まったり異世界観光 ~観光チートで異世界を楽しみつくす~

にしん

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「はぁ~、ホントに静かな夜ですね」

パチパチと弾ける焚き火を見つめながら、マリーが呟く。
2人ずつで前後半に別れて野営することになり、俺とマリーが前半を担当することになった。
寝る前には疲労回復を促進させるドリンクを差し入れたので、短時間でもスッキリと目覚められるはずだ。
ちなみに、このドリンクの素材も道中仕入れたもので作った。
森歩きのときの、定番ドリンクである。

「普段の野営だって別にそこまで騒がしいとかはないですけど、ここまで気配が何にも無いのって、初めてです」

冒険者という職業病か、気配に対してすごく敏感になる。
人の領域では無いところでは、少しの油断が命取りであり、本当の安全圏など存在しないのだから。
今寝ている他の2人にしても、おかしな気配を感じたらすぐ目を覚まして行動に移れるぐらいの睡眠の取り方をしている。
外の世界とは、基本的にそういう場所なのだ。

それが、このケーラル山の山頂エリアはどうだろう。
そういった気配、魔の気配どころか動物の気配などもなく、それどころか風のざわめきや虫の鳴き声もない。本当に凪いだ空間の中にいるようなのだ。

「たしかにどんなに穏やかな土地だって、ここまで落ち着いた夜はないね」
「ですよね? やっぱり結界の張り方とかなんですか?」

たしかにこの結界は特別製だ。
なにせ触媒の水晶はここの親分である精霊様のお客である証。
どんな脅威も寄せ付けないだろう。

「それもなくはないけど、それだけではないかな」
「えー、じゃあどうしてなんですか」
「それはね、君たちがこの地に受け入れられたからだよ」
「?」

きょとんとした表情のマリー。

「こちらが親しみと敬意をきちんと持って対応すれば、自然もまたそれに応えてくれる。だからこそ友として歓迎して、快適な環境を提供してくれているんだ」

この山に入ってからの彼女たちのことを、ケーラルの自然はずっとみていた。
そして彼女たちはその性根と行動で、自然から認められたというわけだ。
この心地よい空間は、友愛の証みたいなものだ。

「本来は人間だって、自然の一部にすぎない。それでもそこから離れ内側と外側に線を引いた」
「……内と外」
「外壁に守られている内側は確かに安全だろう。外側には危険が一杯で気を張っていなければならない。でも――」

「ここは君にとって、本当に危険な外側かな?」

マリーにそう問いかける。

「正直、解りません。考えたこともなかった」
「まぁそれはそうだろうね」

彼女たちは別に特別郷土愛に溢れた人間というわけではない。
ごく普通の女の子なのだ。

「今回だって、何となく流れで依頼を受けただけで、特別、すごい思い入れがあったわけではないんで」
「でも、やってみてどうだった?」
「はい、思った以上に楽しくて。それに森の中に入ってから、どこかずっと懐かしいような、安心するような感じがあったんです」
「それは君が生粋のケーラルの民だからさ」

このケーラルに住まう人間は子どもの頃から、折に触れケーラルの自然と接してきた。
そしてそれは本人の気付かないうちに、心や体に染みついているのだろう。
少し離れて、久しぶりに触れた実家の家族の暖かさ。
そういうものを感じたのかもしれないな。

「きみたちもまたケーラルの一部なのだから、それを排そうとするものはこの地には存在しないってことさ」
「それは、素直に嬉しいですね。はい」

マリーがそういって笑う。
完全に理解をしたわけではないが、ここが外ではなく内側だということを理解したのだろう。
奥底にあった緊張やとまどいが和らぎ、軟らかい表情となった。

星が瞬いた気がした。

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