招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第一章

1-7 恐ろしい魔獣と戦う

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 川のせせらぎはとっくに聞こえなくなって。僕らが森の湿った枯草を踏みしめる音だけが、一足ごとにキシキシと鳴る。
 頭上の木々は葉を深く茂らせ、すっかり日の光を隠している。まだ日は高いはずなのに、もしかしたらもう夕暮れ時なのではないかと疑いそうになる。

 森の様子が変だ…… と、気が付いた。
 いくら深い森の中だといっても、どこからか鳥や獣の鳴き声が聞こえていたのに。今は風の音しか聞こえない。
 まだEランク冒険者の僕でさえ、この異常さに気付いているのだ。あの3人はとっくに警戒態勢に入っていたのだろう。
「お客さんだぜ」
 ヴィーさんが、ニヤリと悪人っぽい笑みを見せて言った。

 ざわりざわりと何か嫌な気配がこちらへ近づいてくる。ポキリと何かが木の枝を踏み折る音がした。
 すっと、当たり前のようにアリアちゃんが僕のそばに寄ってきて、服の裾を引っ張った。私たちは下がっていよう、そう伝えようとしている。できるだけ足音を立てないように、そっとセリオンさんの後ろ手まで下がった。

 ガサリと茂みが騒いだと思った途端に、巨大な魔獣が飛び出して来て、ジャウマさんに襲い掛かる。ジャウマさんは盾で受けとめたが、そのまま一緒に倒れた。
「ジャウマさん!!」
 咄嗟とっさに声が出た。つい前のめりになった僕の腕をアリアちゃんが引っ張って止めてくれた。

「慌てるな」
 ヴィーさんが静かに言った。
 と、ジャウマさんにのしかかっていた魔獣がぐぐぐと動き、次の瞬間、盾でぎ払われて吹き飛んだ。魔獣は転がりながらもすぐに攻撃体勢を取り、僕らに向けて身構える。細かい牙をきながら、低いうなり声をあげた。

 巨大な獅子ししの体、背にコウモリのような翼、年老いた人間の様にも見えるいびつな顔……
「マンティコアだ」
 まるで僕に聞かせるように、セリオンさんが言った。
 あれが、マンティコア…… 冒険者ギルドにあった本で見たことはある。でも実物はこんなにも大きくて恐ろしいのか。

 威嚇いかくをするマンティコアに向けて、ヴィーさんがクロスボウの矢を放つ。が、魔獣は飛び退いてあっけなく避けた。
 そのマンティコアの着地点を狙って、ヴィーさんがすでに次の矢を放っている。また飛び退くと、その先にも矢が飛んでくる。

 くるくると、まるで踊らされるように跳ね回らされたマンティコアが、ようやく地を足で踏みしめると、そこにジャウマさんの大剣が振り下ろされた。ぐらりと体勢を崩しかけながらもギリギリで避けたマンティコアは、今度は武器をもたないセリオンさん目掛けて飛び掛かろうとする。
 セリオンさんが静かにロッドを振り掲げると、いくつもの握りこぶし程の氷の塊が現れ、それらはマンティコアに向けてつぶての様に放たれた。

 3人の、息もつかせぬ攻撃に目を見張った。
 これがAランクの戦いなのか…… すごい……

 地に落とされ再び立ち上がったマンティコアが、ニヤリと笑った気がした。
 マンティコアが姿勢をぐっと落とす。とげの塊の付いた尾を高く振り上げたかと思うと、そこから無数の細かい何かが飛んできた。

 ダメだ……!! 避けられない!!
 アリアちゃんがぎゅっと僕にしがみつく…… 僕が守らないと!!

 急いで結界魔法を発動させる。光の壁が僕ら二人を囲うように輪の形で現れ、間一髪でマンティコアの毒針をはじき返した。
 良かった、間に合った…… ほっと息を吐いた。
 見まわすと3人も無事なようだ。ジャウマさんは盾で、セリオンさんは氷の壁で毒針を防いでいる、ヴィーさんは避けたらしく、樹上からこちらに向けて親指を立ててみせた。

「さっさと片付けよう」
 眼鏡の位置を直しながらセリオンさんが言い、3人はマンティコアをにらみつける。
 今度は3人同時に攻撃に入った。

 * * *

「いやー、あの毒針には驚いたなー」
 マンティコアの遺骸いがいを眺めながら呑気のんきそうに声をあげるヴィーさんを余所よそに、セリオンさんは僕らの体を真剣な表情で確認している。怪我がないことを確認すると、ふぅと大きくため息をいた。

「パパー」
 アリアちゃんが嬉しそうにセリオンさんにしがみつく。ようやく穏やかな表情になったセリオンさんは、アリアちゃんの頭を優しく撫でた。

 さっき、つい3人の目の前で結界魔法を使ってしまった。アリアちゃんのような子供相手ならともかく、大人相手には誤魔化ごまかしようがないじゃないか、失敗した……
 あの結界魔法は珍しいものだから隠すようにと、特別な魔法が使えることが人に知られてはいけないのだと、両親にきつく言われていたのに。

 何か言われるんじゃないかと覚悟をしていたのに、特に気にされている様子もない。ほっと胸を撫でおろしながらも、でも気を付けないとなと自分に言い聞かせた。
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