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第1部:新婚編 ~王子様は詐欺師?~
幕間1
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「……んっ……」
ガクン、と首が落ちる衝撃で、私は目を覚ました。
「起きたか、倉橋」
目の前には、呆れた顔をした由佳里先生が立っていた。
「へ……?」
教室。机。黒板。
私は慌てて口元を拭った。よだれは垂れてない、よかった。
「幸せそうな顔で寝ていたが、いい夢でも見ていたか?」
先生が意地悪く聞いてくる。クラスのみんながクスクス笑っている。
「い、いえ! 寝てません! 目を閉じて歴史の深淵を覗いていただけです!」
私は必死に取り繕った。
嘘だ。ガッツリ見てた。しかも超リアルな新婚初夜の夢を。
思い出すだけで顔が熱くなる。夢の中の感覚――お香の香りや、兼家様の手の感触――があまりに鮮明すぎて、直視できない。
「ふむ。歴史の深淵か。ならば聞くが、平安時代の『通い婚』において、女性の立場はどうだったと思う?」
先生は教卓に戻りながら問いかけた。
私は、夢の中の疲労感を思い出しながら答えた。
「……体力勝負、ですか?」
「は?」
先生が目を丸くした。教室がドッと沸く。
「い、いや! 違います! 待つ身の辛さ、です!」
私は慌てて訂正した。
「そうだ。待つ身の辛さ、だ」
先生は黒板に『通い婚』と書きながら説明を続けた。
「この時代の結婚形態では、夫が妻の元へ『通う』。つまり、主導権は完全に夫にある。夫が『今日は行かない』と決めれば、妻は会うことができない。逆に『行く』と言えば、妻は拒否できない。……まあ、基本的にはな」
先生は眼鏡の位置を直しながら、冷ややかな声で言った。
「夫は複数の女性の元に通うことができる。一夫多妻制だ。妻は、夫が自分のところに来てくれるのを、ただひたすらに待つ。そして、夫の足が遠のけば、それは事実上の離婚を意味する」
「……」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
夢の中の私は、まだ新婚ホヤホヤで、兼家様からの愛を一身に受けていた。
「今夜も行くよ」という言葉に、ときめき(と腰の心配)を感じていた。
でも。
もし、彼が来なくなったら?
あんなに情熱的に求めてくれた彼が、突然プッツリと来なくなったら?
「『蜻蛉日記』の作者は、その不安定な立場に生涯苦しめられた。愛されれば愛されるほど、それを失う恐怖におびえることになる」
由佳里先生の言葉が、私の胸に重く響いた。
夢の中の兼家様は、確かに素敵だった。
でも、彼は「来る」側で、私は「待つ」側だ。
今はいい。新婚だから。
でも、もし彼が飽きたら? 他に好きな人ができたら?
私はあの広い屋敷で、たった一人、来ない人を待ち続けることになるの?
(……なんか、急に怖くなってきた)
さっきまでの浮かれた気分が、急速に冷えていくのを感じた。
でも、夢はまだ終わっていない気がする。
あのリアルな感覚。きっと、また眠ればあの世界に戻るのだ。
「倉橋、顔色が悪いぞ。保健室に行くか?」
「だ、大丈夫です……」
大丈夫じゃない。
だって、由佳里先生の解説通りなら、これから私の夢は「幸せな新婚生活」から「地獄の浮気サスペンス」に突入するってことでしょ?
待ってよ。私はハッピーエンドしか認めないわよ。
もし兼家様が浮気なんかしたら……。
私はペンを強く握りしめた。
夢の中の私が、どうか「都合のいい女」になりませんように。
そして、もし兼家様が裏切ったら、その時は……現代女子高生の意地を見せてやるしかない!
ガクン、と首が落ちる衝撃で、私は目を覚ました。
「起きたか、倉橋」
目の前には、呆れた顔をした由佳里先生が立っていた。
「へ……?」
教室。机。黒板。
私は慌てて口元を拭った。よだれは垂れてない、よかった。
「幸せそうな顔で寝ていたが、いい夢でも見ていたか?」
先生が意地悪く聞いてくる。クラスのみんながクスクス笑っている。
「い、いえ! 寝てません! 目を閉じて歴史の深淵を覗いていただけです!」
私は必死に取り繕った。
嘘だ。ガッツリ見てた。しかも超リアルな新婚初夜の夢を。
思い出すだけで顔が熱くなる。夢の中の感覚――お香の香りや、兼家様の手の感触――があまりに鮮明すぎて、直視できない。
「ふむ。歴史の深淵か。ならば聞くが、平安時代の『通い婚』において、女性の立場はどうだったと思う?」
先生は教卓に戻りながら問いかけた。
私は、夢の中の疲労感を思い出しながら答えた。
「……体力勝負、ですか?」
「は?」
先生が目を丸くした。教室がドッと沸く。
「い、いや! 違います! 待つ身の辛さ、です!」
私は慌てて訂正した。
「そうだ。待つ身の辛さ、だ」
先生は黒板に『通い婚』と書きながら説明を続けた。
「この時代の結婚形態では、夫が妻の元へ『通う』。つまり、主導権は完全に夫にある。夫が『今日は行かない』と決めれば、妻は会うことができない。逆に『行く』と言えば、妻は拒否できない。……まあ、基本的にはな」
先生は眼鏡の位置を直しながら、冷ややかな声で言った。
「夫は複数の女性の元に通うことができる。一夫多妻制だ。妻は、夫が自分のところに来てくれるのを、ただひたすらに待つ。そして、夫の足が遠のけば、それは事実上の離婚を意味する」
「……」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
夢の中の私は、まだ新婚ホヤホヤで、兼家様からの愛を一身に受けていた。
「今夜も行くよ」という言葉に、ときめき(と腰の心配)を感じていた。
でも。
もし、彼が来なくなったら?
あんなに情熱的に求めてくれた彼が、突然プッツリと来なくなったら?
「『蜻蛉日記』の作者は、その不安定な立場に生涯苦しめられた。愛されれば愛されるほど、それを失う恐怖におびえることになる」
由佳里先生の言葉が、私の胸に重く響いた。
夢の中の兼家様は、確かに素敵だった。
でも、彼は「来る」側で、私は「待つ」側だ。
今はいい。新婚だから。
でも、もし彼が飽きたら? 他に好きな人ができたら?
私はあの広い屋敷で、たった一人、来ない人を待ち続けることになるの?
(……なんか、急に怖くなってきた)
さっきまでの浮かれた気分が、急速に冷えていくのを感じた。
でも、夢はまだ終わっていない気がする。
あのリアルな感覚。きっと、また眠ればあの世界に戻るのだ。
「倉橋、顔色が悪いぞ。保健室に行くか?」
「だ、大丈夫です……」
大丈夫じゃない。
だって、由佳里先生の解説通りなら、これから私の夢は「幸せな新婚生活」から「地獄の浮気サスペンス」に突入するってことでしょ?
待ってよ。私はハッピーエンドしか認めないわよ。
もし兼家様が浮気なんかしたら……。
私はペンを強く握りしめた。
夢の中の私が、どうか「都合のいい女」になりませんように。
そして、もし兼家様が裏切ったら、その時は……現代女子高生の意地を見せてやるしかない!
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