まったり異世界観光 ~観光チートで異世界を楽しみつくす~

にしん

文字の大きさ
56 / 96

55

しおりを挟む
「とりあえず、俺の後を付いてきてね。今回は霊地での歩き方を感じてくれればいいから」
「「「はいっ」」」

未知なる地を前にして、改めて気合いを入れる三人。
ここから先の道は、俺が再び先導していくことになる道が険しくなったとかはないが、気をつけなければならないことも多いのだ。
霊地での歩き方を示しながら、ついでにいくつかの素材の採集などを実地で見せていこうと思う。

そうやって登っていくと、だんだんと空気が変わってくるのがわかる。

「ここら辺までくると、かなり空気が違うのがわかる?」
「はい、なんか明らかに質が違うというか。どう違うかは解んないですけど」
「おいしい!!」
「魔力が濃い感じの空気と似てるような気がします」
「この空気を感じたら、そこはもう霊地に足を踏み入れている証拠だね」

本来、山の上の高地などは空気が薄いはずだが、この辺りの空気は、それを感じさせない位に空気の質がまったく違う。
マリーも何となくは感じてはいたようだが、魔法の習熟度の差でナツメの方がよりはっきりと感じていた。
ナツメの言う魔力が濃いという感覚は、実のところほぼほぼ間違っていない。
ただ、正確に言えば,魔力ではなく、源素が濃いというのが正しい。

源素とは、目に見えない超常的エネルギーの源泉みたいなものである。
魔力、霊力、神力といったものは、源素をそれぞれのチカラの性質に合わせて変容させているものなので、もとを辿れば全て同じ源素というルーツに行き着くのだ。
その豊富な源素を用いて、精霊が自ら造り上げる領域のことを、人は霊地と呼ぶ。

後、カリンの空気が清く澄んでいて、おいしいというのも、これはこれで間違いではない。
シチュや精神的要素も加わって、実際、うまいんだ。
これは登ってみればきっとわかる。
結局のところ、俺という人間はそういう楽しみが好きなので、苦労しながらも山に登ってしまうのだ。


「はい、ストップ! その足元にあるのがシズクタケだね」

道の脇の木々の合間、足元のうっそうとした草をかき分けると、そこには水のように、透き通った半透明のキノコが群生している。
その見た目から、目視での発見は極めて難しいこのキノコは、カサから発する微弱な水属性の魔力を察知しなければならない。

「うはー、スケスケだ」

珍しいキノコにカリンがウキウキで声をあげる。

「シズクタケは、高級素材の一つだね」

シズクタケは、豊富な滋養強壮成分があり、高い回復効果がある素材である。
シズクタケの煮汁を煮出した上で濃縮させると、それだけで上級回復薬並みの回復効果ある液体となる。
さらにシズクタケのスゴいところは、その回復効果に加え、他の素材との相性が抜群で、シズクタケ液を調合に加えると、他の素材の効果を損ねることなく,より高い品質の薬効が期待できるのだ。

「採るんですか?」

ワクワクを隠しきれない声でマリーが問う。他の2人も同じ様な目でこちらを見てる。
だが、彼女たちの期待通りにはならない。

「いや、今回はとらない」
「えっ、なんで?」

カリンが素の声を出す。
基本的に冒険者なんて、取れるものがあれば取れるだけとるのが普通だ。
あまりに成長してないものはさすがに見逃したりもするが、ここにあるシズクタケはしっかりと大きくなっている様にみえる。

「シズクタケはね、こうして群生しているんだけどね。成長しきった後、群生が一つの個体に合流していくんだ」

シズクタケは、空気中の水分を栄養に変えて成長する特性を持つ、水気の多い土地などに生息しているキノコの一種である。そこに豊富な源素を含んだ水分を吸収することで、生命力溢れる個体へと成長するのだ。
そんなシズクタケには独特の生態がある。
群生体の中で成長しきった個体が出ると、その個体が生命力を伴った胞子を空気中に放出し、繁殖していく。
胞子を出しきった個体は、群生の中に一つだけいる特殊個体に残りの命を託すように水のように触れ混じり、やがて合流する。
そしてその特殊個体だけは、胞子を排出する機能を持たない。
ただただその生命力を溜め込み続ける。
やがて、全ての個体が吸収された後にその個体が、人や獣に刈り取られることで、シズクタケの育った後の場所に収まりきらなかった分の生命力が氾濫し、その土壌が豊かになる。
そういったサイクルを理解し、採るべきものを採る。
それが大事。

「というわけで、今回はスルーします」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...