招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第九章

9-5 奴隷商に行く

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 生まれてこの方、奴隷どれい商になんか行った事がない。なんだか変な緊張をしている自分がいる。
「ラウルくんは、奴隷商は初めてなんだろう?」
 僕の様子に気が付いたのか、隣を歩くセリオンさんがそっと僕に尋ねた。
「人に雇われている奴隷を見たことはありますが、奴隷商ははじめてで……」
「私、行ったことあるよ」
「クゥ!」
 アリアちゃんの言葉に合わせて、クーも鳴いた。いやクーは違うだろう。

「奴隷は人間、なんですよね」
 そう言いながら、今の自分も獣人のような姿をしていることを思い出す。人間を擁護ようごするような言い方をしていたら、変に思われるだろうか。

「まあ、人間も獣人もいるだろうな。ここが『獣人の国』であっても、奴隷に落ちる理由はおおよそ変わらない。犯罪を犯した者、借金がある者、捕まって売られた者もいるだろうが。別に『人間だから』という理由だとは限らない」

 それは…… そうなのかもしれない。
 でも、『人間の国』では獣人を手荒く扱う人間たちが悪いように見えたし、この国では人間を物の様に扱う獣人たちが酷いことをしているように思えてしまう。

「私たちはそのどちらでもない。ラウルくんならどちらの味方をするのかい?」
「え……?」
 ついアリアちゃんに目を向ける。
「ラウルは私の味方だよね。セリパパ、いじわるしたらダメよー」
 アリアちゃんがまるで見方をしてくれるかのように、僕の腕にしがみついて言った。


 大通りから裏路地に少しだけ入ったところに、奴隷商の建物があった。建物の外見自体は他の商店とそんなに変わらない。掲げられた看板がなければ、奴隷商だとはわからないだろう。
 少しきしむ扉を開けて店内に入る。店の中は商店の様な陳列棚やカウンターは無く、応接室のようなソファとテーブルが置かれていた。

 ここに奴隷がいるんだろうか。ついつい店内をキョロキョロと見回していると、同じように辺りを見回していたヘンリーさんと目が合って、慌てて視線を逸らせた。

「いらっしゃいませ。どんな奴隷をお探しでしょうか?」
 その声に顔をあげると、猫の耳をもったおじさんが僕らにむけてニコニコと笑っていた。店主だろう。

「いや、奴隷を買いに来たんじゃない。少し話があるんだが」
 ジャウマさんがそう言うと、おじさんは明らかに不機嫌な表情になった。
「こちらは仕事中なので…… 邪魔をされるのは困りますね」

「もちろんタダってわけじゃないさ。なあ」
 そう言って、ヴィーさんが店主の手に何かを握らせる。店主は、軽く手を開いて中身を確認すると、細い猫の目をさらに細めてニヤリと笑った。

「これも仕事の一つですね。どうぞこちらへ」
 そう言って、僕らを応接セットへ誘った。

 * * *

「確かに、大森林の中へ奴隷を連れて行くのなら、ここで仕入れることもあるでしょう。しかし普通の行商人が商品として奴隷を買うことはほとんどありません」
 店主のおじさんは、猫のひげをぴくぴくさせながら話した。

「行商人だと名乗ってはいないかもしれない」
 セリオンさんが静かに言う。
「ああ、そうだな。こいつの話を聞いた感じだと、まともな行商人には思えねえからな」
 ヴィーさんが、ヘンリーさんを指しながら言った。

「ああ、行商人にしては変な格好をしていた。まるで魔法使いみたいなローブ姿で――」
「ローブ? 魔法使いのような、ですか? それなら心当たりがあります」

 店主が言うには、ローブ姿の客なら何ヶ月かおきに来る常連がいるのだそうだ。
「買っていくのは必ず人間の奴隷ですね。魔力の低い者がいいと」
「それには何か理由があるのか?」
「さあ、聞いたことはありません。なにせお客様のお名前も聞いていないくらいですから」
「名前も知らないのか?」
「ええ。特に奴隷を買うお客様の事情は様々ですから。その配慮も含めて、お客様に合った奴隷をお売りするのが、私どもの仕事ですから」

 主にジャウマさんとヴィーさんと店主の間で、ポンポンとテンポ良く話が交わされる。僕らはソファーの端に座ってただ黙って聞いていることしかできない。

「ふむ。魔力が低い者の方がいいってのは珍しいよな」
 たかが日常のことでも、魔力が高い方が出来ることは多い。例えば僕がアリアちゃんの城でしたような魔法石に魔力を籠める仕事も、ある程度の魔力がないとできないことだ。

「魔力の低く、むしろ何もできない奴隷の方が好都合なのだろう」
 静かに冷たい口調でセリオンさんが言った。

「ん…… なるほどな。それなら頻繁に買っていくのも理由がつくよなあ」
 ヴィーさんが悪人のような笑みを浮かべて言う。ジャウマさんも、ああと言って、腕を組みなおした。
 なんだろう。なんだか僕にだけわかってないみたいだ。

「そのお客様が奴隷を連れて行く先が、ヘンリーさんの言う村なんですか?」
 奴隷商の店主は、多分わざとヘンリーさんの不名誉な二つ名を口にした。

「そのお方の目的地は、この町からそう遠くはないようです。余分の食料を買っていく様子はありませんでしたので、その日中に着くくらいの距離でしょう。いつも森の中央方面に向かう門から出ていって、その先の分かれ道を右手に曲がっています」

「おお…… あんたは、俺の話を信じてくれるのか?」
 嬉しそうに前のめりでヘンリーさんに向けて、店主は首を横に振った。
「いいえ。私にとっては、あなたの話が本当であろうと嘘であろうと『どうでもいい』だけなのです。ただ……」
 そこまで言うと、今度はジャウマさんたちの方を向いた。

「少し気になっていることがあるんです。その常連さんも当然獣人なのですが、何の獣の一族だかわからないのです」
「どういう意味だ?」

「その方は店の中でもローブを外されずに、フードも顔が見える程度にしか上げられません。ですが、どうにもその服の下に翼があるようなのです。頭部にはおそらく耳。牙もあり、ローブの裾から獣の尾が見えたこともあります」
「たしかに変だな。複数の特性を持つ獣人は生まれないはずだろう?」
「ええ。なので複数の獣人が同じ人物を装っているのか、それとも魔獣のキメラのような獣人なのか……」

 その会話に、いつだか出会った『神魔族』を思い出した。
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