まったり異世界観光 ~観光チートで異世界を楽しみつくす~

にしん

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「もうそろそろ日が昇ります。私がこうしていられる時間もあと僅か」

起きたときよりも空が白みを強め、まもなく朝を迎えようとしている。
空の果ての方には既に少しだけオレンジの明かりが見えており、それがじわじわとこちらへと拡がっていく。
神秘の濃い時間は終わり、人の時間がはじまる。
そしてそれは、大精霊との交流の終わりを意味していた。

「アオイのこと、よろしくお願いします。偶然の結果とはいえ、この時代に生まれた最も若き精霊。それを貴方に託します。貴方の側で色々な景色をみせてあげてください」

大精霊のアオイを見つめる瞳は、どこまでも優しく慈愛に満ちている。

「はい。謹んでお受けします」
「アオイも彼をよく助けるのですよ。それが古来より人と精霊との正しき在り方なのですから」
『アイ!』

アオイも力強く返事をした。
あらためてここに精霊との誓いは為った。

「どうやら、そろそろのようです」
「大精霊様……」
「アイ……」
「久しぶりにこうして話せて楽しかったです。ありがとうございました」

既に空は明るくなり始め、もう夜とはいえないぐらい。大精霊の身体も淡い光の中で薄れ掛かってきている。

「ケーラル以外にもこの世界には、素晴らしい土地や景色がたくさんあります。そうしたものを実際に観て、どうかこの世界を好きになってください。それがきっと、この世界へ呼んでくれた神への1番の恩返しとなるはずです」

優しい声色で語りかける大精霊。

「もしそれでも、貴方の中に逡巡が残るというのならば。
 世界中を巡る旅の中で、ついででもいいので、人と自然を繋ぐような役割を担ってください。このケーラルで貴方がしたように。
 そうやって世界をよりよくするのに、貢献してくれたら私としても嬉しく思います」

最後に示してくれた俺の生き方。最後まで人の心に寄り添った優しい提案。

「サイト・シーイング」
「はい」

消えゆく中で、「俺の名前」を呼ぶ。

「どうか、この世界をめいっぱい楽しんでください」

そして、日が昇る。
溢れ出す光の中に、大精霊は消えていった。
太陽が大きくなるにつれて、周りの景色も鮮明  になってくる。
ケーラルの山々と雲の海。
そして水平線の向こうから昇る朝日。

絶景。
この世のものとは思えぬ絶景が、そこにはあった。
その優しい朝日が、俺に「ここで生きていいんだ」といってくれている様な気がした。

「すごいな」
「アイ!」

新しい一日がはじまる。





「……イトさーん」

少し離れたところから、俺の名前を呼ぶ声がする。
その声で、やっと意識が覚醒した。
いったいどれくらいの時間見とれていたのだろうか。もうすでに朝日が完全に姿を表している。

「どこにいたんですか?」
「やっとみつけた!」
「アオイちゃんも」

息を切らせ駆け寄ってきた3人。どうやら一緒にご来光を観ようと探してくれたみたいだ。

「どこって、ずっとここにいたんだけどな……」

なんとなくだが、あの神秘的な時間から今まで、ずっと夢と現の間にいたような気がする。
現にこの広くはない山頂エリアで、ずっといたはずの俺を3人は見つけることはできなかった。

「それより、探させて悪かったね。ご来光は観れたの?」
「はい、少し暗い内に頂上に登ってきたんですけど、サイトさんが見当たらなくて、気付いたら明るくなってきたから、仕方なく3人で観ました」

マリーがそう言う。不可抗力とはいえ、悪いことしたな。

「よかった。せっかくだから君たちにも観て欲しかったんだ」
「とっっても、綺麗でしたね!」
「すごかったー」
「神秘的で、圧倒されました」

よほど感動したのだろう、朝早くにもかかわらずテンション高く声も弾んでいる。

「ご来光を観たことで悟ったとか、人生観が変わったっていう人は、けっこういるみたいだね」

かつて生きていた世界でもそうだった。
何かを変えるために山に登る人がいたし、山野に登り修行を積む山伏の間では、ご来光は信仰の対象でもあった。
たしかにあの光景には、それだけのチカラがあるというのも頷ける。

「あー、それは解るかも」
「うん」
「確かに、それだけのものだったと思います」

皆して、再び空を見上げる。
空に近い山の上では、空気が澄み、太陽の輪郭がよりくっきりと見える。
赤々と輝く朝の太陽は、観るもの全てに力を与えてくれているようだ。

「サイトさんはどーですか?」
「えっ?」
「ご来光を観た感想、1人だけまだ言ってないじゃないですか」

マリーの言葉に他の2人も頷く。
純粋な興味であると共に、自分たちの根源たる光景が、他所の人にはどのように映ったかが気になるのだ。

「ああ、うん。……そうだな。俺はたしかにここで――」


          『光』を『観』たんだ。
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