招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第九章

9-2 夜の星に願う

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「で、どうだった?」
 ジャウマさんたちが床に車座で座り込むのを見て、同じようにその輪の端に混ざる。その僕の隣に、当たり前のようにクーもぺたりと座り込んだ。

「以前より悪化してるな」
 ジャウマさん、セリオンさんの方に向かって、苦々しい表情でヴィーさんが言う。悪化って、病気か何かだろうか?

「本人たちにとっては『悪化』ではないんだろうな」
 ジャウマさんはそう応えてから、今度は僕に向けて言った。
「この国の者たちは、神に対する信仰心が強いんだ。異常なほどにな」

 次いで、セリオンさんが説明を続ける。
 ここ『獣人の国』の者たちが信仰する対象は、人間たちと同じこの世界の創造神なのだそうだ。

 しかし彼らは自分たちを『神によって遣わされた、特別な存在』だと言っているのだそうだ。
 対して人間は自分たちを『神に愛されし、神の仔』だと言う。
 そうして、各々おのおのが自分たちこそ『より神に認められた存在』だと主張しているのだと。

 ヴィーさんが言うには、その信仰に対する熱狂具合が以前より強まっているらしい。

「おそらくだが、獣人たちにとって都合のいい『神の教え』を流布るふしているヤツがいるな。以前聞かなかったような噂も耳にした」
「どんなだ?」
「これから『獣人』がこの世界を統べる時代がくるだとか、物騒な噂だな」

 それを聞くと、セリオンさんが深くため息をついた。
「……まあ、迫害された過去がある以上、次こそは自分たちが上に立つ世を願うのもやむを得ないのかもしれないが…… ともかく、ラウルくんはまだこの国に慣れないだろうから、出歩くのは控えた方がいいだろう」

 「そうだな。俺とヴィーが酒場に行ってもう少し情報を集めてこよう。ラウルとアリアはクーとここで待っていろ。セリオンに夕食を買って帰らせる」

 そう言って、ジャウマさんたちは立ち上がった。

 * * *

「ねぇ、ラウル」
 食事を終え、宿の部屋で寝る支度をしていると、アリアちゃんが嬉しそうに僕の名を呼びながら寄ってきた。
「どうしたのアリアちゃん」
「あのね、とーーっても綺麗なの。こっちに来てー」

 僕の返事を待たずにアリアちゃんが僕の手をとる。そのまま一緒に窓際に行くと、そこから夜の空を見上げた。

 今晩は月が出ていない所為か、星たちがとてもよく見える。それだけでなく、人間の町に比べてこの町には星の灯りの邪魔をする通りの街灯も少ない。人間に比べて獣人たちは夜目が効くものも多いので、灯りも最低限で良いのだそうだ。

「ほら、すっごい綺麗よー」
「クゥ」
 僕らが話しているのに混ざりたいのか、クーもいつの間にか足元に来ている。何をしているのか気になるようだ。

「東方のとある国では、『星祭り』の日があるそうだ。その日には皆で星に願い事をするらしい」
 窓近くの椅子に腰かけて寝酒を飲んでいたセリオンさんが、眼鏡を直しながら言った。

「こんなに綺麗な星空に、お願い事をしたくなるのもわかるなぁ」
 ポツリと呟くと、アリアちゃんが嬉しそうな顔で僕の方を見る。

「ラウル、星にお願い事をしましょう」
 無邪気に微笑むアリアちゃんに、つい表情が緩んだ。
「ふふっ。そうだね、何をお願いする?」
「私はね、ずっとずーーっと皆と一緒にいたいなぁ」
 そう言って、彼女はもう一度星空を見上げる。

「うん、そうだね」
 そう応えると、アリアちゃんは一瞬驚いたような顔をして僕の方を見た。でもその表情はすぐに崩れて笑顔に変わる。
「うん!」

 それから、もう一度星空を見上げて、少し寂しそうに言った。
「私ね、あの城でずっと待ってたんだよ。皆のこと。本当はね、目が覚めた時にラウルが居なかったの、悲しかった。もう二度と会えないんじゃないかと思った」

「……あ」
 その言葉で、不意にアリアちゃんと出会った時のことを思い出した。
 あの時、泣きながら僕にしがみついて来たアリアちゃんを、僕は心細かったからだろうと思っていた。でも、あの涙は心細かったからではなく――

「だから、ラウルと会えた時、すっごく嬉しかったんだ。ラウルが、これからも私と一緒にいてくれたら、嬉しいな……」
 何故かその言葉の最後が、遠慮がちに途切れる。

 そんなに心配しなくていいのに。もう僕らは仲間なんだから。
「うん」
「クゥ!」
 僕に合わせてクーが元気に返事をすると、アリアちゃんはまた元気な笑顔になった。

 * * *

 ジャウマさんとヴィーさんが帰ったのは、かなり夜遅い時間だったらしい。僕が二人と顔を合わせたのは朝起きてからだった。

「目的地が決まったぞ」
 ジャウマさんは皆の前に、昨晩入手してきたらしい地図を広げた。

 今回の目的地は『獣人の国』の中心に近いところにあるそうだ。
 大抵の国では、その中心付近に近づくほどに大きく開けた道と町があるものだ。でも『獣人の国』はその逆で、国の中心部には大きな森林地帯がある。

 その森林地帯の片隅に、古の遺跡があるのだそうだ。そこに手練れの者と、奴隷が集められているのだそうだ。

「奴隷…… ですか」
 この国で『奴隷』ということは、それは人間なのだろう。

「そこに『黒い魔獣』が居るんですか?」
「いるだろうな。まあ、あれはそうそう手に負えるようなものでもない」
「でもこの国には沢山いるって言っていましたよね」
「ああ、だから集められている可能性もある」

 話を交わし合うジャウマさんと僕に向けて、セリオンさんが口を開く。
「しかし、あれを制御できる力を持つものは、一人しかいない」
「魔王…… だな」
 珍しく、ヴィーさんが真剣な顔をして言った。

「でも魔王はまだ復活しないはずだ」
 ジャウマさんの言葉に、アリアちゃんが何かを考えるように視線を落としたのが見えた。

「何者かが、魔王の力を使って『黒い魔獣』を制御しようとしていると見るのが正解だろう」
「ああ、ひとまずその遺跡に近い、この町を目指そう」
 ジャウマさんが地図を指差して言った。
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