まったり異世界観光 ~観光チートで異世界を楽しみつくす~

にしん

文字の大きさ
92 / 96

91

しおりを挟む
「もうそろそろ日が昇ります。私がこうしていられる時間もあと僅か」

起きたときよりも空が白みを強め、まもなく朝を迎えようとしている。
空の果ての方には既に少しだけオレンジの明かりが見えており、それがじわじわとこちらへと拡がっていく。
神秘の濃い時間は終わり、人の時間がはじまる。
そしてそれは、大精霊との交流の終わりを意味していた。

「アオイのこと、よろしくお願いします。偶然の結果とはいえ、この時代に生まれた最も若き精霊。それを貴方に託します。貴方の側で色々な景色をみせてあげてください」

大精霊のアオイを見つめる瞳は、どこまでも優しく慈愛に満ちている。

「はい。謹んでお受けします」
「アオイも彼をよく助けるのですよ。それが古来より人と精霊との正しき在り方なのですから」
『アイ!』

アオイも力強く返事をした。
あらためてここに精霊との誓いは為った。

「どうやら、そろそろのようです」
「大精霊様……」
「アイ……」
「久しぶりにこうして話せて楽しかったです。ありがとうございました」

既に空は明るくなり始め、もう夜とはいえないぐらい。大精霊の身体も淡い光の中で薄れ掛かってきている。

「ケーラル以外にもこの世界には、素晴らしい土地や景色がたくさんあります。そうしたものを実際に観て、どうかこの世界を好きになってください。それがきっと、この世界へ呼んでくれた神への1番の恩返しとなるはずです」

優しい声色で語りかける大精霊。

「もしそれでも、貴方の中に逡巡が残るというのならば。
 世界中を巡る旅の中で、ついででもいいので、人と自然を繋ぐような役割を担ってください。このケーラルで貴方がしたように。
 そうやって世界をよりよくするのに、貢献してくれたら私としても嬉しく思います」

最後に示してくれた俺の生き方。最後まで人の心に寄り添った優しい提案。

「サイト・シーイング」
「はい」

消えゆく中で、「俺の名前」を呼ぶ。

「どうか、この世界をめいっぱい楽しんでください」

そして、日が昇る。
溢れ出す光の中に、大精霊は消えていった。
太陽が大きくなるにつれて、周りの景色も鮮明  になってくる。
ケーラルの山々と雲の海。
そして水平線の向こうから昇る朝日。

絶景。
この世のものとは思えぬ絶景が、そこにはあった。
その優しい朝日が、俺に「ここで生きていいんだ」といってくれている様な気がした。

「すごいな」
「アイ!」

新しい一日がはじまる。





「……イトさーん」

少し離れたところから、俺の名前を呼ぶ声がする。
その声で、やっと意識が覚醒した。
いったいどれくらいの時間見とれていたのだろうか。もうすでに朝日が完全に姿を表している。

「どこにいたんですか?」
「やっとみつけた!」
「アオイちゃんも」

息を切らせ駆け寄ってきた3人。どうやら一緒にご来光を観ようと探してくれたみたいだ。

「どこって、ずっとここにいたんだけどな……」

なんとなくだが、あの神秘的な時間から今まで、ずっと夢と現の間にいたような気がする。
現にこの広くはない山頂エリアで、ずっといたはずの俺を3人は見つけることはできなかった。

「それより、探させて悪かったね。ご来光は観れたの?」
「はい、少し暗い内に頂上に登ってきたんですけど、サイトさんが見当たらなくて、気付いたら明るくなってきたから、仕方なく3人で観ました」

マリーがそう言う。不可抗力とはいえ、悪いことしたな。

「よかった。せっかくだから君たちにも観て欲しかったんだ」
「とっっても、綺麗でしたね!」
「すごかったー」
「神秘的で、圧倒されました」

よほど感動したのだろう、朝早くにもかかわらずテンション高く声も弾んでいる。

「ご来光を観たことで悟ったとか、人生観が変わったっていう人は、けっこういるみたいだね」

かつて生きていた世界でもそうだった。
何かを変えるために山に登る人がいたし、山野に登り修行を積む山伏の間では、ご来光は信仰の対象でもあった。
たしかにあの光景には、それだけのチカラがあるというのも頷ける。

「あー、それは解るかも」
「うん」
「確かに、それだけのものだったと思います」

皆して、再び空を見上げる。
空に近い山の上では、空気が澄み、太陽の輪郭がよりくっきりと見える。
赤々と輝く朝の太陽は、観るもの全てに力を与えてくれているようだ。

「サイトさんはどーですか?」
「えっ?」
「ご来光を観た感想、1人だけまだ言ってないじゃないですか」

マリーの言葉に他の2人も頷く。
純粋な興味であると共に、自分たちの根源たる光景が、他所の人にはどのように映ったかが気になるのだ。

「ああ、うん。……そうだな。俺はたしかにここで――」


          『光』を『観』たんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...