招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第八章

8-10 魔獣騒ぎ

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 厚い石壁に囲まれた町の門へ向かって、アリアちゃんと手を繋いだまま精一杯駆ける。僕らの後ろからクーも付いてくる。
 頼みの門番は、仲間同士で話に夢中になっているのか、なかなか僕らに気付いてくれない。

「た、助けてください!!」
 精一杯の声でそう叫ぶと、頑丈そうな金属鎧を身に付けた門番たちは、ようやくこちらに気が付いた。

「おお、お前たちどうしたんだ!?」
 門番の前までやっと辿たどりつくと、すっかり息があがっていた。膝に両手をついて、ハアハアと肩で息をする。息が荒れすぎて、なかなか言葉が出てこない。

「ま……魔獣が…… き、北の……」
 たったこれだけの言葉をようやく絞り出した僕に代わって、アリアちゃんが一歩前に出た。
「北の森に大きな魔獣が現れて…… 私たち、やっとの思いで逃げて来たんです!」
「クゥ!」
 ……アリアちゃんとクーはまだまだ余裕がありそうだ。ううう、自分が情けなく思える。

「なんだと! 『スタンピード』の晩以外には、あの辺りには下位の魔獣しか居ないはずだぞ」

「あんたたち! もしかして、北の森にポロの実を採りに行ったのかい?」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、ポロの実を売っていた屋台のおばさんだ。おばさんが背負った籠にはポロの実が入っているのが見える。どうやらここまで売りに来ていたらしい。

「はい、あの――」
「ラウルがもっと食べたいから採りにいこうって」
 僕が言い訳をする前に、アリアちゃんが僕の所為せいにされてしまった。大人たちの視線が僕に集まる。ううう……
「あ…… うん、美味しかったから……」

「まだ誰か、森に残っているか?」
「いいえ、僕たちだけだと思います。あ、あの、危ないですから、冒険者ギルドに調査の依頼したらいいんじゃないでしょうか?」


 僕の提案通りに、すぐに冒険者ギルドから北の森を調査するための冒険者が派遣された。

「これでいいんだよね」
「うん、後はパパたちに任せよっ」
「クゥ!」

 北の森に強力な魔獣が寄り付かなかったのは、あのダンジョンに居た『黒い魔獣』の気配がしていたからだ。
 でももう『黒い魔獣』もいないし、あの『黒い魔力』もアリアちゃんが浄化してしまってすでに無い。

 他の森と同じように、北の森に強力な魔獣が棲みつくようになるのは、時間の問題だろう。
 でも事情を知らない町民たちは、今までのように大した用心もせずにあの森へ入ってしまうだろう。

 だから、被害が出る前に「北の森も安心できない場所になった」ことを知らしめよう。今回僕らが大騒ぎをしてみせたのは、それが目的だ。

 今頃、ジャウマさんとヴィーさん、セリオンさんの3人が、冒険者相手に獣の姿で暴れているに違いない。さすがにいつものような姿では大騒ぎになりすぎるので、控えめな大きさにしておくと言っていたけど。

 * *

 3人が宿の部屋に帰ってきたのは、辺りがすっかり暗くなった頃だった。
「うひゃー 腹が減ったな。メシを買っておいてくれたか?」
 買っておいた串焼き肉とチーズを挟んであるパンを差し出すと、どかっと床に座り込んだヴィーさんは嬉しそうにそれをつかんでかじり付いた。

「私は先に体を洗ってくる」
 セリオンさんはそう言って、浴室に向かった。そう言えば、3人とも着ている物がかなり汚れている。
「まあ、森を駆け回ってきたからな。当然だろう」
 ジャウマさんが言った。でも怪我などはしていないようだ。

「相手に大きな怪我をさせねえようにってのが、なかなか面倒だったなぁ」
 手加減をした所為で、調査に来た冒険者たちが諦めて帰るまでに、時間がかかってしまったそうだ。
 まだ脅しが足りないかもしれないので、もう一泊して明日も森に行くと言う。

「大きさを変えて、別の魔獣のように見せておけば、森に何匹もいると思うだろう。ついでに、ダンジョンで倒した魔獣の遺骸もいくつか置いていこう」

 魔獣の何体かは討伐できたが、まだほかにも潜んでいるかもしれない。そんな風に見せるのが目的らしい。全て討伐できたと思われてしまったら、この騒ぎの意味がなくなってしまう。
「明日は夕方にこの町を発つからな。旅の準備をしておいてくれ」

 3人が順番に浴室を使い、3人の為に買っておいた食事が無くなる頃には、アリアちゃんと僕がいつも寝ている時間になっていた。

「じゃあ、そろそろ私は隣の部屋で休むね」
 アリアちゃんはそう言って立ち上がると、僕の方をちらりと見た。
 うん? 僕も一緒にって事だろうか?

 アリアちゃんは、そのまま視線をヴィーさんの方に移して言った。
「えっと、ヴィーパパ。今日は私と一緒の部屋で寝よう?」

「……へっ!?」
 昨日のアリアちゃんは、ヴィーさんをきっぱりと拒否していたのに。突然の心変わりの発言に、ヴィーさんの細い垂れ目が驚きでまん丸になった。

「私の中のクロちゃんが、そうしたいって言ってるの。ずっと一人で寂しかったって。クロちゃんもパパと一緒に寝たいって」
 クロちゃんとアリアちゃんが呼ぶのは、アリアちゃんの中に吸い込まれて消えた、あの黒兎のような『黒い魔獣』のことだ。

 アリアちゃんの言葉を聞いて、ヴィーさんは何故か勝ち誇ったような顔で、僕の方を見てにやりと笑った。
 そんなヴィーさんに向けて、アリアちゃんがちょっとだけ照れくさそうな様子で言う。

「もちろんヴィーパパとだけじゃないよ。この次の時にはジャウパパともセリパパとも一緒のお部屋にするんだからねー。順番だよっ。クーおいでっ」
「クゥ!」

 言葉の最後に呼ばれたクーが駆け寄ると、アリアちゃんは部屋を出るドアに手をかける。
 そこで何かを思い出したように、今度は僕の方を見た。

「ラウルとも、だからねっ」
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