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第二話 血みどろ瀕死カーセックス
しおりを挟む※微グロ
たった一言、「しくじった」とだけ連絡があった。まだ夜も早い時間だったのに――闇社会の基準において、であるが――わざわざ店を閉めて駆け付けた自分はなんてお人好しなのだろう、と黒木は思う。
黒木はアザミを雇っているわけではない。あくまでも、殺しを依頼する者と殺しを請け負う者を繋ぐパイプ役をしているだけである。アザミは黒木の部下ではないし、黒木はアザミの上司でも何でもない。
だから、アザミがどこで野垂れ死のうが、本来はどうでもいいことだ。しかし、優秀な手駒と思えば失くすのは惜しい。また、万が一依頼人と請負人との間にトラブルが生じた際、それを調停するのも黒木の役目である。
だから、これはあくまでも仕事の範疇だ。トラブルの火種となりそうな事案は、早めに片付けておかなくてはならない。
「おせぇよ」
街灯一つない路地裏に、血のにおいが充満していた。アザミは脇腹を押さえてうずくまっていた。黒の仕事着がどす黒い血に染まっていたが、アザミはいつもの生意気な態度を崩さない。
「遅いったって、これでも大急ぎで来たんだぞ」
「車は?」
「とてもここまで入れねぇよ」
「あっそ。じゃ、そこに転がってるの、運んどけ」
黒木は、アザミの指した方向を懐中電灯で照らした。今回のターゲットが転がっていた。首と胴体が永久におさらばしていた。
「……しくじったって、これのことか」
今回は殺しの依頼ではなかった。ある程度痛め付けた後殺さずに回収し、依頼人の元へ届ける手筈となっていた。見せしめに何かされる予定だったのだろう。しかし、残念ながらその契約は果たされずに終わった。
「こりゃ成功報酬はなしだな」
「くそっ」
アザミは苛立たしげに舌打ちをした。
「なんで殺っちまったんだよ」
「しょうがねぇだろ。殺さねぇようにすんの難しいんだよ」
「だろうな。分かってたけどな」
「気絶させたと思ったら、まだ生きてやがった。そんでこのザマだ。いきなり刺してきやがって」
「で、ムカついて殺っちまったのか」
「殺ろうと思って殺ったわけじゃねぇよ。反射で体が動いただけだ」
「……」
アザミはこういうところがある。卓越した反射神経と身体能力を有しているのはいいが、加減を間違えるとすぐに殺してしまうのだ。ある意味不器用とも言える。
「あんた、二度と俺にこんなつまんねぇ仕事回すなよ」
「オレだって、お前向きの仕事ではねぇと思ったよ。けどな、そもそもはお前が言い出したことだろ。金がいるから、何でもいいから仕事寄越せって」
「ああ。今度デカいレースがあるんだ」
「何がレースだよ……」
黒木は死体を袋に詰め、ワゴン車の荷台に積み込んだ。完全に業務外の労働である。
「で? お前のことはどうしたらいい」
黒木が問えば、アザミは地面にうずくまったまま、不敵に笑って黒木を見上げた。
「どうって? お願いすれば、救急車でも呼んでくれんのか?」
「お前がそれでいいならな」
「お優しい黒木サンは、んなことしねぇって信じてるぜ」
「……」
「なぁ。肩貸せよ」
「……一つ貸しだからな」
ぐったりと脱力して全体重を預けてくるアザミを支えるのは、なかなか骨が折れる。筋肉の塊みたいな男だ。とにかく重い。脇腹から血が滲んで、黒木のジャケットにも黒い染みを作る。
死体を運ぶ方がまだ楽だった。停めておいた車にようやく辿り着き、黒木はドアを開ける。アザミを後部座席に寝かせ、自分は運転席へ回ろうとしたところで、いきなりネクタイを引っ張られて車内に引きずり込まれた。
「はっ――?」
抵抗する間もなく、黒木はアザミの上へ馬乗りにさせられる。アザミは長い脚を器用に使ってドアを閉めた。車内はほとんど真っ暗闇と化す。
「おま、何――」
ガチッ、と歯がぶつかった。唇が切れて、鉄の味が広がった。血を味わうように唇を舐られ、しなやかな舌がぬるりと滑り込んでくる。
「んっ……おいっ……」
起き上がろうにも、アザミの長い脚ががっちりと絡み付いて身動きできない。そうこうしている間に、下腹部から金属の擦れる音が響く。アザミが器用にも片手でベルトを外しているのだった。
黒木はアザミの舌を噛んだ。口の中は血の海であるが、アザミは瞳孔を真ん丸に開いて、鮮血と唾液を纏わせた舌をねっとりと絡ませる。
スラックスのホックを外され、ジッパーも下ろされて、とうとうアザミの手が忍び込む。下着の中に滑り込み、下生えを掻き分けて、ゆるゆるとペニスを扱かれる。
「くっ……ふふ、勃ってんじゃん」
アザミはしたり顔で囁いた。口の端に赤い舌が覗くが、それが元々の色なのか、血に染まった赤なのか、黒木には見当も付かない。
「正気か?」
「どうだかな。あんたこそ、自分が正気だって自信持って言えんのか?」
たった今、人を殺したばかりの男。ヘマをして深手を負った男。黒の仕事着がどす黒い血に濡れて、荷台には死にたてほやほやの人間が積まれ、狭い車内は窒息しそうなほど血のにおいが充満している。それでも、黒木もアザミも、生物としての本能に逆らえない。
「……途中で死ぬなよ。屍姦は趣味じゃねぇ」
「舐めんな。俺を何だと思ってやがる」
雨が降り始めていた。礫のような雨粒がボンネットを殴り付ける。窓ガラスを叩いている。激しい雨音だけが、暗闇の中に鮮明に響いていた。
アザミは下だけ裸になり、座席の背もたれを倒して寝そべった黒木の膝に跨った。黒木の肩に手を置き、片手をペニスに添えて、ゆっくりと腰を落として中へと導く。
「う゛……」
アザミは低く呻いた。ろくに慣らしもしていないそこに、硬いモノを無理矢理ねじ込んでいく。
黒木はなるべく動かず、アザミの好きにさせた。やがて、アザミはすっかり膝を折り、その全てが収まった。
「はっ、は……」
まだ動いてもいないのに、アザミは浅く忙しい呼吸を繰り返す。両手を黒木の首に回し、きつく抱きついて密着する。脇腹に湿った感覚があり、黒木は顔を顰める。
「ふ、ふ……なぁ、あんた……今なら、あんたでも俺を殺せるぜ」
強がっているのか、ただ煽り立てたいだけなのか、アザミは黒木の耳に甘く噛み付いた。耳の穴に舌を這わせて、ゆるゆると腰を動かし始める。
「んっ……ふふ……最期に、楽しんでから殺すか?」
「生憎、お前を殺しても一銭の得にもならないんでね。むしろ、儲けが減って大損だ」
「へぇ? へへ……俺は、役に立ついい犬だろ?」
「ああ。まだまだ稼いでもらわねぇと」
黒木はアザミのシャツを捲り上げた。血のにおいが濃くなった。傷口に指を食い込ませると、アザミはビクッと躰を震わせて、手負いの獣のような唸り声を漏らした。同時にナカがきつく締まり、黒木も思わず声を漏らした。
「はっ、ふ……んっ、んん……」
死にかけていても快感は覚えるのか、痛みそのものを快感と変換しているのか、それともただ本能に従っているだけか、アザミの腰付きはだんだんと激しさを増す。
腰を擦り付けるようにくねらせて、膨らんだ亀頭で奥を捏ねる。自ら好いところへ導いて愉悦に震えるアザミの姿はひどく淫靡でありながら、見るに耐えないおぞましいもののようにも感じた。
「はぁ、は……ん、ン゛……っ」
動くほどに血が滲む。傷口を押さえる黒木の手も鮮血に染まった。それでもアザミは快楽を求めて腰を振る。こんなことをしたって子孫が残せるわけではないのに、お互い不毛な行為に夢中になっている。
「ひぅ……あぁ……ッ!」
互いの腹の間で揺れる反り立ったペニスを握ってやれば、アザミは喉を引き攣らせた。こんな状態でもしっかりと勃ち上がることに生命のしぶとさを感じながら、黒木はアザミのそれを扱いた。
「あ゛っ、ん、やめ……前でイッちまう」
「イけばいいだろ」
「やっ、んん゛、ケツでイきてぇ……っ」
「言ってる場合か」
押さえた傷口がドクンドクンと脈打っている。内臓の熱が生々しく伝わってきて、あまり気持ちのいいものではない。止血のつもりでただ痛みを与えているだけに過ぎないのかもしれないが、黒木は脈動する傷口を力任せに圧迫した。
肚の奥がきゅうきゅうと収縮しているのが伝わる。亀頭部分に吸い付いて、奥へ引き込もうと必死だ。そういえば避妊具を着けていなかった、と黒木は今更になって気付いた。アザミの生の反応を味わえるのは、実は結構貴重な機会だったりする。
「っも、はな、せ……っ、いくッ――!」
物欲しげに開閉する鈴口をぐりぐり擦ってやれば、アザミはいよいよ限界に達したようだった。びゅるびゅると勢いよく白濁を飛ばしながら、真紅の血潮を溢れさせた。
だくだくと溢れ出した血はアザミの脇腹から太腿を伝って滴り落ち、黒木のスラックスはもちろん、座席のシートまでが真紅に染まった。とんでもない惨状を前にしながらも、熱烈に絡み付く誘惑には耐えられず、黒木はアザミの中で吐精した。
「はっ……ぅ……」
しばし余韻に震えていたアザミだが、突然事切れたように躰を傾けた。後頭部から倒れそうになったのを、黒木は慌てて捕まえた。だらんと弛緩した躰を支えるのは骨が折れる。アザミは半分白目を剥いていたが、たっぷりとした豊かな胸は緩やかに上下していた。
「……生きてるか?」
「……」
「おい。アザミ」
「……死んでる」
アザミはぶっきらぼうに答えた。死んだように掠れた声だった。
「そんだけ元気なら大丈夫だな」
「おっさん、耳遠いんじゃねぇの」
「十分元気じゃねぇか。うちまで持ちそうか?」
「たぶんな」
黒木は、車に積んであった厚手のタオルをアザミに投げた。アザミはそれを脇腹に押し当てて止血する。もっとも、出血はある程度落ち着いてきているが。
「こういう気の利いたモンがあるなら先に寄越せよ」
「お前がそんな隙も見せなかったんだろ」
黒木は運転席に乗り込み、バタンとドアを閉めた。
雨足は一層激しさを増し、土砂降りの様相を呈していた。フロントガラスは滝を流したようだった。ワイパーを高速で回しても、視界は水底に沈んだまま。ヘッドライトをハイビームにしても、照らし出されるのは矢のように降り注ぐ雨の影だけだ。
「……こんだけ降りゃあ、何もかも綺麗さっぱり流れちまうな」
後部座席に横たわったアザミが呟いた。
「だから心配すんな。全部うまくいく」
「……別に心配はしてねぇよ」
マンションに帰り、黒木はアザミに応急手当を施した。傷口を流水で洗い流し、消毒液をぶっかける。出血は止まっていたが、その分、生々しい傷の様子をはっきりと見ることができた。
刺し傷らしい刺し傷だった。数センチに渡ってぱっくりと開いた裂け目から、ザクロの実のような赤い肉が食み出ていた。鮮やかすぎるほど鮮やかな赤だったが、周辺の皮膚は紫を通り越してどす黒く変色しており、血の気が引くほど禍々しい。
「お前これ、本当に大丈夫なのかよ」
「大丈夫だっつってんだろ。いいから、さっさとやれよ」
「自分の状況分かってんのか……?」
黒木は、ホッチキスでアザミの傷口を綴じた。バチン、と針が刺さる度、アザミは息を詰めて身を強張らせる。握りしめたシーツに幾重もの皺が寄っている。
不格好ながらも縫合を終え、気休めにもう一度消毒液を振りかけた。清潔なガーゼを当てて傷口を保護し、包帯をぐるぐる巻いて、最後にテープで固定した。
「大袈裟すぎんだろ」
手当てが終わって安堵したのか、アザミはいつもの軽い調子で笑った。顔色は蒼白く、不健康そのものといった感じだが、表情は至って穏やかだ。
「んじゃ、後はよろしく。俺は寝る」
アザミは布団を被って横になった。
「手数料はきっちり取るからな」
「へーへー。持ってけドロボー」
「マジで悪化したら病院行けよ」
「やなこった。あいつら無限にぼってくるだろ。俺が死ぬ気で稼いだ金だぞ」
「だからって死んだら元も子もないだろ。頼むからオレのベッドで死なないでくれよ」
「死なれたくなきゃ、せいぜい飯でも持ってくるんだな。食って寝てりゃ治るんだよ、こんなもん」
「そういうもんかね」
「肉な。肉。肉肉肉」
「分かったから騒ぐな」
この先は完全に業務外かつ時間外の労働だ。黒木は深々と溜め息を吐いた。しかしどうしようもない。所有している車にいつまでも死体を載せておくわけにはいかないし、血みどろのシートをそのままにしておくわけにもいかない。
それから、ターゲットを殺してしまったことについて依頼人と話をつけなくてはならない。今回の依頼を完遂できなかったことで今後の取引に影響があるかもしれない。黒木の仕事は山積みだ。これも全てアザミのせいである。
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