招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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最終章

11-7 一族の本懐

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 広い通路の突き当りに、豪奢ごうしゃ意匠いしょうの施された古く大きな扉があった。その扉にジャウマさんが手を掛ける。扉は大きくきしんだ音をたてて、ゆっくりと開かれた。

 扉の先は大きな広間だった。時が時であれば、ここが王の謁見の間だったのだろう。でも今は壁は崩れかけてるし、天井には穴も開いている。

 部屋に入った僕らがまず見た物は、部屋の中央に据えられた見上げるほどの大きな黒い魔石だった。その魔石からただならぬ程の魔力が漏れ出している。その魔力は黒いもやとなって渦巻き、天井の穴から外に逃げていく。この城を覆う雲の様に見えていたのは、あの魔力の靄だろう。

 もうここまで来たんだから、僕にだってわかる。あれはただの魔石じゃあない。
「あれが魔王、ですか」
「ああ、魔族の王ゼーンだ」
 ジャウマさんが答えた。

 その魔石の手前に何か古い布のようなものが落ちている。
「あれは、グラニソか?」
 セリオンさんの言葉に目を凝らす。確かにあれはグラニソのローブだ。名を呼ばれた事にも気づかないのか、全く動く様子がない。

 セリオンさんがローブに歩みより、端を持ち上げて中身を確認する。
 その表情が少し曇った。それから僕らの方に顔を横に振ってみせる。
「ダメだ。魔石に自分の魔力を吸わせたんだろう」
「魔王を目覚めさせようとしたのか……」

 ……グラニソは、魔王の復活を諦めないと、そう言っていた。
 そのグラニソが選んだ最期が、これだったのか……

「セリオン、そこから離れろ。グラニソの魔力で、魔王がわずかに目覚めたんだろう」
「それでアリアを呼びつけたのか。自分勝手な父親だな!」

 不意に、いつも感じていた魔力を感じ、バッとそちらを向いた。
 僕だけではない、ジャウマさんたちも同じようにそちらを見ている。

「アリア……」
 ヴィーさんが魔力の主の名前を呼ぶ。その部屋の正面に据えられた玉座に座ったアリアちゃんは、赤く光る目で僕らをじっと見ていた。

「アリア、迎えに来たぞ。もう『黒い魔獣』は居ない。俺たちと城へ帰ろう」
 ジャウマさんがいつもの優しい口調で話しかける。でも、彼の体は緊張を解いていない。アリアちゃんがいつもと同じ状態ではないからだ。
 それはヴィーさんとセリオンさんも同様で、クーでさえ今のアリアちゃんに尾を振ろうとはしていない。

『行かないわ。だって、アリアのお父様はここにいるもの。本当の、お父様』
 そう言って立ち上がったアリアちゃんはゆっくりとこちらへ歩いてくる。そして、魔王の魔石に手を伸ばした。

「やめろ! アリア!!」
 ヴィーさんが叫んだ。
 アリアちゃんに向かって駆け出したのは、ほぼ3人同時だった。遅れて僕も足を踏み出し、クーも続く。アリアちゃんはこちらを見ようともしていない。

 彼女の手の平から、黒い魔力の靄が出てくる。それらは、元から漂う魔力と混ざり合うと、ぐるぐると魔石の周り回り始める。その黒い靄の輪は急激に増して広がると、駆け寄ろうとしていた僕らを跳ね飛ばした。

「うわあ!!」
 元居た場所よりさらに後方まで飛ばされ、床で背中を打った。

「い、いった……」
 立ち上がろうと、体を起こした僕の目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
 ジャウマさんたちはすでに立ち上がり、黒い靄に囲まれた魔石の方を見つめている。その3人の向こうには、アリアちゃんが渦巻く黒い靄に囚われていた。
 その渦の中央にある黒い魔石の輪郭が崩れ、だんだんと人のような形を取っていく。

 魔石から変わった黒い人影の、顔に当たる部分に二つの赤い光が灯った。あれは……アリアちゃんの瞳と同じ色だ。
 ぞわぞわと何かが心の奥から湧き上がってくる。心臓がバクバクと音を立てる。これは多分、恐怖だ。

 放心したままのアリアちゃんを手に抱いて、その人影が口を開く。重々しい声が広間に響いた。
『お前たちは『神魔族』だな。姫を我がもとに連れてきたこと、褒めてやろう』

「いいや、違う。アリアは返してもらうぞ」
 対抗するように、ジャウマさんが声を張り上げた。

『何故だ? 姫の力が無ければ、我の完全なる復活は叶わぬ。神から力を貰い受けたお前たちが、何故神の意志に従わぬのだ?』

 神の意思と、魔王は確かにそう言った。
 魔王が……僕ら一族の王が崇める神とは、いったい……

『我ら一族の本懐は、この世界の神のご意志に従うことにあるのだ』
 その魔王の言葉で、思い当たった。

「ジャウマさん…… 僕ら魔族はこの世界に『呼ばれた』と言っていましたよね。僕ら一族は望んでこの世界に来たわけではない。ならば魔族をこの世界に呼んだのは、何者なんですか?」

 その存在は、少なくとも魔王より力を持っている。そして人間ではない。何かの誤算があった訳でなければ、僕らを脅威とする人間が、僕らを呼ぶはずはない。
 そして、アリアちゃん――姫様のお母様は『神族』だった。魔王と『神族』とに繋がりがあったと言うことじゃないだろうか。

「……もしかして、僕ら一族をこの世界に呼んだのは……」
「ああ、この世界の創造神だ」
 それを聞いた僕の心に沸いたのは驚きではなかった。に落ちた。そんな感情だった。

 そうだ、よく考えればその理由もわかる。ジャウマさんが言っていたじゃないか。この世界の住人たちは、元は魔力をもっていなかったと。
 創造神はこの世界の住人たちに魔力を与えたかったのだろう。その為に、僕ら魔族をこの世界へ呼び出した。

『その通り、全ては神のご意志なのだ。私は神の意思に従っているだけに過ぎない。神は言われた。この世界を我ら一族の力で満たせと』
 その力とは、魔族が持っていた魔力のことなのだろう。

「例えそれが神の意思であったとしても、俺たちは従えない。俺たちはただアリアを守りたいだけだ。お前が邪魔をするというのなら、俺たちは力づくでも抵抗しよう」
『ほほう』
 ジャウマさんの言葉に、魔王の瞳が怪しく揺れる。

『我に逆らえると思うのか?』
 その言葉と共に、魔王の腕の中に居るアリアちゃんの瞳が赤く光った。
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