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しおりを挟む「それは――」
息を飲んで、続きを待つ。
どんな無理難題にも応えたいという感謝からくる気持ちと、心の奥底に未だにこびりつく自分なんかでは、という不安。それらがないまぜになって、心が定まらない。
彼女のこれからの言葉で、俺の未来の指針がきまるのだ。
「特にありません」
「……へ?」
予想外の答えに、おもわず気の抜けた声が出る。
「貴方には、この世界で自由に生きて楽しんで欲しい、だそうです」
なんともまぁ俺に都合よすぎて、逆に不安になってくる。
特に信心深かったわけでもなく、前世でここまでしてもらえるようなことした覚えもない。
「神には神の都合があり、その御心を計り知ることはできません。此度のことも神にとっては何でもないようなことなのです。だから貴方が不安を抱える必要もありません」
「そういうもの、ですか」
まぁ確かに、俺がもらったチートで世界を救えといわれても、正直なところ困ってしまう。
まさに俺が望んでいたとおりの観光のためのチート能力でしかないからな。
「貴方は前世で頑張りすぎて、魂が疲れてしまったのです。一度、肩の荷を下ろして心穏やかに生きても、誰も責めませんよ。なにせ神がお認めになられているのですから」
「そうですね、そう考えることにします」
「それがいいでしょう」
『アイ!』
俺の答えに優しく微笑む大精霊。
そして黙ってやり取りを聞いていたアオイも肯定している。
うん。そうだな。
この世界で好きなように生きてみよう。
この機会を与えてくれた神に感謝をしつつ、自分なりに精一杯人生を楽しんでみたい。
心からそう思えた。
■
「ねぇ、貴方からみてこのケーラルの地はどうみえますか?」
大精霊は突然、そんなことを聞いてきた。
ふむ。
「お世辞抜きに素晴らしいところだと思いますよ」
「本当に?」
「ええ。自然や温泉も素晴らしいですし、料理も美味しい。そしてなにより、俺にとってはかつて生きた世界に近い部分がかなりある」
「そっか」
嬉しそうに頷く大精霊。
「私、いや私たちは、あの人の眠るこの地を、還れなかったあの人の故郷のようにしてあげたかったの」
そういえばここは勇者の隠居した地であり、その勇者伝説の中には精霊と結ばれたという話も残っている。
今目の前にいる大精霊が、まさにその当人なのだろう。
改めて考えると、すごいファンタジーだ。
そしてよく手を出したなぁ、とも思う。
だってこうして話してる今でも、節々から神々しさが漏れ出してて、畏れ多いでしょってなる。
やっぱ、勇者ってすげー。
「じゃあ、勇者様に感謝ですね。今のケーラルは彼を愛した貴女方とケーラルに生きる人々の愛と努力の結晶。彼がいたからこそ、俺は今こうしてケーラルを最高に満喫できてるというわけです」
「ふふ、ありがとう」
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