招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
68 / 135
第六章

6-9 新しいダンジョンに入る

しおりを挟む
 新しいダンジョンでは、なかなか奥の階層にまで進めずにいるのだそうだ。

 上位の冒険者が奥に進んでしまうと、手前の守りが薄くなる。全体的な守りの厚さを保とうとすれば、当然人数が必要になってくる。だから無理に最前線まで行かなくても、充分に調査の助けになるのだと言われた。

 多分ジャウマさんとヴィーさん二人だけなら、最前線でも足りるどころか余るほどに活躍できるだろう。
「まあ、ラウルもいるからな。無理なく様子をみて進もう」
 ジャウマさんは、僕の顔を見ながらそう言った。

 それなのに今、僕らは最初に思っていたよりも下の階層に来ている。ここまでの階層の魔獣が想定よりも少なかったからだ。

「なかなかに優秀なんじゃねえか?」
 ヴィーさんが偉そうに言うのは、このダンジョンに調査に入っている冒険者たちのことだ。
 この階層でもほとんど魔獣に出会うこともなく、僕らはさらに下の階層に降りた。

 * * *

 ふと、二人の雰囲気が変わっていることに気が付いた。ジャウマさんはともかく、ヴィーさんまでもが真剣な表情になっている。
「あ、あの…… どうかしたんですか?」

「あ、いや。音が聞こえてな」
「音……? ですか?」
「ああ、この先で誰かが戦っているようだ。しかも――」

 ジャウマさんはそこで言葉を止めた。多分、あまり良くない雰囲気なのだろう。

「助けにい……」
 咄嗟とっさに口から出かかった言葉を飲み込んだ。僕らに他の冒険者を救う義務はない。先日言われたばかりだ。

 口籠くちごもった僕の顔を見て、ジャウマさんはフッと鼻で笑った。
「そんな顔をするな。とりあえず様子を見にいこう」
「まあ、ラウルだけを行かせるわけにはいかねえしなあ」
 ヴィーさんが、ニヤニヤ笑いをしながら言った。


 今までよりも早足で、でも周りを警戒しながら進む。
「誰かこっちにやってくる」
 先頭を進むヴィーさんが、小声で僕らに告げた。

 冒険者らしき一行が、バタバタと何かから逃げるように走ってくる。先頭を走ってくる人に見覚えがあった。この町についた日にギルドで会ったブラドさんだ。
 一行は僕らの前で足を止めた。ブラドさんの他に、やっぱりあの日に見かけた彼らの仲間らしい冒険者が二人。もう一人は初めて見る顔だ。装備からすると、彼らより低ランクの冒険者だろう。真っ青な顔をして震えていた。

「どうした? 何があった?」
 ジャウマさんが声をかけると、ブラドさんはその両腕にすがりつくようにして言った。
「ジャウマ! 頼む、カルロを助けてくれ!」
「カルロを? あいつを置いてきたのか?」
「いいや、違う。見た事のないでかい魔獣が現れて、あいつが俺たちを先に逃がしてくれた。あいつはまだ戦っている!」

「行こう」
 それだけ言って、ジャウマさんは僕らを置いて、走り出した。

「へえへえ。リーダーの決定なら仕方ないよな。なあ、ラウル」
 ヴィーさんは僕にむけて、ちょっと可笑おかしそうに言う。でも嫌そうではない。むしろちょっとほっとしているようにも見えた。


 ダンジョンの奥へ向かって、先を走るジャウマさんの後を追いかける。
「なんだか変な臭いが……」
 変な臭い、といったけれど、僕はこの臭いの正体を知っている。これは、血の臭いだ。
 僕の声を聞いて、ジャウマさんの足がさらに早まる。
「お前のポーションが頼みだぞ」
 ヴィーさんがポンと僕の肩を叩いた。

 薬草を採集するだけでなく、自分で調合をするようになって、僕のマジックバッグには常に多数のポーションが入っている。
 でも人間ではない彼らは、傷付いても軽い傷であれば自然に塞がって直ってしまう。それより深い傷は、アリアちゃんやセリオンさんの回復魔法で治していた。
 でも今はその二人が居ないから、このパーティーに回復魔法はない。僕のポーションで治せる程度の怪我ならいいんだけど……
 不安と緊張で、バッグの持ち手をぎゅっと握りしめた。

 * * *

 さほど広くなかった道は、進む毎に広さを増し、天井も高くなっていく。道の先に続いた広い部屋のような空間に足を踏み入れると、その中央には大きな岩があった。

 その岩が、赤い目でギロリとこちらをにらみつける。
 いや、これは岩じゃない。魔獣だ。

「ロックドラゴン……?」
 魔物図鑑で見たことがある。一見すると、岩と見紛みまごうような鱗を持つ竜種の魔獣だ。見た目の通り体が岩のように固く、生半可な武器ではダメージを与えることもできない。
 でも図鑑で見たやつはこんなに大きかっただろうか?

「ああ、こいつはロックドラゴンの上位種で、ギガントロックドラゴンだ。ダンジョンの奥にしかいねえからな。図鑑には載っていない」

 そのギガントロックドラゴンをよく見ると、前足に何かが握られている。
「カルロ!」
 ジャウマさんが名を呼ぶと、握られたままでこちらを向く。まだ生きている!

 ドラゴンは僕らに向けて、事も有ろうにカルロさんを投げつけてきた。
「あっ!」
 僕が声を上げる前に、もうジャウマさんが飛び出している。カルロさんの体が地面に叩きつけられる寸前に、体ごとがっしりと受け止めた。

「ありゃあ、ジャウマでなきゃ受け止められねえよなぁ」
 ヴィーさんが揶揄からかうような口ぶりで言った。

「カルロ、大丈夫か?」
「あ、兄貴…… すまない」
 すぐさまヴィーさんが二人の前に出て、クロスボウでドラゴンの顔面を目掛けて矢を放っている。ヴィーさんがドラゴンの注意を引き付けている間に、ジャウマさんがカルロさんに肩を貸して僕のもとに連れてきた。

「ラウル、こいつを頼めるか?」
「はい、もちろんです!」
 僕の返事を聞くと、ジャウマさんは大剣を手にしてドラゴンに向かっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...