招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
49 / 135
第五章

5-6 貴族から依頼をうける

しおりを挟む
貴方方あなたがたに依頼を出したのは、わたくしです」
 僕らを出迎えた年老いた夫人は、静かな口調でそう言った。
 穏やかで上品な美しさをもつ夫人だと思った。歳を重ねてはいるが、若い頃は今よりももっと美しかったろう。

 訪ねた先は、門番の言ったように中央区で一番目立つ大きな屋敷だった。その豪奢ごうしゃな応接室に迎え入れられ、今こうして夫人と対面している。
 上級冒険者を雇うような荒事あらごとだ。てっきり依頼者は、あの町長と同じような、偉そうなおじさんかと思っていたので、意外だった。

 以前の町長の屋敷の時と同じように、ここでも屋敷に入れてもらえないセリオンさんにアリアちゃんとクーを託し、ここにいるのは僕とジャウマさんとヴィーさんの3人だけだ。

 夫人の後方から、執事風の老人が布を被せた何かを持って歩み寄る。
 彼はそれを赤子を扱うように優しく、そっとテーブルに置いた。その様子から、その布の中身が貴重で高価なものなのだろうとうかがえる。

 老人が布を取り払うと、その下から手の平に乗るくらいの水晶玉が現れた。その玉は禍々まがまがしくも見える不思議な意匠を施された台座にめ込まれている。
 似たような物を、どこかで見たことがあるような、そんな気が……

「はるか昔の話です」
 夫人の言葉で、ハッと意識を取り戻した。
「私の祖先が、ある聖職者からこちらの魔導具を入手しました。この魔導具の力によって死者の声を聞くことができたと、そう伝え聞いております」
「できた、ということは、今は使えないのですね」

「はい」
 ジャウマさんの言葉に、夫人はすぅと目を伏せて答える。

「ここから遠く、国境近くの森深くに遺跡があり、そこにこの魔導具を動かせる何かがあると、そう伝え聞いております。それを手に入れてきてほしいのです」

 それを聞いて、ヴィーさんが大きく息を吐き出した。ジャウマさんは、それを気にも留めない素振そぶりで、夫人に尋ねる。
「それはどのような物かはわかりますか?」

「いいえ。そのことは一切伝えられておりません。ただその遺跡には、あらゆる魔の道具と技術が集められているのだとも」

 魔の道具…… いわゆる魔導具のことだろう。あらゆる…… とは、随分と大袈裟おおげさなようにも感じた。もしそれが本当なら、世界中の国々がその技術を手に入れようとするだろうに。

「では、貴女あなたの本当の依頼は、こちらの魔導具を動かせるようになること、でしょうか?」
 ジャウマさんの問いに、夫人はしばし沈黙した。そして再び口を開く。

「私はこの魔導具を使って、ある者の生死を知りたいのです……」

 * * *

「昔、の話です。私には婚約者がいました。」
 その言葉を最初に、夫人はぽつりと語り始めた。

 その婚約者はこの国の騎士だったそうだ。騎士団の任務で、ある廃城に出かけ、そのまま帰ってこなかったのだと。

「その廃城に赴いたのは調査の為なのだと、だから危険はないのだと、私はそう聞いておりました。しかしそうではありませんでした。その廃城には強力な魔獣が住み着いていたのだそうです。結局その廃城の調査もままならずに、帰還することができた方はほんの数人でした。そしてその中に、私の婚約者の姿はありませんでした」

 そこまで聞けば、僕にだって予想できる。この夫人が知りたい安否の主は、その騎士のことなのだろう。
 帰らなければ死んだと思え。周りは当然のように言う。でもそれでも諦めきれない、割り切れない気持ちは確かにあるのだ。僕はそのことを、自身の経験でよく知っている。

 ただ黙って言葉を待つ僕らに向けて、夫人はさらに話を紡ぐ。
 不思議なことに、帰ってきた騎士の誰一人として、彼の婚約者の倒れる姿どころか魔獣と戦う姿すら見ていなかったのだと。廃城を探索している間に、いつの間にかいなくなってしまっていたのだと。

「騎士様方の任務について、詳しい話は聞かされておりませんでした。でも私には、彼が死んではいないように思えたのです。私は彼の帰りを待ちました。
 1年待っても、2年待っても、彼が帰らぬどころか、生死についての手がかりも得られませんでした。それでも私は待ち続けました。3年待ったところで、父が新しい縁談を持ってきました。もう彼のことは諦めろと父は言い、私はその縁談を受けることにしました。
 私には夫も子供たちもいます。子供はすでに結婚し、孫にも恵まれています。私はもちろん皆を愛しております。でも私の心の中に、帰らぬあの方のことがずっとずっとくすぶっているのです」
 最後は、自身の胸に手を当てて言った。

 しばしの沈黙の中、ヴィーさんがガリガリと自分の頭を掻く音が聞こえる。
 口を開いたのはジャウマさんだった。
「――貴女は、その方を愛しておられたのですか?」
「愛して……ですか?」
 夫人は少しだけ目を見開くようにして言った。それから、再び視線を下げる。

「――それは、正直わかりません。その方は、親同士が決めた婚約者でした。もしかしたら私は、あの方が死んだ証が欲しいのかもしれません。私が…… あの方を見捨てたのではないのだと、そう思いたいのかもしれません……」

 迷うように、でも振り搾るような声で、夫人は語り続ける。
「私は、あの方をずっと待っているべきだったのでしょう。でも私はそうしなかった。もしかしたら彼は本当は生きているのではないかと。彼を待たなかった私を恨んで姿を消しているのではないかと。いや、そんなことがあるはずがない。彼は本当に――」
「わかりました」
 ジャウマさんが、夫人の言葉をとどめた。

「我々への依頼は、その魔導具を動かすすべか、その騎士の生死の証を持ち帰る、ということで良いでしょうか?」

 つらそうな表情をようやく収めた夫人は深く頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...