招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第五章

5-4 ある貴族からの指名

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 次の町に立ち寄ったのは、まだ日が高い時間だった。
 その町の門番はいぶかし気に僕らのギルドカードを眺めていた。その後にここで待てと命じられて、しばらく門番が戻ってこない。
 こんなことは初めてではないし、慣れてはいるけれど、今日はいつもよりも時間がかかっているみたいだ。
 後ろに並んでいた商人のおじさんが不機嫌そうに僕の方をにらんだ。でも僕の所為せいじゃないんだけどなあ。

 その内に、奥の部屋に行っていた門番が小走りで戻って来た。
「この照会状を持って、町長のもとを訪ねてください」
 ください、と言ってはいるが、相手は町長だ。必ず行けと言うことだろう。
「わかりました」
 ジャウマさんは丁寧ていねいに応えて、その封筒を受け取る。町長の客だと思ったのか、さっき僕を睨んでいたおじさんが、驚いて背筋を伸ばしたのが見えた。

 * * *

「君たちのことを王都の貴族様が探しているのだよ」
 やたらと豪奢ごうしゃな内装を施された部屋に通されると、やたらと大きな執務机に座った町長らしきおじさんが開口一番にそう言った。
「王都…… ですか」
 珍しくジャウマさんが苦い顔をする。

 この部屋にいるのは、僕とジャウマさんとヴィーさんだけだ。セリオンさんには、アリアちゃんとクーと一緒にこの屋敷の外で待ってもらっている。
 というか、セリオンさんは入れてもらえなかった。理由はやっぱり「獣人だから」だそうだ。

 偉そ――いや、威厳のある白い口ひげを指でもてあそびながら、ふんぞり返って座る町長が回りくどく勿体もったいぶって話を進める。要約すると、先日の巨大ワーム討伐の噂を聞きつけた王都の貴族から、直々じきじきにご指名が来ているのだそうだ。

 それを聞いたヴィーさんは、つまらなそうにわざと大きなため息を吐く。
「まあ、拒否権はねえんだろ」
 いかにも不満げに、投げ出すように言った。ふりではなく、本当に気に入らないんだろう。

「内容は魔獣討伐の依頼、でしょうか?」
 リーダーらしく丁寧な物腰でジャウマさんが尋ねる。
「詳しいことまではこちらでは聞いていない。噂によると、その貴族は探し物をしているそうだ。まあそれ絡みだろう」
 それを聞いて、ヴィーさんがちらりと僕の方を見た。なんだろう?

「わかりました。王都に着いたら、その貴族様を訪ねることにします」
 ジャウマさんの言葉に、町長は偉そうにうなずいた。

 * * *

 町長から招待状と通行許可証を受け取り、その屋敷を後にした。この許可証があれば、道中の町も含めて面倒な確認はなしで、つ無料で門を通れるらしい。

「といっても、あまり町には寄らねえからそこまで役には立たないかもな」
 ヴィーさんは町長の話を聞いていた時から、ずっと面白くなさそうな顔をしている。
「いや、一行に獣人が居ることになっているからな。この許可証はありがたい」
「ああ、そうだな」
 ジャウマさんの言葉に相槌あいづちをうったのは、獣人の姿になっている、当のセリオンさんだ。

「よし、さっさとメシを買って、寝る場所を決めようぜ!」
 少し先を歩いていたヴィーさんが、遅れて歩く僕らに向けて叫んだ。

 今晩も店には入らずに、大通り沿いに出ている屋台で夕飯を選ぶそうだ。ヴィーさんが主体で、ジャウマさんと相談しながら、慣れた様子で屋台をのぞいて買うものを選んでいく。

 ごろごろと大きなソーセージを焼いたものを何本か。強めにスパイスを効かせてあるらしく、匂いを嗅いだだけでお腹が鳴りそうになる。
 こっちの紙の包みにはパンがはいっている。勿論もちろんただのパンじゃない。屋台のおじさんが、目の前でパンを切り開いて、薄切りにした味付け焼き肉と野菜をたっぷりと挟んでくれた。
 骨付き肉が柔らかく煮込まれたスープは、自前の鍋を出してそこに注いでもらった。スープが入った鍋をまたバッグに入れるのは、マジックバッグといえど少し心配なので、手で持っていくことにした。両手がふさがった僕を見て、アリアちゃんが代わりに僕のバッグを持ってくれた。

 最後にヴィーさんが入ったのは、屋台でなく菓子売りの商店だった。小さな紙袋を手にして出てくると、その紙袋をアリアちゃんに渡した。
「これは、ちゃんとご飯を食べてからだからな」
 なるほど、アリアちゃん用のお菓子らしい。

 メイン通りを屋台を巡って進むうちに、僕らが町に入ったのとは反対側にある門の近くまで来た。
 大きな町の門近くには、旅の者が野営をする為の広場が設置されていることが多い。今晩はそこで野営をするんだそうで、勝手のわからない僕はスープの鍋を持ったまま、ジャウマさんたちの後を付いていく。

「いい匂いがするねぇ~~」
 隣を歩くアリアちゃんが、可愛い鼻をひくひくさせながら言う。確かに、スープに溶け出した肉の脂の匂いが湯気と一緒に蓋の隙間から漏れてくる。
「お腹すいたね」
 そう言うと、アリアちゃんがえへへと笑った。


 野営場所になっている広場には、先客が居た。冒険者パーティーらしき集団が二組と、あとは旅の商人か何かだろう。
 見ると、その冒険者パーティーには獣人が含まれているようだ。そういえば獣人が泊まれる宿は少ないと、ジャウマさんから聞いていたのを思い出した。

 ジャウマさんに言われ、『普通の冒険者』が野営をする時のように支度を進める。
 最近は最初の頃のような『普通の冒険者のふり』をほとんどしなくなっていた。魔獣除けの魔導具も使わないし、わざわざ沢に水を汲みにいくこともしない。
 でもここでは他の人の目があるから、『普通のふり』をする必要がある。夕飯を作らずに買ってきたのはそれもあるんだろうなあ。
 皆にまだ温かいスープを取り分けながら、そんなことを思った。
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