彼女の側に居たい僕が選んだ転生先はぬいぐるみだった

都鳥

文字の大きさ
1 / 1

彼女の側に居たい僕が選んだ転生先はぬいぐるみだった

しおりを挟む
 手違いで死んだ僕を転生させてくれると、女神様は言った。
 転生先はどんなものでも良いと。なんなら無生物でもかまわないそうだ。

「なら、僕はぬいぐるみになりたいです」
「えっ?!」

 僕には好きな女の子が居た。でも陰キャの僕には告白どころか話しかける事すらできなかった。
 彼女と友達との会話を漏れ聞いて、彼女がぬいぐるみが好きで、いつも話し掛けたり、あまつさえ一緒に寝てるのだとも知った。

 いいなぁ、羨ましい。だから、僕は……
「ぬいぐるみになって、彼女の一番近くに居られるようにしてください」
「ふーーん、変わった願いだねぇ。でも女神に二言はないよ。叶えてあげよう!」

 そう言った女神様の手が光ると、僕の意識はすぅと遠のいて行った。

 * * *

 どうやら、僕は無事にぬいぐるみに転生出来たらしい。気がつくとまわりもぬいぐるみで囲まれていた。

 でもなんだか、予想していたのと雰囲気が違う。てっきり、おもちゃ売り場でにも並べられるのだと思ってたのに。
 ガラス越しに見える世界はやたらと賑やかで明るくて、でもおもちゃ屋の賑わいとはまた違う。そして自分は並べられているというより、転がされている感じだ。まわりのぬいぐるみの上に雑に置かれている。

 学生のカップルらしい二人連れが、僕の居るガラスケースの中を覗き込んだ。

「ねー、アタシ、アレ欲しいーー」
「よっし! オレがとってやるよ!」

 こ、これは……
 ゲーセンのクレーンゲームだ!!

 僕はクレーンゲームの景品のぬいぐるみに転生してしまった!!

 上から僕を目掛けてクレーンのアームが襲いかかる。
 僕がぬいぐるみになったのは、彼女の近くに居るためなんだ。ここで取られてたまるか!!
 動かない筈のぬいぐるみの体をむりやり動かそうとあちこちに力をいれてみる。
 アームに体があたった衝撃で、いい案配に転げてアームの届かぬ場所に行くことができた。

(いたっ)

 うん?
 転げた先で何かの声が聞こえたような気がした。

(誰か、ここにいるの?)
 思わず、言葉にならない心の声で話しかけてみる。

(あ、あなたの声が聞こえる。もしかして、あなたも以前は人間だったの?)
 声?の主は、僕が転げてぶつかった先にあるぬいぐるみだった。
 そのぬいぐるみが告げた名前を聞いて驚いた。僕の好きな、あの彼女だった。

 彼女も不慮の事故で亡くなったのだそうだ。
 前世では優等生であるべく勉強ばかりさせられていた。もうそんな人生はいやだ。それなら大好きなぬいぐるみに転生させてもらいたい。そして、どうせなら行ったことのない場所に行きたいと、そう願った結果ここに置かれていたのだそうだ。

(ずっと勉強ばかりで、ゲーセンなんて行ったことがなかったから)
 彼女はそう言った。

 僕は名乗る事はできなかった。あの頃の陰キャだった頃の僕を知られたら、もうこんな風に彼女と話はできなくなるかもしれない。だから自分が誰だったかは覚えていないふりをして、彼女の話をたくさん聞いた。

 僕らはクレーンから逃げながら、ショーケースの中でずっとずっと一緒に居た。

 こうして、予想もしていなかった形で僕の願いは叶った。

 あの日までは。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

処理中です...