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第1部:新婚編 ~王子様は詐欺師?~
初夜はドキドキ! でも3日通わないと無効!?
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そして、ついにその夜がやってきた。
結婚の儀式。といっても、現代のような教会や神社での式ではない。
男が女の家に忍んでくる。それを三日間繰り返して、初めて正式な結婚と認められるのだ。
つまり、今夜が初夜。
「ひ、姫様、もう兼家様がいらっしゃるお時間です……!」
侍女たちがバタバタと部屋を出ていき、広い部屋に私一人だけが残された。
明かりは、几帳の陰に置かれた小さな灯台の火だけ。
薄暗い。そして、静かすぎる。
急に心臓がバクバクしてきた。
(ま、待って。心の準備が……!)
中身は現代の女子高生、しかも恋愛経験ゼロの清らかな体。
知識としては知っている。保健体育で習ったし、昨晩こっそり読み返した乙女ゲームのR-18版特典小説の知識もある。
でも、実践は初めて。しかも相手は、顔も(遠くからチラッと見た以外は)まともに見たことのない男性。
いくら文のやり取りで心を通わせたとはいえ、いきなり本番!? ハードル高すぎない!?
ガタッ。
かすかな物音がした。
闇の中に、男性のシルエットが浮かび上がる。
漂ってくるのは、なんとも言えない高貴なお香の香り。平安貴族特有の、焚き染められた香りだ。それが妙に艶めかしくて、私の思考を麻痺させる。
低く、甘い声が私の名を呼んだ。
耳元で囁かれただけで、背筋がゾクゾクっと震える。いい声すぎる。声優になれる。
私が硬直していると、彼は音もなく近づいてきた。
微かな灯りに照らされたその顔を見て、私は息を呑んだ。
(イケメン……!!)
切れ長の目、スッとした鼻筋、優しげな口元。まさに絵巻物から抜け出てきたような貴公子。クラスのモテ男子の100倍、いや1000倍は顔がいい。
「待ち焦がれたよ。やっと、君に会えた」
兼家様はそう言うと、震える私の手を優しく取った。
その手は意外なほど大きくて、熱かった。
「あ……」
声が出ない。
何を言えばいいの? 「はじめまして」? 「お手柔らかに」? いや、雰囲気ぶち壊しだろ。
私の混乱をよそに、彼は慣れた手つきで私を引き寄せた。
何枚も重ねた着物が、衣擦れの音を立てる。シュル、シュル……という絹の擦れる音が、静寂な闇の中でやけに大きく響く。
「怖がらなくていい。全て私に任せて」
彼はそう囁くと、私の抵抗を封じるように、ゆっくりと、でも力強く私を押し倒した。
唇が重なる。
ファーストキスだ。レモンの味はしなかった。代わりにお香と、大人の男の味がした。
頭の中が真っ白になる。
これが、平安貴族……。これが、大人の恋……。
彼の指先が着物の合わせ目から入り込み、肌に触れる。その指の動きは魔法のように巧みで、私の体から力を奪っていく。
「んっ……」
思わず漏れた声に、彼が満足そうに低く笑った気配がした。
恥ずかしい。でも、逃げられない。
重なる体温。荒くなる吐息。
暗闇だからこそ研ぎ澄まされる感覚。
私は、自分が溶けてなくなってしまうような、そんな不思議な感覚に溺れていった。
ああ、もうどうにでもして――
***
翌朝。
小鳥のさえずりで目が覚めた。
隣を見ると、もう兼家様の姿はなかった。
平安時代の通い婚では、男は夜明け前に帰るのがマナーだ。「後朝の別れ」といって、余韻に浸る暇もなく帰宅し、すぐに「昨夜はよかったね」という手紙(後朝の文)を送るのがルールなのだ。
「ひ、姫様……大丈夫でございますか?」
侍女がお湯を持って入ってきた。私の乱れた姿を見て、顔を赤らめている。
私も自分の姿を見て、昨夜の記憶がフラッシュバックして顔から火が出そうになった。
全身が痛い。特に腰が。
初めてだから優しくしてねって言えなかった私が悪いんだけど、兼家様、ちょっと情熱的すぎませんかね!?
体力お化けかよ!
「おめでとうございます、姫様。これで一日目が無事に終わりましたね」
侍女がニコニコしながら言う。
「……いちにちめ?」
私はポカンと聞き返した。
「はい。今夜も、明日の夜も、兼家様はいらっしゃいますよ。『三日夜の餅』を召し上がるまでは、毎晩通われるのが習わしですから」
三日夜の餅。
結婚成立の儀式として、三日目の夜に新郎新婦で餅を食べる儀式。
つまり、それまでは……。
「え、これ、あと二日連続でやるの?」
私は思わず素の声で叫んでしまった。
「もちろんでございます。新婚様ですから!」
嘘でしょ。
腰が砕けるわ!
平安時代の女性って、こんなスパルタな通過儀礼を乗り越えてたの!?
「待つ女」がどうこう言う前に、まず体力勝負なんですけど!
その日の昼前、兼家様から早速手紙が届いた。
『昨夜の君は、月よりも美しかった。今夜が待ち遠しくて、仕事が手につかないよ』
達筆な文字に、情熱的な愛の言葉。
昨日の私なら「キャーッ!」と舞い上がっていただろう。
でも、今の私は、その手紙を読みながら、ちょっとだけ引きつった笑みを浮かべていた。
「……今夜もするんだ、元気すぎる、兼家君……」
幸せなんだけど、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、「平安貴族の恋愛って、意外と体育会系かも」と思い始めた新婚初日の朝だった。
結婚の儀式。といっても、現代のような教会や神社での式ではない。
男が女の家に忍んでくる。それを三日間繰り返して、初めて正式な結婚と認められるのだ。
つまり、今夜が初夜。
「ひ、姫様、もう兼家様がいらっしゃるお時間です……!」
侍女たちがバタバタと部屋を出ていき、広い部屋に私一人だけが残された。
明かりは、几帳の陰に置かれた小さな灯台の火だけ。
薄暗い。そして、静かすぎる。
急に心臓がバクバクしてきた。
(ま、待って。心の準備が……!)
中身は現代の女子高生、しかも恋愛経験ゼロの清らかな体。
知識としては知っている。保健体育で習ったし、昨晩こっそり読み返した乙女ゲームのR-18版特典小説の知識もある。
でも、実践は初めて。しかも相手は、顔も(遠くからチラッと見た以外は)まともに見たことのない男性。
いくら文のやり取りで心を通わせたとはいえ、いきなり本番!? ハードル高すぎない!?
ガタッ。
かすかな物音がした。
闇の中に、男性のシルエットが浮かび上がる。
漂ってくるのは、なんとも言えない高貴なお香の香り。平安貴族特有の、焚き染められた香りだ。それが妙に艶めかしくて、私の思考を麻痺させる。
低く、甘い声が私の名を呼んだ。
耳元で囁かれただけで、背筋がゾクゾクっと震える。いい声すぎる。声優になれる。
私が硬直していると、彼は音もなく近づいてきた。
微かな灯りに照らされたその顔を見て、私は息を呑んだ。
(イケメン……!!)
切れ長の目、スッとした鼻筋、優しげな口元。まさに絵巻物から抜け出てきたような貴公子。クラスのモテ男子の100倍、いや1000倍は顔がいい。
「待ち焦がれたよ。やっと、君に会えた」
兼家様はそう言うと、震える私の手を優しく取った。
その手は意外なほど大きくて、熱かった。
「あ……」
声が出ない。
何を言えばいいの? 「はじめまして」? 「お手柔らかに」? いや、雰囲気ぶち壊しだろ。
私の混乱をよそに、彼は慣れた手つきで私を引き寄せた。
何枚も重ねた着物が、衣擦れの音を立てる。シュル、シュル……という絹の擦れる音が、静寂な闇の中でやけに大きく響く。
「怖がらなくていい。全て私に任せて」
彼はそう囁くと、私の抵抗を封じるように、ゆっくりと、でも力強く私を押し倒した。
唇が重なる。
ファーストキスだ。レモンの味はしなかった。代わりにお香と、大人の男の味がした。
頭の中が真っ白になる。
これが、平安貴族……。これが、大人の恋……。
彼の指先が着物の合わせ目から入り込み、肌に触れる。その指の動きは魔法のように巧みで、私の体から力を奪っていく。
「んっ……」
思わず漏れた声に、彼が満足そうに低く笑った気配がした。
恥ずかしい。でも、逃げられない。
重なる体温。荒くなる吐息。
暗闇だからこそ研ぎ澄まされる感覚。
私は、自分が溶けてなくなってしまうような、そんな不思議な感覚に溺れていった。
ああ、もうどうにでもして――
***
翌朝。
小鳥のさえずりで目が覚めた。
隣を見ると、もう兼家様の姿はなかった。
平安時代の通い婚では、男は夜明け前に帰るのがマナーだ。「後朝の別れ」といって、余韻に浸る暇もなく帰宅し、すぐに「昨夜はよかったね」という手紙(後朝の文)を送るのがルールなのだ。
「ひ、姫様……大丈夫でございますか?」
侍女がお湯を持って入ってきた。私の乱れた姿を見て、顔を赤らめている。
私も自分の姿を見て、昨夜の記憶がフラッシュバックして顔から火が出そうになった。
全身が痛い。特に腰が。
初めてだから優しくしてねって言えなかった私が悪いんだけど、兼家様、ちょっと情熱的すぎませんかね!?
体力お化けかよ!
「おめでとうございます、姫様。これで一日目が無事に終わりましたね」
侍女がニコニコしながら言う。
「……いちにちめ?」
私はポカンと聞き返した。
「はい。今夜も、明日の夜も、兼家様はいらっしゃいますよ。『三日夜の餅』を召し上がるまでは、毎晩通われるのが習わしですから」
三日夜の餅。
結婚成立の儀式として、三日目の夜に新郎新婦で餅を食べる儀式。
つまり、それまでは……。
「え、これ、あと二日連続でやるの?」
私は思わず素の声で叫んでしまった。
「もちろんでございます。新婚様ですから!」
嘘でしょ。
腰が砕けるわ!
平安時代の女性って、こんなスパルタな通過儀礼を乗り越えてたの!?
「待つ女」がどうこう言う前に、まず体力勝負なんですけど!
その日の昼前、兼家様から早速手紙が届いた。
『昨夜の君は、月よりも美しかった。今夜が待ち遠しくて、仕事が手につかないよ』
達筆な文字に、情熱的な愛の言葉。
昨日の私なら「キャーッ!」と舞い上がっていただろう。
でも、今の私は、その手紙を読みながら、ちょっとだけ引きつった笑みを浮かべていた。
「……今夜もするんだ、元気すぎる、兼家君……」
幸せなんだけど、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、「平安貴族の恋愛って、意外と体育会系かも」と思い始めた新婚初日の朝だった。
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