帰りたい場所

小貝川リン子

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第二章 永い回想

第二章② ⚠︎

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 劉哉の指示で、他の男は退散した。
 
「うわぁ、鶫くん、どろっどろやん。お布団もぐっちょぐちょやし。おもらししたん?」
「司。オマエ、どこから聞いとった」
「どこって? よう分からへん。鶫くんのこれ、どないしたん? 劉哉くんがしたんやんな? これも躾なん?」
「オマエな……このこと、家の誰にも言うなよ」
「このことって?」
「せやから、オレやアイツらがこいつにしとったこと」
「言わへん言わへん」
「ご当主……お父ちゃんにも言うなよ」
「言わへんて。それより、ぼくもしてみたいねんけど」
「してみたい?」
「劉哉くんたちが鶫くんにしとったこと」
「はァ~?」
 
 劉哉は大袈裟に溜め息を吐く。
 
「オマエな~、自分がいくつや思てんねん」
「年齢関係あらへんやん。ぼくもちんちんおかしいねん。鶫くんのせいや」
「……ほな、特別に貸したる。二人だけの秘密やからな。みんなには内緒やで」
 
 斯くして、司は鶫に初体験を捧げることになる。
 
 *
 
「な~、ほんまに入れてええの?」
「ええって。したいんやろ」
「したいけどぉ。噛まへん?」
「噛まへん噛まへん。よう躾けられとるさかい」
 
 司は、鶫の口にそっと性器を近付けた。
 
「鶫くぅん。して?」
 
 鶫が薄く口を開く。赤い舌が伸びてきて、ぺろ、と先端を舐めた。
 
「ぴゃっ!?」
 
 司は思わず腰を引いた。手で触るのともまた違う、初めて知る感覚だった。
 
「あ、あかんこれ。ちんちん溶けてまう」
「まだまだお子ちゃまやなぁ、司は」
「しゃ、しゃあないやん! 笑わんといて!」
 
 司はもう一度、鶫の口に性器を近付けた。
 
「鶫くぅん。もっかいしてぇ?」
 
 怖々と、先端を唇にくっつける。ぷっくりとした唇の感触が伝わってきて、ぞくぞくした。
 鶫の口が再び開く。赤い舌が伸び、司のそれを下から上へべろりと舐め上げた。電流が走ったように体が痺れたが、司は逃げずに踏ん張った。すると、鶫はもう一度、何度も、ぺろぺろと司のそれを舐めてくれた。
 
「うひゃ、あっ、ひゃぁ、あかんこれ、あかん、あっ、あっ」
「気持ちええか」
「うんっ、んっ、きもちえ! あかんこれ、ほんま、ちんちん溶けるぅ」
「うまいもんやろ。さすがは犬っころや」
「これ、劉哉くんがしつけたん?」
「オレ……っちゅーか、もっと上の人らが躾けたんや。オレらはただおこぼれに与っとるだけ」
「鶫くん、そないにぼくのちんちんおいしいん? チューチューペロペロして、アイス食うてるみたいやん」
「犬にアイスはあかんやろ」
「ドッグフードがあるんやから、ドッグアイスもあるんとちゃうん?」
「司、今度買うてきたれや」
「いややぁ。無駄遣いしたら怒られるもん」
 
 鶫が、司のものをぱくりと口に含んだ。司は、ビクッと腰を震わせる。
 
「あ、あっ、それあかん。そないに吸うたら、あっ、なんか出る、おしっこ出てまうよぉ」
「お~、出せ出せ」
「ほ、ほんま? ええの?」
「たぶん小便やあらへん。もしそうでも、こいつの口や。問題あらへんやろ」
「えっ、え~っ、ほんまにええのぉ?」
 
 鶫の熱く滑らかな舌がねっとりと絡み付く。まるで搾り取られるようだ。司は我慢ができなくなり、鶫の髪を乱暴に掴んで押さえ付け、無我夢中で腰を振るった。ついさっきまで式神を通して天井裏から熱心に観察していた、あの若い男達と同じ姿になっていた。
 
「あっ、あっ、でる、でるよぉ! 飲んで! 鶫くん! 飲んでぇ……っ!」
 
 カクカクと動いていた腰が、ビクンッと跳ねてぴたりと止まる。おしっこ漏らしちゃった、と司は霞む視界で思った。
 
「何も出てへんやん」
 
 劉哉の声に、司の意識は浮上する。
 
「ふぇ? 出てへん?」
「ほれ、こいつの口見てみ」
 
 劉哉が鶫の顎を掴んで無理やり口を開かせる。鶫の赤い口の中は、透明な唾液が照っているだけだった。
 
「ほんまや。なんもあらへん」
「まー、オマエの歳やったら当たり前か」
「そうなん?」
「白いドロドロ、ちんちんから出たことあるか?」
「あらへん……」
「せやろ。ほれ、こっち来て見てみぃ」
 
 劉哉は鶫をうつ伏せにし、腰を高く突き出させた。尻たぶを押し広げると、縦にぱっくり割れた肛門から、白く濁った液体がどろりと溢れ出た。
 
「うわ、なんやねんこれ。鶫くんのお尻、こないなってるん?」
「ちゃうちゃう。これはオレの子種。たっぷり注いだったんや」
「こだね?」
「赤ちゃんの素や。ええか司。よう見とき」
 
 劉哉は鶫の尻を掴むと、赤く腫れた穴に自身を突き刺した。真っ白でつるんとした司のものとは全然違う、赤黒くて血管が浮き出ている凶悪なブツだ。
 
「ぅっ……ぐ、……っ」
 
 鶫は敷布を握りしめて呻いた。
 
「鶫くん、しんどそうやで? ええの?」
「ええのええの。しんどなかったら躾にならへんやん。それになぁ、こう見えて喜んでんねんで、こいつ」
「そうなん?」
 
 劉哉は鶫の尻を乱暴に掴んだ。指が肉に食い込む。激しく腰を振り、赤黒いブツを出し入れする。
 白濁の粘液が掻き混ぜられて泡立っているらしく、グチュグチュグチョグチョと酷い音がした。奥まで勢いよく突き入れると、劉哉の下腹と鶫の尻が激しくぶつかって、平手で殴ったような乾いた音が響く。
 
「うっ、っぐ……、んっ、ぅう」
 
 劉哉に揺さぶられ、突き上げられて、鶫は途切れ途切れに呻き声を発する。歯を食い縛り、唇を噛みしめて声を押し殺そうとするが、どうしようもなく押し出されるように声が漏れる。
 
「鶫くんはわんちゃんやさかい、こないなカッコもよう似合うね」

 獣じみた四つん這いで獣のように呻く鶫の頭を、司は優しく撫でた。

「お利口なわんちゃんや、鶫くんは。ぼくのももっかいしてぇや」
 
 司は、劉哉がするのを真似て、鶫の口に自身を突き刺した。鶫の頭をがっちり掴んで、激しく腰を振る。
 
「あはっ、なんやこれ、自分で動く方が気持ちええ!」
「さすがガキは復活が早いな」
「それ褒めてるん?」
「子種が出えへん方が、勃起が長持ちすんねん。お得やな」
「でもぼくも子種出したい。鶫くんに飲んでほしいねん」
「どうせそのうち出るようになるんやから、その時いっぱい注いだったらええ。中にいっぱい出したったら、こいつも犬から人間に進化できるかもしれへんで」
「そうなん? ぼくがんばるさかい、鶫くん待っとってや」
「術者の子種は霊力の塊や。おらおら、ありがたく飲み干せよっ!」
 
 劉哉は、一際激しく腰を打ち付けた。鶫は、ビクンッと体を強張らせる。長い睫毛が微かに震えて、瞳に濁った光が滲む。
 
「鶫く……」
 
 鶫は目だけで司を見た。まるで閃く刃のような鋭利な眼差しに貫かれ、司は呆気なく達してしまった。
  
 
 部屋までは劉哉が送ってくれた。
 
「みんなには絶対に内緒やぞ」

 と何度も念を押されたが、他の誰にも言うはずがない。司は、鶫を自分だけのものにしたかった。
 
 *
 
 観察を始めてみて初めて分かったが、鶫はほとんど毎日のように誰かしらの相手をしていた。烏兎――梔子家直属の戦闘集団――の若い衆や、女中の婆さん、立場ある爺さん連中まで。
 司が驚いたのは、陰陽五家の会合が梔子家で行われた日の晩である。どの家からの客人かは知らないが、複数の人影が次々に鶫の庵を訪れた。また、どこぞの政治家か芸能人か、得意先を接待する宴が催された日にも、鶫の庵を訪れる者は後を絶たなかった。
 何ということだろう。司は大いに焦った。鶫を自分だけのものにしておきたいのに、現状は理想と程遠い。鶫は、梔子家はおろか、陰陽界全体、ひいては国家規模で愛されるペットなのだ。ライバルが多すぎて、今の司の力では鶫を手に入れることは叶わない。
 
「鶫くぅん、他の人とするんやめてぇや」
 
 鶫にしゃぶってもらいながら、司は甘えて言った。誰とも鉢合わせにならないよう、隙を見て庵に通っている。
 
「鶫くぅん、聞いてるん? 昨日もしとったやん? あの、嫁はんが妊娠中の」
「……悪趣味なガキ」
「鶫くん、怒ってるん? ええよ、許したる。ぼく、鶫くん大好きやさかい」
「やめてほしいなら、お前があいつらにやめさせてみろ」
「え~、ぼくが? できひんよ」
「当主様のご子息だろ。これしきのことができねぇのか」
「そやけど、お偉いさん方のことやもん。口出しできひん」
 
 鶫はまた黙り込んで、司のそれをしゃぶる。初めての時よりは刺激が強くない。司が慣れたせいだろうか。
 
「鶫くん、ぼくがやめさせたったら嬉しいん?」
「……」
「みんながしいひんようになったら、鶫くん、ぼくのものになってくれるん?」
「……ならない」
「なんでぇ!? 何があかんの? このぼくがこないに言うたってるのに!」
「……」
「あっ、あっ、ちょおっ、そないに吸うたら、吸うたらあかんってっ!」
 
 司はぐったりと四肢を投げ出した。四畳半の狭い部屋だが、天井は高い。出入口は一つだけだが、明り取りの障子窓はいくつかある。しかし室内は昼間でも薄暗く、むっと鼻につく精のにおいが充満している。
 
「……せやったら、ぼくが当主になったら、もっとええとこ住まわしたる。こないな犬小屋やのうて、ぼくのお部屋のお隣の、お庭がよう見えるおっきいお部屋貸したるさかい。ほんならぼくのものになる?」
「……」
「なぁ~、聞いてるん?」
「終わったんだから帰れ」
「なんでそないいけず言うん? 口の次はお尻に挿れたいねん。こっち向けてぇや」
「……」
 
 司は鶫の着流しを捲り上げる。式神を通じて毎日のように観察しているが、やはり本物は一味も二味も違う。
 
「顔が見えるんもええけど、わんちゃんみたいなんも可愛らしゅうてええね。よう似合うとるよ、鶫くん」
「……」
「挿れるね」
「……」
 
 司とする時、鶫は静かなものだ。敷布を握りしめて呻いたり、布団の上で藻掻いたりしない。ただ静かに、司が突くのに合わせて鈴のように体を揺らす。
 
「……お前、いつまでこんなこと続ける気だ」
「いつまでって? ずっとやん」
「……仮にも次期当主だろ。いつまでも俺みたいなのに構ってるとパパが泣くぞ」
「なんでパパが泣くん? 分からへん。ぼくはぼくやし、パパはパパや」
「……」
「ねぇ~、鶫くん。ぼく、絶対当主になったるさかい、ぼくだけのもんになってぇや。大事にしたるよ?」
「……ならない」
「なんでよぉ。いけずぅ」
 
 司は鶫を抱きしめた。短い腕では、ただ抱きつくのが精一杯である。鶫の背中に頬をくっつけて、深呼吸して匂いを嗅いだ。仄かに汗が香った。
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