の上で、そっと目を細める。
年齢を追うごとに景色は変わり、今でははるか遠くにうっすらた白い線が見える。特に晴れた今日みたいな日は、街も良く見えた。
(僕は、いつまでここにいるんだろう)
彼方の景色は、変わらぬまま、自分は変わっていく。それは、自分の立場や環境が普通ではないことに気付き始めるきっかけとなった。
季節が過ぎ、雪も融け春の季節に差し掛かった時。
答えのない疑問を抱え、それを知る術を持たなかった少年は、何をするでもなくじっと庭園で空を眺めていた。
「…僕はこれからどうすればいいのか」
何をするべきなのか…せずにここにいた方がいいのか。従者は答えず、大人も「すべきことを」と口をそろえて言うばかり。
(何か…きっかけを、道しるべでもあればいいのに)
そう思った瞬間、突如「ぎゃ」という、例えば小動物が何かに潰されたような――そんな妙な音が聞こえる。恐るおそる様子を見に行くと…青いネモフィラの花がたくさん咲いている場所に、一人の女の子が横たわっていた。
「…?!女の…子?」
実をいうと、初めて見る自分より下であろう、年ごろの近い女の子。
彼の周りには、年老いた女性はいても、意図的かそうでないかはわからないが、特に若い女性は影もない。
「うう…」
(喋った!?…生きてる人間??)
黒い髪に、白い肌。触れたら壊れそうなくらい弱々しく、小さい女の子。
助けるべきか、でも触れていいのか?どう触ればいいんだろう??
そんな考えが頭の中を行ったり来たり。おろおろしていると…その女の子は、パチッと目を開いた。
(…青い。綺麗な透き通った深い色)
大きく切れ長な目を二、三度ぱちぱちすると、こちらを見るなり大きく見開いた。
「?!」
「誰…?」
その時、彼はどこか自分を嘲笑したくなるような…そんな気分になった。
(これが、僕の…きっかけ。道しるべ?)
「ふうん…君が」
少女は一瞬目を見開き、目がぶつかり合う。手を伸ばそうとした次の瞬間、少女の姿は跡形もなく消えてしまった。
「!!…消え、た」
その後、その女の子がその場所に現れることはなかった。
もしかして夢だったのか、幻だったのかも?そんな風に思いつつも、諦めきれずネモフィラの花の前に足蹴く通っていると、庭師が専用の椅子とテーブルを置いてくれた。
幾度か季節も廻り、その場所で読書をするのが日課になったある日の事。
「ここにおられましたか、小公子様」
「あ…黒い馬が見えたと思っていたけど。来ていたんだ、レイドック」
少年を支援する大人は複数いる。
その中の一人、レイドック=ルドヴィガは、少年が生れた時から近くにいた信頼できる大人の一人だった。
「ええ、お久しぶりです。今日も多数の本をお持ちしました。…お好みのものはございますか?」
「うーん…そうだな」
持ってきた大量の本を手に取ってみていると、一冊変わった本が目に入った。
「…これは」
「あ、それは!」
珍しく慌てた様子のレイドックに首をかしげる。
「黒い髪の民族…キアルーン…?」
その装丁は繊細の花や木が模様として描かれており、レイドックが選んだにしては華やかな印象の本だった。
「…申し訳ありません、うちの娘が」
「え?」
「ん?」
ポロリと出た言葉に、思わず吹き出した。
「驚いた!君はいつも難しそうな顔をしているけど、まさか息女いたなんて!どうして教えてくれなかったの?」
「そ、それは…その。小公子の耳にお届けするような」
ごにょごにょと言いよどむ様子にたまらず笑みが深まる。
(隠したかったんだな)
「いいじゃないか。どんな子?」
「そうですね、小公子様と同じくらいの年齢でしょうか。…とても、賢い子です」
「ふうん…?」
パラパラとページをめくると、どうやら難しい内容ばかりではなく、キアルーンの文化や風習、服装など主に生活習慣についての記載が多く、とても分かりやすい物ばかり。
いたるところに拙い文字で書き込みがされていた。
「へえ…キアルーンの国は、みんな髪の色が夜の空のように黒いんだね。この国に訪れたことは?」
「何度か…なくなった妻の故郷です」
ちらりと、レイドックの指にある、黒い宝石がはまった指輪を見た。
(そう言うことだったのか…あれ?それなら)
「もしかして…君の娘も、黒い髪だったり…?」
「よくお分かりですね。ええ、うちの娘も美しい黒い髪に、私と同じ深い青色の瞳です」
「!!……自慢の、娘?一気に饒舌になったね」
「そ、そんなことは」
この時、少年はこみあがる喜びをなるべく表に出さず、平然と見えるよう努めた。
―――いた、見つけた。本当に実在したんだ。
「名前は?」
「…リッハシャル。私の自慢の娘です」
少し照れくさそうに笑うレイドックはとても珍しい。
(でも、ここで会ってみたいと言ったら、きっと反対されるだろう。もしかしたら、二度と合わせてくれなくなってしまうかも…ここは、慎重に)
「この本…その子にとって、大事なもののようだけど、いいのか?たくさん書き込みがあるし」
「うーん…恐らく、シャルももしかしたら意図的に入れたのかもしれませんので」
「意図的?」
「あの子は聡く、私がある時期になるとたくさん本を抱えて出かけるのを察しているようですから」
「へえ…じゃあ、僕も読んでみようか。ちゃんと返すよ」
「……し、小公子様がそれでよければ」
「わかった」
その日の夜、少年は眠れなかった。
今まで感じたことのない好奇心と、期待に想いを馳せる。
「会いたい…いや、きっと、必ず会いに行くよ、リッハシャル」
そう、決めた。
――ルドヴィガ邸、書斎。
「あれ?…戻ってきた」
いつもの昼下がり、私は一度手放した愛読書がなぜか一月後に手元に戻るという不思議な現象に見舞われた。
(返されたってこと?…やっぱり、お父様ね)
ロザベーリが去ってから、5年がたった。
ヴァラモ家の影もすっかりとひそめ、落ち着いた日々を過ごしていた時、父がいつもある期間が過ぎると本を大量に仕入れ、どこかに持っていくことに気が付いた。
理由を聞いてもはぐらかされるばかり。むくむくと大きくなる好奇心で、誰が読んでいるのかわからないが、ちょっとしたいたずら心のような物で、内緒で自分の推薦の本を何冊か紛れ込ませてみたのだ。
その本がなんと、いつもの場所に戻ってきた。
「うーん…お好みじゃなかったかな?この本、すごくわかりやすいし、挿絵も綺麗なのよ!」
たくさん書き込みをしたのも、キアルーンの文化を知ってもらうためだったりする。
母の故郷、キアルーンは調べれば調べていくほど、私が元居た日本の古い文化とよく似ている。島国で、四季があり、着物に似た服を着用すること。
私が『リツハ』だった頃、大好きだった和風模様や、成人式で着た着物がそこにある。
どこか懐かしさもあり、父にお願いしてみたりもしたが…キアルーンとアズレアの交易はあまり盛んではなく、訪問や交流は実現しなかった。
後ろに広がる大陸の玄関口を担っているアズレア王国は至る所に大きな港を抱えており、キアルーンは閉鎖的で、軽んじられている国のイメージが強い。
それが、私は嫌だった。
「この模様だって、色だって…とても綺麗なのに」
アズレアは、国章の色が青をモチーフとしている。
この国の「青」は美しいけれど、どこか物悲しい。でもキアルーンの青はとても鮮やかで、そこも好きだ。すると、本を開いた瞬間、四角の封筒が挟まっていた。
「あれ?…これ、私のじゃない。でも、何か入ってる」
何も書いていない、けれど、封はきっちりされていた。
それを開くと…青い花びらと、綺麗な水色のリボンがはらりと落ちてきた。
「リボン…?」
よく見ると、封筒の内側にサラリと綺麗な字で「感謝」と書かれていた。
「へえ…お礼ってこと?ふふ、やるじゃん!名無しさん」
そして、その後も何度かそんな短いやり取りは続く。
「お嬢様、お手紙が届きましたよ」
「ありがと、ルルー!…また、ケディとフォーレ同じタイミングで送ってきてる!」
「あら、ご子息様方は、競ってお嬢様にお手紙を?」
「手紙には「自分の方が先に送った」や「後から手紙も来ると思う」なんて書いているくせに、いっつも一緒なのよ?」
「あらあら、人気者ですねえ」
勿論、ケディとフォーレからも、七日と開けず手紙が送られ、なんだかんだで離れていても不思議なつながりを感じる日々が続いていた。
そして―――更に、二年が過ぎた頃。
「あ!またフォーレ、僕と同じ時に手紙送ったな?」
「なんだよ!俺のタイミングにケディがあわせてるんだろ?じゃなきゃ…」
その日、エイデン侯爵邸に届いたのは、二通の手紙。
勿論、リッハシャルからのものだった。
「ちぇ、じゃあ一緒に開けようぜ」
「望むところだ!」
手紙を開き、熟読した後、二人は同時にパッと笑顔になる。
「あら、何かいいことでも書いてあった?」
夫人が尋ねると、二人の声が重なった。
「この春から、シャルも学校行くって!」
「王立アカデミー…シャルも行くんだ」
そして、同時に
「また会えるな!」
「また会えるね」
と、笑った。
訪問者はごく限られた人間のみで、誰も知らない、知られてはいけない秘密の場所。
その館の現在の主人は、青い髪と、銀色の瞳を持つ不思議な容姿を持つ一人の少年。
口のきけない老齢の庭師、生まれた時から傍にいた老婆。そして、彼に従う同じ年頃の少年もいるが、彼のことを名前で呼ぶものはおらず、知っていても、口に出すことはできない。
彼は長い間、ずっとその場所にいる。月に複数回尋ねてくる大人が持ってくる大量の本と、老婆の作る手料理、庭師の花だけが彼の孤独を癒す――誰かはそこを「永遠の春」と呼び、ある人は「花の檻」と呼んだ。
「…よし!」
庭園から少し離れた場所に、とても大きな樹がある。上へ上へと目指し、古木の上から見下ろす風景を見るのが、少年はとても好きった。
「もっと高く登れば、もっとよく見えるのに…」
風に揺れる枝の上で、そっと目を細める。
年齢を追うごとに景色は変わり、今でははるか遠くにうっすらた白い線が見える。特に晴れた今日みたいな日は、街も良く見えた。
(僕は、いつまでここにいるんだろう)
彼方の景色は、変わらぬまま、自分は変わっていく。それは、自分の立場や環境が普通ではないことに気付き始めるきっかけとなった。
季節が過ぎ、雪も融け春の季節に差し掛かった時。
答えのない疑問を抱え、それを知る術を持たなかった少年は、何をするでもなくじっと庭園で空を眺めていた。
「…僕はこれからどうすればいいのか」
何をするべきなのか…せずにここにいた方がいいのか。従者は答えず、大人も「すべきことを」と口をそろえて言うばかり。
(何か…きっかけを、道しるべでもあればいいのに)
そう思った瞬間、突如「ぎゃ」という、例えば小動物が何かに潰されたような――そんな妙な音が聞こえる。恐るおそる様子を見に行くと…青いネモフィラの花がたくさん咲いている場所に、一人の女の子が横たわっていた。
「…?!女の…子?」
実をいうと、初めて見る自分より下であろう、年ごろの近い女の子。
彼の周りには、年老いた女性はいても、意図的かそうでないかはわからないが、特に若い女性は影もない。
「うう…」
(喋った!?…生きてる人間??)
黒い髪に、白い肌。触れたら壊れそうなくらい弱々しく、小さい女の子。
助けるべきか、でも触れていいのか?どう触ればいいんだろう??
そんな考えが頭の中を行ったり来たり。おろおろしていると…その女の子は、パチッと目を開いた。
(…青い。綺麗な透き通った深い色)
大きく切れ長な目を二、三度ぱちぱちすると、こちらを見るなり大きく見開いた。
「?!」
「誰…?」
その時、彼はどこか自分を嘲笑したくなるような…そんな気分になった。
(これが、僕の…きっかけ。道しるべ?)
「ふうん…君が」
少女は一瞬目を見開き、目がぶつかり合う。手を伸ばそうとした次の瞬間、少女の姿は跡形もなく消えてしまった。
「!!…消え、た」
その後、その女の子がその場所に現れることはなかった。
もしかして夢だったのか、幻だったのかも?そんな風に思いつつも、諦めきれずネモフィラの花の前に足蹴く通っていると、庭師が専用の椅子とテーブルを置いてくれた。
幾度か季節も廻り、その場所で読書をするのが日課になったある日の事。
「ここにおられましたか、小公子様」
「あ…黒い馬が見えたと思っていたけど。来ていたんだ、レイドック」
少年を支援する大人は複数いる。
その中の一人、レイドック=ルドヴィガは、少年が生れた時から近くにいた信頼できる大人の一人だった。
「ええ、お久しぶりです。今日も多数の本をお持ちしました。…お好みのものはございますか?」
「うーん…そうだな」
持ってきた大量の本を手に取ってみていると、一冊変わった本が目に入った。
「…これは」
「あ、それは!」
珍しく慌てた様子のレイドックに首をかしげる。
「黒い髪の民族…キアルーン…?」
その装丁は繊細の花や木が模様として描かれており、レイドックが選んだにしては華やかな印象の本だった。
「…申し訳ありません、うちの娘が」
「え?」
「ん?」
ポロリと出た言葉に、思わず吹き出した。
「驚いた!君はいつも難しそうな顔をしているけど、まさか息女いたなんて!どうして教えてくれなかったの?」
「そ、それは…その。小公子の耳にお届けするような」
ごにょごにょと言いよどむ様子にたまらず笑みが深まる。
(隠したかったんだな)
「いいじゃないか。どんな子?」
「そうですね、小公子様と同じくらいの年齢でしょうか。…とても、賢い子です」
「ふうん…?」
パラパラとページをめくると、どうやら難しい内容ばかりではなく、キアルーンの文化や風習、服装など主に生活習慣についての記載が多く、とても分かりやすい物ばかり。
いたるところに拙い文字で書き込みがされていた。
「へえ…キアルーンの国は、みんな髪の色が夜の空のように黒いんだね。この国に訪れたことは?」
「何度か…なくなった妻の故郷です」
ちらりと、レイドックの指にある、黒い宝石がはまった指輪を見た。
(そう言うことだったのか…あれ?それなら)
「もしかして…君の娘も、黒い髪だったり…?」
「よくお分かりですね。ええ、うちの娘も美しい黒い髪に、私と同じ深い青色の瞳です」
「!!……自慢の、娘?一気に饒舌になったね」
「そ、そんなことは」
この時、少年はこみあがる喜びをなるべく表に出さず、平然と見えるよう努めた。
―――いた、見つけた。本当に実在したんだ。
「名前は?」
「…リッハシャル。私の自慢の娘です」
少し照れくさそうに笑うレイドックはとても珍しい。
(でも、ここで会ってみたいと言ったら、きっと反対されるだろう。もしかしたら、二度と合わせてくれなくなってしまうかも…ここは、慎重に)
「この本…その子にとって、大事なもののようだけど、いいのか?たくさん書き込みがあるし」
「うーん…恐らく、シャルももしかしたら意図的に入れたのかもしれませんので」
「意図的?」
「あの子は聡く、私がある時期になるとたくさん本を抱えて出かけるのを察しているようですから」
「へえ…じゃあ、僕も読んでみようか。ちゃんと返すよ」
「……し、小公子様がそれでよければ」
「わかった」
その日の夜、少年は眠れなかった。
今まで感じたことのない好奇心と、期待に想いを馳せる。
「会いたい…いや、きっと、必ず会いに行くよ、リッハシャル」
そう、決めた。
――ルドヴィガ邸、書斎。
「あれ?…戻ってきた」
いつもの昼下がり、私は一度手放した愛読書がなぜか一月後に手元に戻るという不思議な現象に見舞われた。
(返されたってこと?…やっぱり、お父様ね)
ロザベーリが去ってから、5年がたった。
ヴァラモ家の影もすっかりとひそめ、落ち着いた日々を過ごしていた時、父がいつもある期間が過ぎると本を大量に仕入れ、どこかに持っていくことに気が付いた。
理由を聞いてもはぐらかされるばかり。むくむくと大きくなる好奇心で、誰が読んでいるのかわからないが、ちょっとしたいたずら心のような物で、内緒で自分の推薦の本を何冊か紛れ込ませてみたのだ。
その本がなんと、いつもの場所に戻ってきた。
「うーん…お好みじゃなかったかな?この本、すごくわかりやすいし、挿絵も綺麗なのよ!」
たくさん書き込みをしたのも、キアルーンの文化を知ってもらうためだったりする。
母の故郷、キアルーンは調べれば調べていくほど、私が元居た日本の古い文化とよく似ている。島国で、四季があり、着物に似た服を着用すること。
私が『リツハ』だった頃、大好きだった和風模様や、成人式で着た着物がそこにある。
どこか懐かしさもあり、父にお願いしてみたりもしたが…キアルーンとアズレアの交易はあまり盛んではなく、訪問や交流は実現しなかった。
後ろに広がる大陸の玄関口を担っているアズレア王国は至る所に大きな港を抱えており、キアルーンは閉鎖的で、軽んじられている国のイメージが強い。
それが、私は嫌だった。
「この模様だって、色だって…とても綺麗なのに」
アズレアは、国章の色が青をモチーフとしている。
この国の「青」は美しいけれど、どこか物悲しい。でもキアルーンの青はとても鮮やかで、そこも好きだ。すると、本を開いた瞬間、四角の封筒が挟まっていた。
「あれ?…これ、私のじゃない。でも、何か入ってる」
何も書いていない、けれど、封はきっちりされていた。
それを開くと…青い花びらと、綺麗な水色のリボンがはらりと落ちてきた。
「リボン…?」
よく見ると、封筒の内側にサラリと綺麗な字で「感謝」と書かれていた。
「へえ…お礼ってこと?ふふ、やるじゃん!名無しさん」
そして、その後も何度かそんな短いやり取りは続く。
「お嬢様、お手紙が届きましたよ」
「ありがと、ルルー!…また、ケディとフォーレ同じタイミングで送ってきてる!」
「あら、ご子息様方は、競ってお嬢様にお手紙を?」
「手紙には「自分の方が先に送った」や「後から手紙も来ると思う」なんて書いているくせに、いっつも一緒なのよ?」
「あらあら、人気者ですねえ」
勿論、ケディとフォーレからも、七日と開けず手紙が送られ、なんだかんだで離れていても不思議なつながりを感じる日々が続いていた。
そして―――更に、二年が過ぎた頃。
「あ!またフォーレ、僕と同じ時に手紙送ったな?」
「なんだよ!俺のタイミングにケディがあわせてるんだろ?じゃなきゃ…」
その日、エイデン侯爵邸に届いたのは、二通の手紙。
勿論、リッハシャルからのものだった。
「ちぇ、じゃあ一緒に開けようぜ」
「望むところだ!」
手紙を開き、熟読した後、二人は同時にパッと笑顔になる。
「あら、何かいいことでも書いてあった?」
夫人が尋ねると、二人の声が重なった。
「この春から、シャルも学校行くって!」
「王立アカデミー…シャルも行くんだ」
そして、同時に
「また会えるな!」
「また会えるね」
と、笑った。
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