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第六章
6-9 新しいダンジョンに入る
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新しいダンジョンでは、なかなか奥の階層にまで進めずにいるのだそうだ。
上位の冒険者が奥に進んでしまうと、手前の守りが薄くなる。全体的な守りの厚さを保とうとすれば、当然人数が必要になってくる。だから無理に最前線まで行かなくても、充分に調査の助けになるのだと言われた。
多分ジャウマさんとヴィーさん二人だけなら、最前線でも足りるどころか余るほどに活躍できるだろう。
「まあ、ラウルもいるからな。無理なく様子をみて進もう」
ジャウマさんは、僕の顔を見ながらそう言った。
それなのに今、僕らは最初に思っていたよりも下の階層に来ている。ここまでの階層の魔獣が想定よりも少なかったからだ。
「なかなかに優秀なんじゃねえか?」
ヴィーさんが偉そうに言うのは、このダンジョンに調査に入っている冒険者たちのことだ。
この階層でも殆ど魔獣に出会うこともなく、僕らはさらに下の階層に降りた。
* * *
ふと、二人の雰囲気が変わっていることに気が付いた。ジャウマさんはともかく、ヴィーさんまでもが真剣な表情になっている。
「あ、あの…… どうかしたんですか?」
「あ、いや。音が聞こえてな」
「音……? ですか?」
「ああ、この先で誰かが戦っているようだ。しかも――」
ジャウマさんはそこで言葉を止めた。多分、あまり良くない雰囲気なのだろう。
「助けにい……」
咄嗟に口から出かかった言葉を飲み込んだ。僕らに他の冒険者を救う義務はない。先日言われたばかりだ。
口籠った僕の顔を見て、ジャウマさんはフッと鼻で笑った。
「そんな顔をするな。とりあえず様子を見にいこう」
「まあ、ラウルだけを行かせるわけにはいかねえしなあ」
ヴィーさんが、ニヤニヤ笑いをしながら言った。
今までよりも早足で、でも周りを警戒しながら進む。
「誰かこっちにやってくる」
先頭を進むヴィーさんが、小声で僕らに告げた。
冒険者らしき一行が、バタバタと何かから逃げるように走ってくる。先頭を走ってくる人に見覚えがあった。この町についた日にギルドで会ったブラドさんだ。
一行は僕らの前で足を止めた。ブラドさんの他に、やっぱりあの日に見かけた彼らの仲間らしい冒険者が二人。もう一人は初めて見る顔だ。装備からすると、彼らより低ランクの冒険者だろう。真っ青な顔をして震えていた。
「どうした? 何があった?」
ジャウマさんが声をかけると、ブラドさんはその両腕に縋りつくようにして言った。
「ジャウマ! 頼む、カルロを助けてくれ!」
「カルロを? あいつを置いてきたのか?」
「いいや、違う。見た事のないでかい魔獣が現れて、あいつが俺たちを先に逃がしてくれた。あいつはまだ戦っている!」
「行こう」
それだけ言って、ジャウマさんは僕らを置いて、走り出した。
「へえへえ。リーダーの決定なら仕方ないよな。なあ、ラウル」
ヴィーさんは僕にむけて、ちょっと可笑しそうに言う。でも嫌そうではない。むしろちょっとほっとしているようにも見えた。
ダンジョンの奥へ向かって、先を走るジャウマさんの後を追いかける。
「なんだか変な臭いが……」
変な臭い、といったけれど、僕はこの臭いの正体を知っている。これは、血の臭いだ。
僕の声を聞いて、ジャウマさんの足がさらに早まる。
「お前のポーションが頼みだぞ」
ヴィーさんがポンと僕の肩を叩いた。
薬草を採集するだけでなく、自分で調合をするようになって、僕のマジックバッグには常に多数のポーションが入っている。
でも人間ではない彼らは、傷付いても軽い傷であれば自然に塞がって直ってしまう。それより深い傷は、アリアちゃんやセリオンさんの回復魔法で治していた。
でも今はその二人が居ないから、このパーティーに回復魔法はない。僕のポーションで治せる程度の怪我ならいいんだけど……
不安と緊張で、バッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。
* * *
さほど広くなかった道は、進む毎に広さを増し、天井も高くなっていく。道の先に続いた広い部屋のような空間に足を踏み入れると、その中央には大きな岩があった。
その岩が、赤い目でギロリとこちらを睨みつける。
いや、これは岩じゃない。魔獣だ。
「ロックドラゴン……?」
魔物図鑑で見たことがある。一見すると、岩と見紛うような鱗を持つ竜種の魔獣だ。見た目の通り体が岩のように固く、生半可な武器ではダメージを与えることもできない。
でも図鑑で見たやつはこんなに大きかっただろうか?
「ああ、こいつはロックドラゴンの上位種で、ギガントロックドラゴンだ。ダンジョンの奥にしかいねえからな。図鑑には載っていない」
そのギガントロックドラゴンをよく見ると、前足に何かが握られている。
「カルロ!」
ジャウマさんが名を呼ぶと、握られたままでこちらを向く。まだ生きている!
ドラゴンは僕らに向けて、事も有ろうにカルロさんを投げつけてきた。
「あっ!」
僕が声を上げる前に、もうジャウマさんが飛び出している。カルロさんの体が地面に叩きつけられる寸前に、体ごとがっしりと受け止めた。
「ありゃあ、ジャウマでなきゃ受け止められねえよなぁ」
ヴィーさんが揶揄うような口ぶりで言った。
「カルロ、大丈夫か?」
「あ、兄貴…… すまない」
すぐさまヴィーさんが二人の前に出て、クロスボウでドラゴンの顔面を目掛けて矢を放っている。ヴィーさんがドラゴンの注意を引き付けている間に、ジャウマさんがカルロさんに肩を貸して僕のもとに連れてきた。
「ラウル、こいつを頼めるか?」
「はい、もちろんです!」
僕の返事を聞くと、ジャウマさんは大剣を手にしてドラゴンに向かっていった。
上位の冒険者が奥に進んでしまうと、手前の守りが薄くなる。全体的な守りの厚さを保とうとすれば、当然人数が必要になってくる。だから無理に最前線まで行かなくても、充分に調査の助けになるのだと言われた。
多分ジャウマさんとヴィーさん二人だけなら、最前線でも足りるどころか余るほどに活躍できるだろう。
「まあ、ラウルもいるからな。無理なく様子をみて進もう」
ジャウマさんは、僕の顔を見ながらそう言った。
それなのに今、僕らは最初に思っていたよりも下の階層に来ている。ここまでの階層の魔獣が想定よりも少なかったからだ。
「なかなかに優秀なんじゃねえか?」
ヴィーさんが偉そうに言うのは、このダンジョンに調査に入っている冒険者たちのことだ。
この階層でも殆ど魔獣に出会うこともなく、僕らはさらに下の階層に降りた。
* * *
ふと、二人の雰囲気が変わっていることに気が付いた。ジャウマさんはともかく、ヴィーさんまでもが真剣な表情になっている。
「あ、あの…… どうかしたんですか?」
「あ、いや。音が聞こえてな」
「音……? ですか?」
「ああ、この先で誰かが戦っているようだ。しかも――」
ジャウマさんはそこで言葉を止めた。多分、あまり良くない雰囲気なのだろう。
「助けにい……」
咄嗟に口から出かかった言葉を飲み込んだ。僕らに他の冒険者を救う義務はない。先日言われたばかりだ。
口籠った僕の顔を見て、ジャウマさんはフッと鼻で笑った。
「そんな顔をするな。とりあえず様子を見にいこう」
「まあ、ラウルだけを行かせるわけにはいかねえしなあ」
ヴィーさんが、ニヤニヤ笑いをしながら言った。
今までよりも早足で、でも周りを警戒しながら進む。
「誰かこっちにやってくる」
先頭を進むヴィーさんが、小声で僕らに告げた。
冒険者らしき一行が、バタバタと何かから逃げるように走ってくる。先頭を走ってくる人に見覚えがあった。この町についた日にギルドで会ったブラドさんだ。
一行は僕らの前で足を止めた。ブラドさんの他に、やっぱりあの日に見かけた彼らの仲間らしい冒険者が二人。もう一人は初めて見る顔だ。装備からすると、彼らより低ランクの冒険者だろう。真っ青な顔をして震えていた。
「どうした? 何があった?」
ジャウマさんが声をかけると、ブラドさんはその両腕に縋りつくようにして言った。
「ジャウマ! 頼む、カルロを助けてくれ!」
「カルロを? あいつを置いてきたのか?」
「いいや、違う。見た事のないでかい魔獣が現れて、あいつが俺たちを先に逃がしてくれた。あいつはまだ戦っている!」
「行こう」
それだけ言って、ジャウマさんは僕らを置いて、走り出した。
「へえへえ。リーダーの決定なら仕方ないよな。なあ、ラウル」
ヴィーさんは僕にむけて、ちょっと可笑しそうに言う。でも嫌そうではない。むしろちょっとほっとしているようにも見えた。
ダンジョンの奥へ向かって、先を走るジャウマさんの後を追いかける。
「なんだか変な臭いが……」
変な臭い、といったけれど、僕はこの臭いの正体を知っている。これは、血の臭いだ。
僕の声を聞いて、ジャウマさんの足がさらに早まる。
「お前のポーションが頼みだぞ」
ヴィーさんがポンと僕の肩を叩いた。
薬草を採集するだけでなく、自分で調合をするようになって、僕のマジックバッグには常に多数のポーションが入っている。
でも人間ではない彼らは、傷付いても軽い傷であれば自然に塞がって直ってしまう。それより深い傷は、アリアちゃんやセリオンさんの回復魔法で治していた。
でも今はその二人が居ないから、このパーティーに回復魔法はない。僕のポーションで治せる程度の怪我ならいいんだけど……
不安と緊張で、バッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。
* * *
さほど広くなかった道は、進む毎に広さを増し、天井も高くなっていく。道の先に続いた広い部屋のような空間に足を踏み入れると、その中央には大きな岩があった。
その岩が、赤い目でギロリとこちらを睨みつける。
いや、これは岩じゃない。魔獣だ。
「ロックドラゴン……?」
魔物図鑑で見たことがある。一見すると、岩と見紛うような鱗を持つ竜種の魔獣だ。見た目の通り体が岩のように固く、生半可な武器ではダメージを与えることもできない。
でも図鑑で見たやつはこんなに大きかっただろうか?
「ああ、こいつはロックドラゴンの上位種で、ギガントロックドラゴンだ。ダンジョンの奥にしかいねえからな。図鑑には載っていない」
そのギガントロックドラゴンをよく見ると、前足に何かが握られている。
「カルロ!」
ジャウマさんが名を呼ぶと、握られたままでこちらを向く。まだ生きている!
ドラゴンは僕らに向けて、事も有ろうにカルロさんを投げつけてきた。
「あっ!」
僕が声を上げる前に、もうジャウマさんが飛び出している。カルロさんの体が地面に叩きつけられる寸前に、体ごとがっしりと受け止めた。
「ありゃあ、ジャウマでなきゃ受け止められねえよなぁ」
ヴィーさんが揶揄うような口ぶりで言った。
「カルロ、大丈夫か?」
「あ、兄貴…… すまない」
すぐさまヴィーさんが二人の前に出て、クロスボウでドラゴンの顔面を目掛けて矢を放っている。ヴィーさんがドラゴンの注意を引き付けている間に、ジャウマさんがカルロさんに肩を貸して僕のもとに連れてきた。
「ラウル、こいつを頼めるか?」
「はい、もちろんです!」
僕の返事を聞くと、ジャウマさんは大剣を手にしてドラゴンに向かっていった。
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