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第2部:浮気発覚編 ~メンヘラ化待ったなし~
町小路の女 ~ライバル出現~
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「……来ない」
私は、美しく磨かれた床を爪でカリカリと引っ掻きながら呟いた。
結婚して一ヶ月。
あんなに情熱的だった兼家様の足が、パタリと遠のいたのだ。
最初の頃は毎晩のように来ていた。「君がいないと息ができない」とか言ってた。酸素ボンベか私は。
それが、三日に一度になり、五日に一度になり……今では一週間以上、顔を見ていない。
「姫様、兼家様からお文でございます」
侍女が申し訳なさそうに手紙を持ってきた。私はひったくるように受け取り、中を見る。
『最近、宮中の仕事が忙しくてね。今日も帝のお相手で抜け出せないんだ。君に会えなくて辛いよ』
「……嘘つけェ!!」
私は手紙を握りつぶして床に叩きつけた。侍女が「ひいっ」と悲鳴を上げる。
仕事? 帝のお相手?
こっちは現代の知識があるんだよ。平安貴族の仕事がそこまで激務じゃないことくらい知ってるわ!
だいたい、私の「平安SNS(侍女たちの井戸端会議ネットワーク)」によれば、彼が最近、別の場所で目撃されているという情報は掴んでいるのだ。
「とぼけるんじゃないわよ……。私のこと、ただの世間知らずの箱入り娘だと思ってるでしょ」
私は般若のような顔で立ち上がった。
平安時代の女性は、ここで「お仕事なら仕方ありませんわね、シクシク」と泣いて待つのが美徳とされている。
でも、私は倉橋あかねだ。浮気は万死に値する。
私は侍女の肩をガシッと掴んだ。
「ねえ、兼家様の牛車(=牛に引かせる車。歩いた方が速い)、最近どこに停まってるか知ってるわよね?」
「は、はい……。なんでも、『町小路』あたりにお住まいの女性の屋敷によく……」
「町小路……!」
出た。史実通りだ。
『蜻蛉日記』に出てくる最初のライバルキャラ、町小路の女。
兼家は私という本妻(正しくは正妻格の一人)がいながら、結婚してすぐにこの女のところへ通い始めるのだ。
しかも、情報によればその女、私より身分が低いらしい。
なんで? 私の方が美人だし、家柄もいいのに?
これが「釣った魚に餌はやらない」ってやつ? それとも、新鮮な獲物が常に欲しいハンター気質?
「許さない……絶対に許さない……」
私の体の中から、ドス黒いマグマのような感情が湧き上がってくるのを感じた。
これが『蜻蛉日記』名物、嫉妬の炎か。
なるほど、これは確かに日記に悪口の一つも書きたくなるわ。でも、私は書くだけじゃ気が済まない。
「現行犯逮捕は無理でも、社会的制裁を与えてやる……!」
私は現代っ子のプライドをかけて、夫へのリベンジを誓った。
待ってなさい、兼家。あんたのその甘いマスクを、恐怖で歪ませてやるわ!
私は、美しく磨かれた床を爪でカリカリと引っ掻きながら呟いた。
結婚して一ヶ月。
あんなに情熱的だった兼家様の足が、パタリと遠のいたのだ。
最初の頃は毎晩のように来ていた。「君がいないと息ができない」とか言ってた。酸素ボンベか私は。
それが、三日に一度になり、五日に一度になり……今では一週間以上、顔を見ていない。
「姫様、兼家様からお文でございます」
侍女が申し訳なさそうに手紙を持ってきた。私はひったくるように受け取り、中を見る。
『最近、宮中の仕事が忙しくてね。今日も帝のお相手で抜け出せないんだ。君に会えなくて辛いよ』
「……嘘つけェ!!」
私は手紙を握りつぶして床に叩きつけた。侍女が「ひいっ」と悲鳴を上げる。
仕事? 帝のお相手?
こっちは現代の知識があるんだよ。平安貴族の仕事がそこまで激務じゃないことくらい知ってるわ!
だいたい、私の「平安SNS(侍女たちの井戸端会議ネットワーク)」によれば、彼が最近、別の場所で目撃されているという情報は掴んでいるのだ。
「とぼけるんじゃないわよ……。私のこと、ただの世間知らずの箱入り娘だと思ってるでしょ」
私は般若のような顔で立ち上がった。
平安時代の女性は、ここで「お仕事なら仕方ありませんわね、シクシク」と泣いて待つのが美徳とされている。
でも、私は倉橋あかねだ。浮気は万死に値する。
私は侍女の肩をガシッと掴んだ。
「ねえ、兼家様の牛車(=牛に引かせる車。歩いた方が速い)、最近どこに停まってるか知ってるわよね?」
「は、はい……。なんでも、『町小路』あたりにお住まいの女性の屋敷によく……」
「町小路……!」
出た。史実通りだ。
『蜻蛉日記』に出てくる最初のライバルキャラ、町小路の女。
兼家は私という本妻(正しくは正妻格の一人)がいながら、結婚してすぐにこの女のところへ通い始めるのだ。
しかも、情報によればその女、私より身分が低いらしい。
なんで? 私の方が美人だし、家柄もいいのに?
これが「釣った魚に餌はやらない」ってやつ? それとも、新鮮な獲物が常に欲しいハンター気質?
「許さない……絶対に許さない……」
私の体の中から、ドス黒いマグマのような感情が湧き上がってくるのを感じた。
これが『蜻蛉日記』名物、嫉妬の炎か。
なるほど、これは確かに日記に悪口の一つも書きたくなるわ。でも、私は書くだけじゃ気が済まない。
「現行犯逮捕は無理でも、社会的制裁を与えてやる……!」
私は現代っ子のプライドをかけて、夫へのリベンジを誓った。
待ってなさい、兼家。あんたのその甘いマスクを、恐怖で歪ませてやるわ!
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