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第四章
4-6 調合の依頼
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今まで話してたのはヴィーさんの過去で、しかも死にかけた話だ。そんな風に笑って話せるような話じゃあないのに…… でも、僕はヴィーさんに何を言えばいいのかわからない。
口をぎゅっと結んでいる僕を見て、ヴィーさんが薄く微笑んだ気がした。
「まあ、今の場所に不満がなけりゃあ、そんな妙な気持ちは起きねえと思うんだけどな。でも昨日の坊主が、あそこに居ただろう?」
そこでようやくヴィーさんの意図が分かった。
盗みをしなければいけないほどに、生活が困窮しているんじゃないか、もしくは何か不満を抱えているんじゃないかと、そういったことを心配しているんだ。
「あ…… あの孤児院の子供たちは、皆明るく無邪気な子ばかりでした。お腹を空かせている様子もありませんでした。でも院長が病気だそうで、それで困っているみたいです」
そこでふと、少し前を黙って歩いていたジャウマさんが、こちらを振り返った。
「その病気の治療に、何か薬草がいるんじゃないのか?」
「あ……はい。なんでも、貴重な薬草が必要だそうで……」
「……そうか。なら明日も冒険者ギルドへ行こう」
そう言って、また黙って前を向いて歩き出す。
「そうだな。もういっちょ、稼いでくるか!」
ヴィーさんは、隣を歩く僕の背中をバンッと叩いた。
* * *
今日もいい天気だ。まさに薬草採集日和、といってしまうと、逞しさがなくてちょっと情けない。
でもお日様の光や草の香りのする爽やかな風を浴びながら、お弁当を広げて食べるのが、アリアちゃんとクーと僕との楽しみの一つになっている。だから天気の様子で一喜一憂してしまうのも仕方ないだろう。
今日も冒険者ギルドの依頼掲示板を覗き込む。
「あれ? こんな依頼、昨日もあったかなぁ?」
依頼掲示板の端っこの、目立たぬ場所にその依頼票は貼られていた。きっと昨日は他の依頼票の陰になっていて気付かなかったんだろう。
依頼票に記載されている受付日を見ると、だいぶ前から貼られていたようだ。
「これ、依頼主はあの孤児院だ」
初日に訪れた孤児院の名前と、依頼主に女性の名前。これはあの院長夫人の名前だろう。
ということは、これが院長の治療に必要な薬草なのかもしれない。
「クーリネ草……? 聞いたことのない薬草だなぁ」
以前、調合道具を買った町で、調合の本も購入した。ひととおり目は通しているし、その本に載っている薬草なら覚えがあるはずだ。でもこの名前は覚えがない。
「すみません、この依頼票にあるクーリネ草について知りたいんですけど」
「それなら、こちらの図鑑をどうぞ。ただし持ち出しは禁止なので、このギルド内で閲覧してくださいね」
身分証明にとギルドカードの提示を求められる。受付嬢の説明の通りに渡された書類にサインをして、本を借りた。
冒険者ギルドのホールの端にあるテーブルに席をとり、図鑑を開く。クーも大人しく僕の足元に体を横たえた。図鑑には索引があったので、目的のクーリネ草のページはすぐに見つけることができた。
「これ……って…… クラネ草?」
クーリネ草について書かれているページの『別名』の項目を見ると、そこにクラネ草の名前も並んでいた。クラネ草は、ここから遠く離れた僕の故郷では、まれに採集できる薬草だ。
「もしかして、地方が違うと呼び方も変わるのかな?」
しかも、この地方には自生していない、貴重な薬草だとも書かれている。
「これ、見たことあるよねぇ」
「うん、たしか持ってるはずだよ」
故郷を出てしばらくの頃に採集した物だ。クラネ草は故郷でも多くは採れない薬草なので、偶然見つけて喜んだ覚えがある。アリアちゃんも一緒に手伝ってくれたから、見覚えがあるのは当然だろう。
採集したクラネ草は、すぐにジャウマさんとヴィジェスさんが火と風で乾かしてくれた。それをアリアちゃんから貰ったマジックバッグに仕舞ってあったので、状態もとても良い。取り出して数えてみたところ、数も足りているようだ。
「この薬草採集の依頼ですが、この乾燥済みの物でも大丈夫でしょうか?」
「ええっ? もしかしてお持ちだったんですか?」
受付嬢のおねえさんに、お借りした図鑑と依頼票と一緒に並べてみせる。お姉さんは驚きながら受け取ると、じっくりと状態を確認した。
「はい。確かにこれはクーリエ草ですね。処理も丁寧にされていて、とても質の良いものですね」
おねえさんは微笑みながら依頼票に判を押す。これでこの依頼は完了だ。
カウンターの内側から出してきた、少なくはない報酬金を並べられるのを、少しドキドキしながら見ていると、世間話のようにおねえさんが言った。
「これで次の依頼票を出せます」
「え、次って? これで終わりではないんですか?」
「まあ、この先は普通の冒険者さんのお仕事ではないですけど。この薬草を調合できる人を探さないといけないんです。何せ、この辺りでは殆ど見かけない貴重な薬草なので、調合できる方がこの町に居なくて」
ああ、なるほど。ここで依頼を出すのは、旅の調合師などを捕まえられるのを期待してのことだろう。でも……
「……それ、多分、僕ができます」
「ええっ!?」
以前調合道具を手に入れた町で買った調合の本に、クラネ草の調合方法も書いてあった。旅の間に色々と調合の練習をしていた僕が、自分でクラネ草を持っているのに試さないはずが無い。
「ラウルおにいちゃん、ちょーごーとかおりょーりも上手なんだよー」
えっへんと、自慢げにアリアちゃんが言う。でも調合と料理は違うと思うんだけどな。
* * *
クラネ草の調合依頼も無事に完了し、さらに追加でいつものように薬草採集の依頼を受けた。
依頼の必要分以上の採集を終えて町に戻ると、今日もあの公園で子供たちが遊んでいた。
それを見て、アリアちゃんが目をキラキラとさせながら僕の顔を見上げる。
「ラウルおにいちゃん、私も遊んできていいかなあ?」
昨日とは違って、余計な遠慮はせずに素直におねだりをしてくる。その様子がとても可愛らしい。
僕が頷くと、クーと一緒に大喜びで子供たちの方へ走って行った。
口をぎゅっと結んでいる僕を見て、ヴィーさんが薄く微笑んだ気がした。
「まあ、今の場所に不満がなけりゃあ、そんな妙な気持ちは起きねえと思うんだけどな。でも昨日の坊主が、あそこに居ただろう?」
そこでようやくヴィーさんの意図が分かった。
盗みをしなければいけないほどに、生活が困窮しているんじゃないか、もしくは何か不満を抱えているんじゃないかと、そういったことを心配しているんだ。
「あ…… あの孤児院の子供たちは、皆明るく無邪気な子ばかりでした。お腹を空かせている様子もありませんでした。でも院長が病気だそうで、それで困っているみたいです」
そこでふと、少し前を黙って歩いていたジャウマさんが、こちらを振り返った。
「その病気の治療に、何か薬草がいるんじゃないのか?」
「あ……はい。なんでも、貴重な薬草が必要だそうで……」
「……そうか。なら明日も冒険者ギルドへ行こう」
そう言って、また黙って前を向いて歩き出す。
「そうだな。もういっちょ、稼いでくるか!」
ヴィーさんは、隣を歩く僕の背中をバンッと叩いた。
* * *
今日もいい天気だ。まさに薬草採集日和、といってしまうと、逞しさがなくてちょっと情けない。
でもお日様の光や草の香りのする爽やかな風を浴びながら、お弁当を広げて食べるのが、アリアちゃんとクーと僕との楽しみの一つになっている。だから天気の様子で一喜一憂してしまうのも仕方ないだろう。
今日も冒険者ギルドの依頼掲示板を覗き込む。
「あれ? こんな依頼、昨日もあったかなぁ?」
依頼掲示板の端っこの、目立たぬ場所にその依頼票は貼られていた。きっと昨日は他の依頼票の陰になっていて気付かなかったんだろう。
依頼票に記載されている受付日を見ると、だいぶ前から貼られていたようだ。
「これ、依頼主はあの孤児院だ」
初日に訪れた孤児院の名前と、依頼主に女性の名前。これはあの院長夫人の名前だろう。
ということは、これが院長の治療に必要な薬草なのかもしれない。
「クーリネ草……? 聞いたことのない薬草だなぁ」
以前、調合道具を買った町で、調合の本も購入した。ひととおり目は通しているし、その本に載っている薬草なら覚えがあるはずだ。でもこの名前は覚えがない。
「すみません、この依頼票にあるクーリネ草について知りたいんですけど」
「それなら、こちらの図鑑をどうぞ。ただし持ち出しは禁止なので、このギルド内で閲覧してくださいね」
身分証明にとギルドカードの提示を求められる。受付嬢の説明の通りに渡された書類にサインをして、本を借りた。
冒険者ギルドのホールの端にあるテーブルに席をとり、図鑑を開く。クーも大人しく僕の足元に体を横たえた。図鑑には索引があったので、目的のクーリネ草のページはすぐに見つけることができた。
「これ……って…… クラネ草?」
クーリネ草について書かれているページの『別名』の項目を見ると、そこにクラネ草の名前も並んでいた。クラネ草は、ここから遠く離れた僕の故郷では、まれに採集できる薬草だ。
「もしかして、地方が違うと呼び方も変わるのかな?」
しかも、この地方には自生していない、貴重な薬草だとも書かれている。
「これ、見たことあるよねぇ」
「うん、たしか持ってるはずだよ」
故郷を出てしばらくの頃に採集した物だ。クラネ草は故郷でも多くは採れない薬草なので、偶然見つけて喜んだ覚えがある。アリアちゃんも一緒に手伝ってくれたから、見覚えがあるのは当然だろう。
採集したクラネ草は、すぐにジャウマさんとヴィジェスさんが火と風で乾かしてくれた。それをアリアちゃんから貰ったマジックバッグに仕舞ってあったので、状態もとても良い。取り出して数えてみたところ、数も足りているようだ。
「この薬草採集の依頼ですが、この乾燥済みの物でも大丈夫でしょうか?」
「ええっ? もしかしてお持ちだったんですか?」
受付嬢のおねえさんに、お借りした図鑑と依頼票と一緒に並べてみせる。お姉さんは驚きながら受け取ると、じっくりと状態を確認した。
「はい。確かにこれはクーリエ草ですね。処理も丁寧にされていて、とても質の良いものですね」
おねえさんは微笑みながら依頼票に判を押す。これでこの依頼は完了だ。
カウンターの内側から出してきた、少なくはない報酬金を並べられるのを、少しドキドキしながら見ていると、世間話のようにおねえさんが言った。
「これで次の依頼票を出せます」
「え、次って? これで終わりではないんですか?」
「まあ、この先は普通の冒険者さんのお仕事ではないですけど。この薬草を調合できる人を探さないといけないんです。何せ、この辺りでは殆ど見かけない貴重な薬草なので、調合できる方がこの町に居なくて」
ああ、なるほど。ここで依頼を出すのは、旅の調合師などを捕まえられるのを期待してのことだろう。でも……
「……それ、多分、僕ができます」
「ええっ!?」
以前調合道具を手に入れた町で買った調合の本に、クラネ草の調合方法も書いてあった。旅の間に色々と調合の練習をしていた僕が、自分でクラネ草を持っているのに試さないはずが無い。
「ラウルおにいちゃん、ちょーごーとかおりょーりも上手なんだよー」
えっへんと、自慢げにアリアちゃんが言う。でも調合と料理は違うと思うんだけどな。
* * *
クラネ草の調合依頼も無事に完了し、さらに追加でいつものように薬草採集の依頼を受けた。
依頼の必要分以上の採集を終えて町に戻ると、今日もあの公園で子供たちが遊んでいた。
それを見て、アリアちゃんが目をキラキラとさせながら僕の顔を見上げる。
「ラウルおにいちゃん、私も遊んできていいかなあ?」
昨日とは違って、余計な遠慮はせずに素直におねだりをしてくる。その様子がとても可愛らしい。
僕が頷くと、クーと一緒に大喜びで子供たちの方へ走って行った。
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