山の子ども

小貝川リン子

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4 終章

1 夢

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 いつからだろうか。妙な夢を見るようになった。
 
 場所は日本で、時はおそらく戦国時代。どうも俺は武士の端くれらしく、刀を持って敵と戦っている。刀だけじゃなく、時々鉄砲を持っていることもある。鎧に血飛沫が飛んでいるから誰かしらを切ったらしいことはわかるけど、そのシーンは映されない。
 
「とにかくすごくリアルなんだよ。真剣なんて握ったこともないのに、すごく手に馴染むんだ。まるで本当にその場にいたみたいな」
 
 興奮気味に瑞季に話した。瑞季は苦虫を噛み潰したような複雑な顔をする。
 
「戦国って言ったけど、もうちょっと後かも。江戸時代かな。戦ってない時は平和そうだったし」
 
 平時は父の仕事を手伝ったり、剣や弓の稽古をしたり、本を読んで勉強したりしている。夢の中の俺は至極真面目だ。瑞季とそっくりな子供が登場することもある。その子は遊びや稽古によく付き合ってくれる。
 
「どうしてこんな夢見るんだろうな。最近毎日だぜ。日本史なんて全然詳しくないのにさ」
「そんな夢、さっさと忘れるんだ」
 
 瑞季は怖い顔をして、いつになく低い声で言った。
 
「さっさと忘れるんだ」
「そんなこと言われてもさぁ」
「お前、今の生活が大事だよな」
 
 いきなり何を言うのかと思ったが、今の生活はもちろん大事だ。
 
「家族ともうまくいってるな。友達もたくさんいる」
「? さっきから何だよ。何が言いたいの」
「将来どうしたいとかあるのか」
「しょ、将来?」
 
 いきなりそんなことを訊かれても困る。まだ詳しく考える年齢じゃない。
 
「別に、普通に院進して修士取って、普通に就職すると思うけど」
「どこに就職するんだ。何かやりたいことがあるんだろう」
「どこって……そういや、ロボット作りたくて大学入ったけど」
「じゃあそのための会社に行けばいいな」
 
 まぁそうだけど……って、何なんだこれは。瑞季の意図が全くわからない。就職相談をしたいわけじゃないんだぞ。何のつもりなんだ。と言おうとしたら、人差し指で唇をそっと押さえられた。瑞季はにっこりと笑う。
 
「だから、そんなくだらない夢のことなんて早く忘れるんだ。いいな?」
「う、ん……」
 
 なんだか、頭がぼーっとして眠くなる。瑞季の声が頭の中で反芻する。
 
「じゃあ、おれは帰る」
「……どこに?」
「家に。じゃあな」
「そっか……じゃあ、また……」
 
 茜さす瑞季の後ろ姿がどんどん小さくなる。何か大切なことを置いてきてしまったような気がするが、それが何だったのか思い出せない。
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