山の子ども

小貝川リン子

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2 高校編

2 初夏‐① 連休中に遊んだ

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 ゴールデンウィークは家族と遠出したり、犬をドッグランへ連れていって走らせたり、友達と漫画読んだりゲームしたり、カラオケやバッティングセンターへ行って遊んだりと、それなりに忙しく過ごした。
 
 ある晩、部屋で勉強をしていて、ふと瑞季の顔を思い出した。しばらく会っていない。連休前に学校で会って以来、電話もしていない。急に懐かしくなった。
 
 瑞季は学校ではほとんど誰とも話さず、昼休みには弁当も食わずに本を読み、部活や同好会に入る気配もなかった。それでも俺が話しかければ答えるし、一緒に帰ろうと誘えばついてきた。二人きりになるとよく喋ったし、毎回別れを惜しんだ。
 
 連休中は他のことで忙しく、向こうからも誘ってこなかったのでほったらかしにしていたが、なんだか急に会いたくなった。休日はまだあと一日残っている。夜遅くに電話を掛けるのはマナー違反だろうかと思いつつ、通話ボタンを押した。
 
「もしもし……柊也か?」
 
 電話越しの声はやっぱり少し掠れている。
 
「うん、俺だけど」
「こんな時間にどうした。もう寝る時間だろ」
「いや、俺はまだ……もしかして寝るところだった?」
「おれもまだ寝ない」
「そうか、よかった」
「何か用事でも?」
「いや別に……お前が今何してるのか気になって」
 
 電話の向こうの声が黙る。
 あ、俺今変なこと言ったかも。友達同士でこんなこと、普通言わないよな。他のやつには絶対言わない。どうしちゃったんだろう。すごく変だ。
 
「ごめん、今のは」
「嘘か?」
「ってわけじゃないけど」
「おれに会いたくなった?」
 
 何てことない風に瑞季は言ったが、まさにその通り図星であったので、どきっとしてしまう。
 
「いや、うん……そうかも。なんか、ずっと会ってないような気がして」
「大袈裟だな。三、四日くらいで」
「ごめん。おかしいな、俺」
「おれも同じだ。ちょうどお前のこと考えてた」
 
 今度は胸がキュンと鳴る。何だ、キュンって。意味がわからない。
 
「ずっとお前を思ってた」
「待て待て待て待て、何、そういうの誰にでも言ってんの?」
「言うわけないだろ。お前としか電話しない」
「そういう意味じゃなくて……」
 
 おかしいのは俺だけか。俺としか電話しないって聞いて、喜んでる。ほっとしてる。やっぱりおかしい。こいつのことを思うなら、俺以外のやつとも仲良くしろよって言うべきなのに。
 
「それで? 何か用があるんだろ」
「あ、あぁ、うん。明日、もし暇なら遊べねぇかなーって。忙しいならいいけどさ」
「ん、いいぞ。明日はお前がうちに来いよ。深山神社のそばだ」
 
 鳥居前のバス停で待ち合わせることになった。そうと決まれば勉強なんかしてる場合じゃない。明日のためにさっさと寝よう。
 
 
 翌朝、休日にも係わらずめちゃくちゃ早起きしてしまった。父さんも母さんもまだ寝ている。朝の子供向けアニメを一人で見ながら、インスタントコーヒーとマーガリンを塗ったトーストで朝食にした。
 
 女子だったら着ていく服に悩んだり、気合入れてメイクしたり髪を巻いたりと色々やることがあるのだろうが、俺にはそこまでの意気込みはない。いつも通り、少量のワックスで適当に毛先を整えるだけである。
 
 服装には少し悩んだが、そもそもあまり数を持っていないのだった。結局いつもと変わらず、白Tシャツにジーンズという恰好に落ち着く。だけど瑞季はきっと着物で来るのだろうから、俺だけ奇抜な恰好をしても目立つだろうし、これくらいがちょうどいいはずだ。
 
 ちらちらと何度も時計を確認する。遅れるわけにはいかないがあまり早く着きすぎても格好がつかないので、なるべく時間ぴったり、できれば五分前くらいに着いておきたい。そのために逆算すると、家を出るにはまだ早い。そのうち母さんが起きてきて、俺と同じようにインスタントコーヒーを淹れる。
 
「珍しく早いわね。出かけるの?」
「うん。友達と会う」
「昨日も遊んでたじゃない。名前、何だったっけ」
「昨日のは、あれは全然違ぇよ。貸してた漫画、返しに来ただけだし」
「でも結局夕方までゲームしてったでしょ」
「ゲームじゃなくて漫画読んでただけ」
「同じようなもんよ。あんた、どうせまた漫画貸したんでしょ」
「いいだろ、別に。俺も色々借りてるし」
 
 母さんは父さんの分のコーヒーも淹れる。きっともうすぐ起きてくるのだろう。母さんは、俺の分は頼まなきゃ淹れてくれないけど、父さんの分は何も言われなくても自ら進んで用意をする。旦那と息子の扱いに差がある。
 
「でも、昨日来た子とは訳が違うってのは本当みたいね」
「何のこと」
「だから、今日会うお友達よ。もしかして女の子?」
「違うって。普通に男だし」
「なーんだ、残念。妙にそわそわしてるから期待しちゃったじゃない」
「何を期待したんだよ……」
「だってせっかくの高校生活じゃないの。彼女の一人くらい連れてきたって、母さん怒んないわよ。むしろどんどん連れてきなさい」
「彼女とか今は別にいらねぇし」
「そうなの? 若いのにもったいな――おはようパパ。コーヒー入ってるわよ」
 
 母さんは俺との会話を打ち切って父さんの元へ駆け寄る。俺も父さんにおはようと挨拶し、時計を見るとちょうどいい時間になっていたので、お昼はいらないからと言って家を出た。
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