元の鞘に収まれない!

小貝川リン子

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3 初めて② ※

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 部活のない日や土日、俺は桐葉とよく遊ぶようになった。ほとんど俺が押しかける形だったけど、桐葉のおばあちゃんは快く迎えてくれたし、桐葉も何だかんだで俺と遊んでくれた。
 桐葉の部屋は二階にある。畳敷きで八畳。押し入れを開けると、大量の漫画本がダンボールに詰まっていた。
 
「お前、漫画好きなの?」
「いや……ここは元々母親の部屋で、それも」
「ああ、お母さんが読んでた本なのか」
 
 道理でラインナップが古いわけだ。古いけど、名作と呼ばれる作品たちだ。少年漫画も少女漫画もある。なかなか読み切れそうにない。
 
「好きなら貸してやる」
「ほんと!?」
「一冊十円な」
「金取んのかよ」
「……冗談だ」
「お前の冗談はわかりにくいんだよ」
 
 こんな感じで、遊ぶと言ってももっぱら漫画読んで暇を潰していたわけだ。桐葉は漫画なんか興味なさそうな顔してたくせに、俺が読み始めたら一緒に読んでいた。
 
 少しずつ、桐葉のことを知っていった。親が離婚して、母親の実家に戻ってきたらしかった。でもその母親には一目も会ったことがない。写真だって飾っていなかった。
 おばあさんはいつもよくしてくれた。毎回お茶とお菓子を出してくれる。俺の両親は留守がちなので、おばあさんが家で待っていてくれる桐葉を羨ましく思った。
 
 おばあさんは俺のことを知りたがった。桐葉よりも、俺に興味があるらしかった。でもお年寄りなので何度も同じことを聞いてくる。家族構成とか、学校での話とか。
 そのくせ、俺が桐葉の母親について尋ねるとはぐらかした。水商売をしているのではないかということだけ、何となく察することができた。
 
 ある日のことだ。梅雨明け間近の、日曜の昼間だった。外はカンカン照りだったけど、窓を開ければ風が涼しかった。俺はいつもみたいに桐葉の部屋で漫画を読んでいた。だらしなく寝そべって、足をバタバタしながら読んでいた。
 
「……あのな」
 
 桐葉がいきなり口を開く。どうしたんだよ、と俺は気のない返事を返す。今話が佳境なんだから邪魔しないでくれと思った。
 
「……真剣な話だ」
「聞いてる聞いてる」
「あのな、最近体がおかしいんだ。その……ちん、ちんこから変なのが出るんだ」
「へぇー……え!?」
 
 俺はやっと顔を上げ、桐葉を見た。顔を真っ赤にし、もじもじとうつむいている。ちんこかぁ……お前もちんこなんて言うんだな……って感傷に浸ってる場合じゃない。
 
「おい、そんな照れんなよ! こっちまで恥ずかしくなんだろ!」
「べ、べつに照れてねぇ!」
「照れてんだろ! 大体なんだよ、ちんこから変なのって。何が出るんだよ」
「だ、だから……」
 
 桐葉は言いにくそうに口をもぐもぐした。
「朝起きると……白いのが出てるんだ。毎朝じゃないけど……。変な臭いもするし、心配なんだ。ばあちゃんには言えなくて……。お前もこんな風になるのか?」
 
 なんだ。ただの朝立ちじゃないか。桐葉があんまりにも真剣な面持ちで話し出すから何のことかと身構えていたが、なんてことはない。ただ勃起して射精しただけだ。みんななる。俺もなる。心配なことなんて何一つないじゃないか。
 しかし桐葉は心配そうに、俺の答えを待っていた。こいつもしかして、オナニーも知らないのじゃなかろうか。初めてのことだからこんなに怯えているんだ。
 
「お前はならないのか?」
「……なるよ。俺もたまに、朝立ちする」
「朝立ち? これ、朝立ちって言うのか?」
「そう。お前、なんにも知らねぇんだな」
 
 すると桐葉はむっと眉を寄せる。
 
「知ってる」
「知らねぇじゃん」
「もういい。お前には何も聞かねぇ」
「えぇ~? いいのかなぁ、そんなこと言って。白いの出なくなる方法知ってるんだけどなぁ。毎朝パンツ洗うの虚しいよね。朝立ちやめたくねぇのぉ?」
「……教えろ」
 
 翻って、桐葉は俺に詰め寄った。掴みかかる勢いだった。
 
「もったいぶってねぇでさっさと教えろ」
「それが人にものを頼む態度ですかぁ?」
「お前がムカつくからだ」
「お前だってムカつくぜ。もうちょっと他に言い方があるだろ? 言ってみろよ」
 
 桐葉は大きく舌打ちをした。
 
「おし……教えてくれ」
「そうだ、それでいい。いいか? よく聞けよ」
 もったいぶって咳払いを一つ。
「普段から抜いとけばいいんだよ」
 
 得意気に言ったが、桐葉には伝わらなかったらしい。首を傾げている。
「抜く? 何を抜くんだ?」
「何を? えー、精子かな」
「精子?」
 
 精子、精子と桐葉は呟く。その後、閃いたという風に手を打った。
 
「精子ってあの精子か? 確か保健で習った――」
「あ? ああ、そうそうそれ。定期的に出してやらないと、朝とかに勝手に勃起して射精しちゃうんだ」
「……あの白い変なのが精子なのか」
 
 精子か、とまた呟く。
 
「抜き方わかるか? こう、手でシュシュっとやるんだけど」
 
 俺は指で輪っかを作り、空中で上下に動かす動作をした。
「? 何をだ」
「ちんこをだよ。ちんこ握って、シュシュってやるんだ。しばらくそうやってると精子が出る。そんで終わり」
 
 桐葉は神妙な面持ちで、俺がやったのを真似して手を動かしている。
 
「よくわからん。お前ので実践させろ」
 桐葉はいきなり飛びかかり、俺のジーンズのファスナーを下ろした。パンツまでずり下ろして、中身を取り出す。
 
「ちょっ、おい! 何してんだよ」
「お前ので試させろ。説明が下手で全くわからん」
「んなこと言ったって……」
 
 胡坐をかいた俺の股間に桐葉の顔。シュールだ。非現実的だ。桐葉は俺の息子を力任せに握り、力任せに扱いた。
 
「いっ、痛い痛い」
「はぁ? 言われた通りしてるだけだぞ」
「や、痛いってほんと。離せよ」
 
 桐葉はすごすごと引き下がる。萎えたままのちんこはパンツに仕舞う。
 
「いいか? 一回起たせてから扱くんだよ。俺がお前ので実践してやる」
 今度は俺が桐葉に飛びかかり、ズボンとパンツをずり下ろしてやった。桐葉は不安そうに腰を引く。もじもじと前を隠す。
 
「任せろよ。痛くしねぇから」
 桐葉の息子は毛が生えてなくてつるっとしており、皮を被っていた。反応していないそれをそっと揉んでみる。まさか他人のちんこを触る日が来ようとはな。女の子のアレだって見たことないのにな。
 
「どう? 痛くない?」
「ん……痛く、ない」
 
 揉んでいるうちにだんだん硬度を持ってくる。少しずつ頭をもたげる。先っちょからぬるぬるしたものが出てくる。ぬるぬるを塗り込みながら優しく皮を剥いてやった。
 
「あっ……へ、変だ、これ」
「何が?」
「うぁ……だって、変、だ……」
 
 桐葉はぺたん座りになり、手は後ろについて腰を突き出している。息が上がっているのにそれを隠そうとして苦しそうだった。桐葉のちんこは既に完立ちで、俺は自分のをする時みたいにしゅこしゅこと上下に扱いた。
 
「いっ……も、いいっ、やめ」
「だめだよ桐葉。ちゃんと見て、やり方覚えなきゃ」
 
 亀頭のところをくるくるすると、桐葉はびくっと腰を揺らした。ここ気持ちいいよね。俺も好きだよ。
 
「ひっ、やっ、いや……」
「やだ? 気持ちいでしょ。そろそろ出そ?」
「やぁぁ……わ、わかんな、あ゛っ!」
 
 びくびくと手の中のものが震えた。精液が飛んで、桐葉のシャツにかかってしまった。桐葉は力の抜けたようにぐったりとし、肩で息をしていた。
 
「これが……射精」
「そうだぞ。これからは自分で抜けよな」
「……抜く?」
「そ。オナニーっていうんだぜ。知らねぇ? あと他のやつとこういうことすんなよな。俺としたのも内緒だぜ」
 
 どうして他のやつとしてほしくないと思ったのだろう。わからないけど、普通は他人に見せるような行為じゃないんだってことを桐葉に教えておきたかったのだと思う。
 その後、我に返った桐葉に「よくも恥をかかせてくれたな」と殴られ、取っ組み合いの喧嘩になった。喧嘩の原因は口が裂けても言えなかった。
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