そして家族になる

小貝川リン子

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プロローグ

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 クラス会が長引いて、帰りが遅くなった。同じ町に住んでいる瀬川千紘せがわちひろくんのお兄さんが、駅まで迎えに来てくれた。
 
「なぁ~、今日のメシなに?」
 
 助手席に乗った瀬川くんが言う。一呼吸置いて、「焼きそば」とお兄さんが答えた。
 
「やーった! 肉多めな」
「野菜も食え。焼肉食ってきたんじゃないのかよ」
「肉の後カラオケ行ったからよ~、腹減ってんだ。育ち盛りってやつだからな、オレぁ。なぁ、オマエもそうだよな?」
 
 瀬川くんは、いきなり後部座席を向いて僕に言った。牙のような八重歯を剥き出して、妙に愛嬌のある笑い方をする。
 
「僕は焼肉で十分だったかな」
「えッ! そーなん?」
「お前の胃袋が底なしなんだよ」
「だって颯希さつきのメシがうまいからよ~、いくらでも食えちまうんだもん。あでも、焼肉もうまかったぜ」
「何食ったんだ」
「え? えー、ん-と、確かカルビと~」
 
 瀬川くんは、声を弾ませてクラス会のことをお兄さんに話す。何を食べたとか何を飲んだとか、カラオケでは何を歌ったとかタンバリンを叩いたとか、そんな他愛もない話。
 
 学校では見たことがないくらい――学校でも快活な方ではあるけれど――無邪気に楽しそうに喋る。お兄さんの前ではこんな顔をするのか、と僕は思った。
 
「次、右でいいのか?」
 
 お兄さんに訊かれ、僕ははいと答えた。カチカチとウインカーが光り、暗い車内がぱっと明るくなる。大きくハンドルを切るお兄さんを見つめる瀬川くんの横顔が、はっきりと照らし出された。
 
 その目付きといったら、まるで恋い慕う異性を見つめるような目で。熱と憧れと、ほんのちょっとの媚びを含んだ、色っぽい眼差し。兄に向ける眼差しではない。
 
 お兄さんだと瀬川くんは言うけれど、本当はどういう関係なんだろう。今気付いたけれど、二人は顔も声も全く似ていない。お兄さんは夜に溶けるような黒髪だけど、瀬川くんは……
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