122 / 135
第十章
10-8 洞で朝を迎える
しおりを挟む
薄く目を開けようとしたところで、眩しさで目を瞬かせた。
いつの間にか眠っていたらしい。雨も止んで、洞の入り口から深く差し込んできた朝日が、僕の顔に当たっている。
「よぉ、起きたな」
頭の上からヴィーさんの声がした。驚いて顔を上げると、ヴィーさんのニヤニヤ顔が僕を見下ろしている。
僕が布団の代わりにもたれていたのは、ヴィーさんの大きな翼だった。
「え? ええ? す、すみません。僕、こんなところで寝てしまって……」
僕の言葉に、ヴィーさんはわざと顔を顰めてみせる。
「俺の腕の中を、こんなところとか言うなよ」
いや、さすがに腕の中ではない。その言葉で、ヴィーさんの腕枕で目覚める自分を想像してしまった。全く嬉しくもない。
ヴィーさんのさらに向こうを見ると、反対の翼にはすやすやと眠るアリアちゃんがいた。
「お前ら、気を張りすぎていたみたいだからな。セリオンが魔法で眠らせたんだ」
ああ、そういうことか。道理で眠った時の記憶がないわけだ。
そのセリオンさんは、向かい側の岩壁に背中を預けて目を瞑っている。でもセリオンさんのことだから、もう起きてはいるだろう。そのセリオンさんのふさふさの尾に寄り添うように、クーが丸くなって眠っている。
立ち上がって洞の中を見回すと、洞の奥手で昨日の親子連れが休んでいる。彼らもセリオンさんが眠らせたのだろうか。
ご夫婦を起こさない様に、寝袋で眠る少年のかたわらにそっと移動した。すっかり顔色が良くなっている。もう大丈夫だろう。ほっと胸を撫でおろした。
洞の入り口から差し込む朝の光に影が落ちて、振り返った。入口に立っていたのはジャウマさんだ。いつものように早起きをしていたんだろう。それだけじゃあない。手に何かを持っている。ウサギを2羽獲ってきたようだ。
「よお、起きたな」
そう言って、手にしたウサギをこちらに差し出す。
ジャウマさんたちは壊滅的に料理が出来ない。あれを受け取って料理するのは、いつも通り僕の仕事だ。
「おはようございます。これは朝食用ですね」
「ああ、頼む」
ジャウマさんの手からウサギを受け取ろうと、入口の方に数歩進む。その時、コツンと何かが肩に当たった。足元に落ちたそいつは、そのままころころと転がっていく。小さな石ころだ。
またひとつ、目の前に小石が落ちる。さらに一つ、今度は肩に当たる。
これは……
「いけない! 洞が崩れるぞ!!」
ジャウマさんの大声に、辺りを見回した。
すでにヴィーさんはアリアちゃんを抱きかかえて、出口へ駆けだそうとしている。セリオンさん、クーもすでに立ち上がっている。
でもその間にも落ちてくる石がどんどん増えてくる。これじゃあ、洞の奥にいる3人は確実に間に合わない……
無我夢中で手を前に差し出し、結界魔法を発動させた。
「ラウルくん、よくやったな」
セリオンさんの言葉で、ハッと自分を取り戻した。うまく……いったって事だろうか。
ゆっくり顔を上げた僕の視界に、皆の感心する顔と親子連れの怯えながらも驚いたような顔があった。
結界魔法はうまく発動したらしい。崩れてこようとしていた岩たちは僕の結界に阻まれて、まるで細長い筒のような形で留まっている。でもこの結界を解除すれば一気に落ちてくるだろう。
「ラウル、ここに出口をつくれるか?」
ジャウマさんが、元は洞の出口だった辺りの結界をトントンと叩く。そこだけは岩に塞がれずに外の景色が見えている。ジャウマさんに向けて、頷いてみせた。
* * *
すっかり雨の上がった朝の空の下で、兎肉を使った料理を朝食に振る舞うと、ようやく皆が笑顔になった。
ハーブを擦り込んだ兎肉のローストに、炙ったパンを添えて。深皿によそったスープには、肉だけでなく野菜もたくさん入っていて、美味しそうな香りと湯気を立てている。
ご夫婦も少年も、暖かい料理を久しぶりに食べるのだそうだ。あのジャウマさんが珍しく遠慮をして、代わりに彼らの皿にお代わりをよそった。
皿の上も殆ど空になりお腹が満たされたころ、猫獣人の父親が僕らを見回しながら言った。
「そう言えば皆様は、聖地へ巡礼に行かれるのですか?」
聖地? 巡礼? 少なくとも僕には、それらの言葉に心当たりは無い。
僕がうーんと考え始める前に、ヴィーさんが父親の言葉に応えた。
「ああ、そうだ。あんたらはそこから来たのか?」
「はい。巡礼を終えて、帰るところだったのです」
「だいぶ歩いて来たからそろそろ着くんじゃないかと思ったんだが。そこまではあとどのくらいだ?」
ヴィーさんは相手の会話に調子を合わせるのが上手い。今回もそんな感じだろう。肝心な部分は曖昧な言葉で誤魔化しながら、うまく話を繋げている。
そのやりとりと聞いた感じでは、僕らが目指していた大森林の奥にある町には、その『聖地』があるらしい。
朝食の後片づけも済み、出立の時が来た。猫獣人の親子とはここでお別れた。
「本当に、本当に色々とありがとうございました。お礼をしたいのですが、生憎この程度しか持ち合わせていませんでして……」
そう言って父親は、カチャリと軽い音のする布袋を申し訳なさそうに差し出した。
「いや。旅はまだ続くのだろう? それはあなた方に必要なものだ。もしも気にしてくれるのなら、またどこかで会った時に返してくれ」
そう言って、ジャウマさんが布袋を持つ手を押し戻すと、ご夫婦はまた深く礼をした。
森の木々に囲まれた道を、彼らと僕らは反対方向に歩み始める。
僕らに向かってめいっぱい手を振った少年の姿を見て、元気になって良かったと、洞が崩れた時に助けることができて良かったと、僕が役にたつことができて良かったと、心から思った。
いつの間にか眠っていたらしい。雨も止んで、洞の入り口から深く差し込んできた朝日が、僕の顔に当たっている。
「よぉ、起きたな」
頭の上からヴィーさんの声がした。驚いて顔を上げると、ヴィーさんのニヤニヤ顔が僕を見下ろしている。
僕が布団の代わりにもたれていたのは、ヴィーさんの大きな翼だった。
「え? ええ? す、すみません。僕、こんなところで寝てしまって……」
僕の言葉に、ヴィーさんはわざと顔を顰めてみせる。
「俺の腕の中を、こんなところとか言うなよ」
いや、さすがに腕の中ではない。その言葉で、ヴィーさんの腕枕で目覚める自分を想像してしまった。全く嬉しくもない。
ヴィーさんのさらに向こうを見ると、反対の翼にはすやすやと眠るアリアちゃんがいた。
「お前ら、気を張りすぎていたみたいだからな。セリオンが魔法で眠らせたんだ」
ああ、そういうことか。道理で眠った時の記憶がないわけだ。
そのセリオンさんは、向かい側の岩壁に背中を預けて目を瞑っている。でもセリオンさんのことだから、もう起きてはいるだろう。そのセリオンさんのふさふさの尾に寄り添うように、クーが丸くなって眠っている。
立ち上がって洞の中を見回すと、洞の奥手で昨日の親子連れが休んでいる。彼らもセリオンさんが眠らせたのだろうか。
ご夫婦を起こさない様に、寝袋で眠る少年のかたわらにそっと移動した。すっかり顔色が良くなっている。もう大丈夫だろう。ほっと胸を撫でおろした。
洞の入り口から差し込む朝の光に影が落ちて、振り返った。入口に立っていたのはジャウマさんだ。いつものように早起きをしていたんだろう。それだけじゃあない。手に何かを持っている。ウサギを2羽獲ってきたようだ。
「よお、起きたな」
そう言って、手にしたウサギをこちらに差し出す。
ジャウマさんたちは壊滅的に料理が出来ない。あれを受け取って料理するのは、いつも通り僕の仕事だ。
「おはようございます。これは朝食用ですね」
「ああ、頼む」
ジャウマさんの手からウサギを受け取ろうと、入口の方に数歩進む。その時、コツンと何かが肩に当たった。足元に落ちたそいつは、そのままころころと転がっていく。小さな石ころだ。
またひとつ、目の前に小石が落ちる。さらに一つ、今度は肩に当たる。
これは……
「いけない! 洞が崩れるぞ!!」
ジャウマさんの大声に、辺りを見回した。
すでにヴィーさんはアリアちゃんを抱きかかえて、出口へ駆けだそうとしている。セリオンさん、クーもすでに立ち上がっている。
でもその間にも落ちてくる石がどんどん増えてくる。これじゃあ、洞の奥にいる3人は確実に間に合わない……
無我夢中で手を前に差し出し、結界魔法を発動させた。
「ラウルくん、よくやったな」
セリオンさんの言葉で、ハッと自分を取り戻した。うまく……いったって事だろうか。
ゆっくり顔を上げた僕の視界に、皆の感心する顔と親子連れの怯えながらも驚いたような顔があった。
結界魔法はうまく発動したらしい。崩れてこようとしていた岩たちは僕の結界に阻まれて、まるで細長い筒のような形で留まっている。でもこの結界を解除すれば一気に落ちてくるだろう。
「ラウル、ここに出口をつくれるか?」
ジャウマさんが、元は洞の出口だった辺りの結界をトントンと叩く。そこだけは岩に塞がれずに外の景色が見えている。ジャウマさんに向けて、頷いてみせた。
* * *
すっかり雨の上がった朝の空の下で、兎肉を使った料理を朝食に振る舞うと、ようやく皆が笑顔になった。
ハーブを擦り込んだ兎肉のローストに、炙ったパンを添えて。深皿によそったスープには、肉だけでなく野菜もたくさん入っていて、美味しそうな香りと湯気を立てている。
ご夫婦も少年も、暖かい料理を久しぶりに食べるのだそうだ。あのジャウマさんが珍しく遠慮をして、代わりに彼らの皿にお代わりをよそった。
皿の上も殆ど空になりお腹が満たされたころ、猫獣人の父親が僕らを見回しながら言った。
「そう言えば皆様は、聖地へ巡礼に行かれるのですか?」
聖地? 巡礼? 少なくとも僕には、それらの言葉に心当たりは無い。
僕がうーんと考え始める前に、ヴィーさんが父親の言葉に応えた。
「ああ、そうだ。あんたらはそこから来たのか?」
「はい。巡礼を終えて、帰るところだったのです」
「だいぶ歩いて来たからそろそろ着くんじゃないかと思ったんだが。そこまではあとどのくらいだ?」
ヴィーさんは相手の会話に調子を合わせるのが上手い。今回もそんな感じだろう。肝心な部分は曖昧な言葉で誤魔化しながら、うまく話を繋げている。
そのやりとりと聞いた感じでは、僕らが目指していた大森林の奥にある町には、その『聖地』があるらしい。
朝食の後片づけも済み、出立の時が来た。猫獣人の親子とはここでお別れた。
「本当に、本当に色々とありがとうございました。お礼をしたいのですが、生憎この程度しか持ち合わせていませんでして……」
そう言って父親は、カチャリと軽い音のする布袋を申し訳なさそうに差し出した。
「いや。旅はまだ続くのだろう? それはあなた方に必要なものだ。もしも気にしてくれるのなら、またどこかで会った時に返してくれ」
そう言って、ジャウマさんが布袋を持つ手を押し戻すと、ご夫婦はまた深く礼をした。
森の木々に囲まれた道を、彼らと僕らは反対方向に歩み始める。
僕らに向かってめいっぱい手を振った少年の姿を見て、元気になって良かったと、洞が崩れた時に助けることができて良かったと、僕が役にたつことができて良かったと、心から思った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる