招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第六章

6-7 冒険者を助ける

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 朝、宿の裏手にある水場で顔を洗っていると、ジャウマさんと鉢合わせた。この町でも、ジャウマさんは朝早くに起きて、基礎体力のトレーニングをしている。
 いつもなら、朝のトレーニングに手ぶらで行っているのに、今日のジャウマさんは武器を手にしている。しかもトレードマークの大剣ではなく、片手剣だ。珍しい。

「おはようございます。今日はいつもの剣じゃないんですね」
「ああ、カルロに武器の扱いを教えてほしいと頼まれたんだ」

 カルロさんは、この町に着いた日に出会った冒険者だ。
 背格好だけでなく、赤毛の髪もジャウマさんに良く似ていて、カルロさんの友人に間違われたのが最初の切っ掛けだった。
 あれから、冒険者ギルドや酒場で何度か見かけたり、声を掛け合ったりしていたのは知っていたけれど、いつの間にそんなに仲良くなってたのか。

「たまたま朝のトレーニングで一緒になった時があってな、それからだ」
 ジャウマさんは笑いながらそう言った。

 * * *

 結界魔法を使った戦いにだいぶ慣れてきた僕らを連れて、ジャウマさんたちは別のダンジョンの、しかもさらに奥の階層に進んだ。

「この辺りにはサンドベアが居るはずなんだが……」
 ヴィーさんのその言いぶりが、慣れた様子で頼もしい。
 サンドベアは砂地に住む熊……ではなく、砂色の毛皮を持つ熊だ。他の熊種に比べると小柄で力は弱いが、それは他の熊種に比べたらの話で、少なくとも僕のような低ランクの冒険者が一人で立ち向かうような相手ではない。

 僕も二人に倣って、あたりを警戒していると、道の先の方からバタバタと足音と騒がしい物音が聞こえてきた。
「なんだ? 何かあったのか?」
 見ると向こうから走ってきているのは冒険者の一行で、まるで何かから逃げているように慌てふためいている。でも追ってくるはずの何かの姿は見えない。

「どうかしたのか?」
 ジャウマさんの問いかけに一行は応えずに、必死な表情で僕らの横を駆け抜けていった。

「あれはなんでしょう?」
 二人に問いかけたつもりが、返事が返ってこない。
 見ると、二人ともなんだか難しい顔をしている。

「ヴィー」
「ああ」
 二人が最低限の言葉で視線を交わし合うのを見て、何か異常な事態が起きたんだろうと悟った。


「待ってくれ!! 助けて――」

 その時、誰かの叫び声が聞こえた。さっきの一行が来た方向だ。

「だ、誰か逃げ遅れているんじゃ…… 助けないと!!」
 そう言って、咄嗟とっさに走り出そうとした。が、ジャウマさんに腕をつかまれて引き留められた。

「ラウル、お前はここで待ってろ」
「……あっ。は、はい」
 僕が足を止めたのを確認すると、ジャウマさんとヴィーさんが僕の代わりに声のする方へ駆け出していく。

 そうだ…… 戦えない僕が行ったって、何もできないどころか足手まといになるだけだ。
「クゥ」
 僕の元に残っていてくれたクーが、気遣うように僕の顔を見上げる。

「うん、せめて迷惑や心配をかけないくらいにはならないとね」
 じっと僕を見るクーの頭を、そっと撫でた。

 * * *

 道の先の方から聞こえていた戦いの音や魔獣の叫び声はすぐに止んだ。しばらくすると、一人の男性と一緒に二人が戻ってきた。彼も冒険者だろう。動くことができないようで、ジャウマさんに背負われている。

「襲われていたのはこいつ一人だった。だいぶひどい有様だ」
 道の端に降ろされた彼に駆け寄り、マジックバッグから出したポーションを口に含ませる。

 彼が身に付けている防具は魔獣の牙や爪の傷でボロボロになっていた。防具の下もかなりのダメージだろう。
「あ、ありが…… ごほっ」
 何か話そうと口を開いたけれど、すぐにむせてしまった。

「無理に話さなくていい。少し休んだら、出口まで連れてってやろう」
 ジャウマさんの言葉に応えるように、彼は震える手で首から下げていた冒険者カードを取り出し、僕らに差し出した。

 受け取ったのはヴィーさんだった。ヴィーさんはそのカードを僕にも見せる。冒険者の名前、ランクはDと書いてある。僕と同じだった。

 * * *

 彼を出口にまで送り届けると、僕らはもう一度ダンジョンに入りなおした。最初の階層からひとつ下ると、はーっとヴィーさんが大きくため息をいた。

「あいつ、なんか変だったな」
「その前に逃げてきた人たちの仲間、ですよね。一人だけ逃げ遅れたんでしょうか」

「そうかもしれねえ、でも――」
 そう言いながら、ヴィーさんは顔をゆがめた。
「あいつ、武器は持っていたんだが、腰に下げたポーチ以外には荷物を持っていなかったんだ。しかも、取り残された場所にもそれらしい荷物はなかった」
「え? それってどういうことですか?」

「普通に考えて、冒険者が荷物を持っていない理由は限られる。余程性能のいいマジックバッグをもっているか、荷物持ちに下位ランクの冒険者を雇っているか」

 僕もマジックバッグを持っているけれど、これはアリアちゃんが僕の為に作ってくれた、特別なものだ。普通のDランク冒険者には、マジックバッグは高価すぎて手が届かない。
「彼自身がDランクで、そこまで高くはないですよね」
「そうだ。このダンジョンのあの階層なら、むしろあいつが荷物持ちをするほうだろう」

「またはこういう状況だな」
 そう言って、ジャウマさんは僕たち自身を見回した。
「え? こういうって?」

「俺らのやってることと同じだってことだな。低ランク冒険者を敢えて前に出したのか」
「じゃあ、僕と同じように特訓を……?」
「なら、いいんだけどな。でもそれなら、あんなに簡単に見捨てて逃げたりしないだろう」

 あの時、僕らの横を走り抜けていった冒険者たちは、慌ててはいたけれど、怪我をした様子ではなかった。

おとりか盾、だろうな」

 あ……
 先日会った、ダンジョンの受付のおじさんの言葉を思い出す。あれは、こういうことだったのか……

 同じ人間なのに、同じ冒険者なのに……
「なんで…… そんなひどい事をするんでしょうね」
 僕の言葉に、返ってくる答えはなかった。
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