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第六章
6-1 ゆりかご
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薄暗く広い部屋の中。その中央に据えてある不思議な球形のベッドの中で、アリアちゃんが眠っている。
ただでさえ廃城の奥深くの、窓ひとつ無いこの部屋の中にまでは、外の光は届かない。でも完全な闇ではないのは、部屋のここかしこに魔導ランタンが配置されているからだ。
「本当はもっと明るくしてやりたいんだが。アリアの孵化器に魔力を割かなきゃいけねぇからな」
そう言ってヴィーさんは、ふっと笑ったそのままの優しい目でアリアちゃんを見た。
「孵化器……ですか?」
孵化器とは、鳥や竜の卵を孵す為の魔導具の名前だ。でもアリアちゃんは卵じゃない。
ヴィーさんが孵化器だと言ったのは、半球体のボウルのような形をしたベッドのような魔導具で、その中にはふわふわとした綿のようなものが敷き詰められてる。その中で眠るアリアちゃんは、まるでベッド自体に包まれるようだ。
孵化器というより、これはゆりかごだ。
「昔はこれが卵だったんだ」
「ええ?」
「アリアはこの卵の中でずっと眠っていたんだ。俺たち3人で眠っていたアリアを卵から孵した」
ジャウマさんの目が、その頃を懐かしむように優しく緩む。その手がそっとアリアちゃんの眠る魔導具を撫でた。
「ラウルくんが仲間になってから、だいぶ『黒い魔力』を取り戻したからな。少し休ませた方がいいだろう」
僕らから離れた所に立つセリオンさんが静かにそう言った。
「アリアが目覚めるまでまだまだ時間がかかる。しばらくはこの城で過ごすことになる。私はここの確認をしているから、ラウルくんに城を案内してくるといい」
「わかった。後は頼んだぞ」
ジャウマさんはセリオンさんに応えると、僕に部屋を出るよう促す。僕らの後から、ヴィーさんとクーも付いてきた。
少し気になって振り返ると、セリオンさんが一人でアリアちゃんのゆりかごを見ている。
「あの魔導具の管理はセリオンさんの役目なんですか?」
「いや、そういうわけではないが、セリオンが一番しっかりしているからな。それに」
そこまで言って、ジャウマさんもセリオンさんの後姿にちらりと視線を向けた。
「セリオンは繊細なんだ。ここに来たばかりのあいつはひどく取り乱していた。ただ何もせずにいるよりも役目を与えた方がいいと思って、孵化器の管理を任せた。だから扱いはよくわかっている。大丈夫だ」
それを聞いて少し驚いた。あのセリオンさんが取り乱すだなんて、とてもじゃないけれど想像できない。
「あとセリオンが言っていただろう?『夫人は自分が安心したいだけなんだ』、と」
それは、あのセリオンさんの元婚約者の話だ。
「きっとあいつも同じだ。家族を、婚約者を、故郷を捨てた自分の選択は間違っていないはずだと思いたいんだろう。だからああして、今も何か役目を担う事で、自分を安心させようとしている」
……愛情はなかったし未練もないのだと、セリオンさんは言った。でもだからといって、望んで捨てたわけではないのだろう。
「ジャウマさんたちは、そういうのは無かったんですか?」
「俺は…… あまりにも昔の事過ぎて、忘れてしまったな」
ぽつりと零した言葉は、少し寂しそうだった。
「それより城の案内だ! 広いから迷子になるなよ?」
僕らの気持ちを切り替えさせるように、わざと明るい口調でヴィーさんが言った。
廃城のはずなのに、ここ、城の最奥は全く廃れていない。普通の城内のようだ。
応接間、居間、食堂、台所、風呂と、二人に案内されるままに付いて行く。どこも僕ら5人が使うにしては、やけに広くて豪華すぎる部屋ばかりだ。
僕らが歩いているこの広い廊下のところどころには、ふわふわとした毛玉の様なものが浮いたり転がったりしている。クーが興味津々で近づくと、そいつは一目散に逃げていった。
ヴィーさんによるとあれは魔獣で、これとゴーレムたちがこの広い城内を掃除しているらしい。
「掃除はしてくれるが、他の事は俺らでやらないとなあ」
それには料理も含まれるんだろう。
さらにアリアちゃんの部屋、ジャウマさんたちそれぞれ3人の部屋を教えてもらった後で、立ち止まった部屋の前でジャウマさんが言った。
「ここがラウルの部屋だ」
その部屋は僕一人の部屋にしては、やけに広い。それに空き部屋でなく、誰かが使っていた部屋らしい。
部屋の広さはあるのに、置かれたたくさんの物たちの所為であまり広さが感じられない。
部屋に入って右手側には大きな机が二つ、そのうちの一つには所狭しと魔導具らしきものが置かれている。それだけではなく調合の道具もあるよ。
もう一つは作業用らしい。基本の調合道具がひと揃い置かれていた。
壁際には大きな本棚が置かれていて、ぎゅうぎゅうに本が詰めこまれている。
左手側は休むためのスペースなのか、簡素だけれど柔らかそうなベッドと、シンプルな二人掛けのソファセット。シンプルなドレッサーが置いてあった。
「誰かの部屋みたいですが…… 勝手に使って大丈夫でしょうか?」
「うん? まあ気にしないでいい。部屋にある魔導具も調合道具も、お前が使って構わない」
「ええっ? でも、もしも壊したりしたら……」
僕が焦りながら口にした言葉に、ジャウマさんは少しだけ何かを考えるような素振りをみせた。そして、
「使ってるうちに壊れてしまうのは仕方ないだろう。それにこの部屋の以前の持ち主も、お前が使うことを望んでいるだろう」
そう言いながら、並べられた魔導具たちを見回した。
「あと、中には動かなかったり壊れたりしている物もある。そういった物は、出来るなら手入れをしてやるといい」
ジャウマさんは気軽に言うけれど、魔導具はどんなものであろうとそれなりに値段が張る。
というのも、人が作れるのは簡易な魔導具だけで複雑な魔導具はダンジョンの中から見つけてくるしかできないからだ。ここに並べてあるのは、そんな複雑な魔導具ばかりだ。
戸惑いながら、部屋の中を見回していた僕の肩に、がっしりと腕を回してヴィーさんが言った。
「なあ、ラウル。セリオンも言っていたが、アリアが目覚めるまでしばらくかかる。ずっとこの城に籠っていても仕方ないし、落ち着いたら少し出かけてこないか?」
その言葉に、ジャウマさんも頷いた。
ただでさえ廃城の奥深くの、窓ひとつ無いこの部屋の中にまでは、外の光は届かない。でも完全な闇ではないのは、部屋のここかしこに魔導ランタンが配置されているからだ。
「本当はもっと明るくしてやりたいんだが。アリアの孵化器に魔力を割かなきゃいけねぇからな」
そう言ってヴィーさんは、ふっと笑ったそのままの優しい目でアリアちゃんを見た。
「孵化器……ですか?」
孵化器とは、鳥や竜の卵を孵す為の魔導具の名前だ。でもアリアちゃんは卵じゃない。
ヴィーさんが孵化器だと言ったのは、半球体のボウルのような形をしたベッドのような魔導具で、その中にはふわふわとした綿のようなものが敷き詰められてる。その中で眠るアリアちゃんは、まるでベッド自体に包まれるようだ。
孵化器というより、これはゆりかごだ。
「昔はこれが卵だったんだ」
「ええ?」
「アリアはこの卵の中でずっと眠っていたんだ。俺たち3人で眠っていたアリアを卵から孵した」
ジャウマさんの目が、その頃を懐かしむように優しく緩む。その手がそっとアリアちゃんの眠る魔導具を撫でた。
「ラウルくんが仲間になってから、だいぶ『黒い魔力』を取り戻したからな。少し休ませた方がいいだろう」
僕らから離れた所に立つセリオンさんが静かにそう言った。
「アリアが目覚めるまでまだまだ時間がかかる。しばらくはこの城で過ごすことになる。私はここの確認をしているから、ラウルくんに城を案内してくるといい」
「わかった。後は頼んだぞ」
ジャウマさんはセリオンさんに応えると、僕に部屋を出るよう促す。僕らの後から、ヴィーさんとクーも付いてきた。
少し気になって振り返ると、セリオンさんが一人でアリアちゃんのゆりかごを見ている。
「あの魔導具の管理はセリオンさんの役目なんですか?」
「いや、そういうわけではないが、セリオンが一番しっかりしているからな。それに」
そこまで言って、ジャウマさんもセリオンさんの後姿にちらりと視線を向けた。
「セリオンは繊細なんだ。ここに来たばかりのあいつはひどく取り乱していた。ただ何もせずにいるよりも役目を与えた方がいいと思って、孵化器の管理を任せた。だから扱いはよくわかっている。大丈夫だ」
それを聞いて少し驚いた。あのセリオンさんが取り乱すだなんて、とてもじゃないけれど想像できない。
「あとセリオンが言っていただろう?『夫人は自分が安心したいだけなんだ』、と」
それは、あのセリオンさんの元婚約者の話だ。
「きっとあいつも同じだ。家族を、婚約者を、故郷を捨てた自分の選択は間違っていないはずだと思いたいんだろう。だからああして、今も何か役目を担う事で、自分を安心させようとしている」
……愛情はなかったし未練もないのだと、セリオンさんは言った。でもだからといって、望んで捨てたわけではないのだろう。
「ジャウマさんたちは、そういうのは無かったんですか?」
「俺は…… あまりにも昔の事過ぎて、忘れてしまったな」
ぽつりと零した言葉は、少し寂しそうだった。
「それより城の案内だ! 広いから迷子になるなよ?」
僕らの気持ちを切り替えさせるように、わざと明るい口調でヴィーさんが言った。
廃城のはずなのに、ここ、城の最奥は全く廃れていない。普通の城内のようだ。
応接間、居間、食堂、台所、風呂と、二人に案内されるままに付いて行く。どこも僕ら5人が使うにしては、やけに広くて豪華すぎる部屋ばかりだ。
僕らが歩いているこの広い廊下のところどころには、ふわふわとした毛玉の様なものが浮いたり転がったりしている。クーが興味津々で近づくと、そいつは一目散に逃げていった。
ヴィーさんによるとあれは魔獣で、これとゴーレムたちがこの広い城内を掃除しているらしい。
「掃除はしてくれるが、他の事は俺らでやらないとなあ」
それには料理も含まれるんだろう。
さらにアリアちゃんの部屋、ジャウマさんたちそれぞれ3人の部屋を教えてもらった後で、立ち止まった部屋の前でジャウマさんが言った。
「ここがラウルの部屋だ」
その部屋は僕一人の部屋にしては、やけに広い。それに空き部屋でなく、誰かが使っていた部屋らしい。
部屋の広さはあるのに、置かれたたくさんの物たちの所為であまり広さが感じられない。
部屋に入って右手側には大きな机が二つ、そのうちの一つには所狭しと魔導具らしきものが置かれている。それだけではなく調合の道具もあるよ。
もう一つは作業用らしい。基本の調合道具がひと揃い置かれていた。
壁際には大きな本棚が置かれていて、ぎゅうぎゅうに本が詰めこまれている。
左手側は休むためのスペースなのか、簡素だけれど柔らかそうなベッドと、シンプルな二人掛けのソファセット。シンプルなドレッサーが置いてあった。
「誰かの部屋みたいですが…… 勝手に使って大丈夫でしょうか?」
「うん? まあ気にしないでいい。部屋にある魔導具も調合道具も、お前が使って構わない」
「ええっ? でも、もしも壊したりしたら……」
僕が焦りながら口にした言葉に、ジャウマさんは少しだけ何かを考えるような素振りをみせた。そして、
「使ってるうちに壊れてしまうのは仕方ないだろう。それにこの部屋の以前の持ち主も、お前が使うことを望んでいるだろう」
そう言いながら、並べられた魔導具たちを見回した。
「あと、中には動かなかったり壊れたりしている物もある。そういった物は、出来るなら手入れをしてやるといい」
ジャウマさんは気軽に言うけれど、魔導具はどんなものであろうとそれなりに値段が張る。
というのも、人が作れるのは簡易な魔導具だけで複雑な魔導具はダンジョンの中から見つけてくるしかできないからだ。ここに並べてあるのは、そんな複雑な魔導具ばかりだ。
戸惑いながら、部屋の中を見回していた僕の肩に、がっしりと腕を回してヴィーさんが言った。
「なあ、ラウル。セリオンも言っていたが、アリアが目覚めるまでしばらくかかる。ずっとこの城に籠っていても仕方ないし、落ち着いたら少し出かけてこないか?」
その言葉に、ジャウマさんも頷いた。
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