招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第十章

10-6 雨宿りに入った洞の中で

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 岩山の麓に、運よく大きめのほらがあり、雨から逃げてそこに逃げ込んだ。
 が、そこには先客が居た。

 旅装の男性と女性、雰囲気からして夫婦だろう。三角の耳に長くしなやかな尾。猫か何かの獣人のようだ。二人の向こう側に寝袋が見える。そこでもう一人、寝ているようだ。

 突然洞に入ってきた僕らに、二人は手にナイフを持って身構えた。警戒されるのは当然だ。
「驚かせてしまってすまない。俺たちもここで休ませてくれないだろうか」
 ジャウマさんが、空の両手を上げてみせながら、二人に訴える。皆にならって、僕も両手を上げる。
 彼らは緊張した表情で僕らを一通り見回す。男性ばかりでなく、女の子がいることで安心してくれたのだろう。ようやく表情を緩めてナイフを納めた。
「ああ、遠慮せず休んでくれ」
 男性の言葉に、止めていた息をそっと吐いて、両の手を下ろした。

「その子、どうしたの?」
 アリアちゃんが、二人の後ろをのぞき込むようにしながら、ご夫婦のもとへ寄っていく。寝袋で休んでいるのは少年のようだ。夫婦の子供だろう。

「あ、ああ。体調を崩してしまって……」
 アリアちゃんは、男性の言葉を聞きながら、寝袋にくるまれた少年を少しの間じっと見ている。不意に、こちらへ振り向いた。

「ラウル、診てあげてくれない?」
 僕に向かって言った。

 慌ててアリアちゃんの隣へ行き、同じように少年の様子を見る。
 年齢は10歳くらいだろう。ハァハァと苦しそうに息をしていて、やけに顔が赤い。どうやら熱があるようだ。

「熱で苦しそうだから、解熱剤をあげよう。少しは楽になるはずだよ」
 解熱剤なら、以前に調合したものを持っている。
 肩から下げたマジックバッグに手を差し込んで薬を探しはじめると、女性が遠慮がちに声をかけてきた。
「あのう…… お医者様ですか?」
「あ……いいえ。ただの調合師です、すみません。ちゃんとお医者様に診てもらえたらいいんですけど……」

 期待をさせておいて裏切るようで申し訳ない。そう思ったけれど、二人は思ったよりは残念な顔をしなかった。
「ありがとうございます。旅先で医者にも見せられませんし、どうしようかと困っていたところなのです」

「まあ、医者に見せて治るような物でもないだろう。こりゃ、『魔力過多』の症状だな。しかも重症だ」
 僕の後ろから、ヴィーさんが顔を出して言った。
「もっと軽いうちに魔力を発散させときゃ酷くはならなかったろうに」

「それが、私たちの種族は水が苦手なんです。この雨降りで、ここから出られなくなってしまいまして……」
 彼らはやはり、猫の獣人だそうだ。いわく、獣人たちが『魔力過多』に陥ることは、本当にまれではあるがあるんだそうだ。人間には見られない症状らしい。

 バッグから取り出した解熱剤を、せさせないように少しずつさじで運んで少年の口に含ませる。時間をかけてひと瓶分を飲ませると、心配そうに見ていたご夫婦の方を向いた。
「しばらくすれば、薬が効いてくると思います。少し様子を見ましょう」
 僕の言葉に、お二人は少しだけほっとしたような表情になった。

 ようやく一息ついて洞の中を見回す。
 ジャウマさんたちが、僕らの休める場所を作ってくれていたので、そこに腰を下ろした。
「あの子、元気になるといいね」
 僕の隣に座り込んだアリアちゃんが、心配そうに言う。

 あの薬が効いても、今よりは少しは楽になるだけだ。根本的な原因を取り除いてあげないと。
 反対側の隣に座り込んだクーの背中をでながら、ヴィーさんに話しかける。

「ヴィーさん、『魔力過多』は魔力を発散させてあげればいいんですよね。魔法を使わせてあげればいいんですか?」
「ああ。だがこの洞窟の中じゃあ難しいだろう。魔法の威力が大きくなりすぎて、崩れる危険性がある」

 なるほど。でも魔力を発散すればいいのなら、他に何か手があったはずだ。自分の記憶の中を探ろうと、うーんと考え込んだ。

 故郷の町を出て、アリアちゃんたちと旅をするようになって、薬草の採集をするだけでなく、色々な薬を作れるようになった。
 さらにアリアちゃんの城では、以前の自分が残した調合道具と資料のおかげで、さらに作れる薬が増えた。それだけでなく、以前の僕がしていた魔法薬の研究を引き継いで――

 そこまで考えて、気になっていた物に思い当たった。

「ひとつ…… 心当たりがあります。その薬を作ってみたいんですが、いくつか問題がありまして」

「お? なんだ?」
 僕の言葉に、ヴィーさんがニヤリと笑う。僕の話が聞こえたようで、ジャウマさんとセリオンさんもこちらを見た。
 
「はい、本来作るはずだった薬の失敗作なんですが、今回の治療に使えると思います。ただ、材料はあるんですが下処理がされていないんです。そこからやる必要があるので、時間がかかってしまうんです」
 皆の顔を見回しながら話す。

 セリオンさんは涼しい表情のまま、軽く眼鏡を直した。
「そういうことなら、私たちも協力しよう」

「外はひどい雨でまだしばらく止みそうにない。どうせここに足止めだろう。さっきの薬で少年の様子が落ち着いているうちに、その薬を作ろう」
 ジャウマさんもそう言ってくれる。しかもリーダーの承認が得られたと言うことだ。

「さあ、まず何からやればいいんだ?」
 さっきからずっとニヤニヤ顔のヴィーさんが、腕を組みながら言った。
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