白い猫は笑う

都鳥

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白い猫は笑う #4

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 町の治療師は、不服そうにしながらも彼女を診てくれた。
 爪がかすっただけなので、体に入った毒はわずかで済んだらしい。元より獣人は人間よりも体力があるので、そこも幸いしたそうだ。

 毒の影響で悪寒がするだろうから、温かくしてしっかり休ませるようにと。そうすれば明日には回復するだろうと。そう言って治療師は帰っていった。

 日が暮れる頃になると毒が回り始めたのか、ベッドに寝かせた彼女はぶるぶると震え出した。
 布団をかけてやっても、彼女の震えは止まらない。
 同じベッドに入り、温めるようにそっと抱きしめてやる。彼女は私の胸元にすがりついて、ようやく安心したように寝息を立てた。


 翌朝、彼女はすっかりと回復していた。
 まだ大事を取った方がいいと、休んでいるようにと勧めた私の言葉に、彼女は首を横に振った。

 私の町に帰ろうと、彼女はそう言った。
 まだ間に合うから、とも。
 彼女は私の話を覚えていてくれたのだ。そして、自分も一緒に行きたいと。


 私の町に帰る馬車の中で、また彼女といろんな話をした。
 彼女にはもう家族はいない。一人ぼっちだということ。今更、故郷には帰れないということ。
 だから、私さえよかったら…… 一緒に居させてほしいと。

 私もいろんな話をした。
 孤児だったけれど、魔法の才があって教会に勤める事が出来たこと。やっぱり自分も一人で暮らしていること。
 同業の者たちとうまくいっていないこと。でももし、司祭様に認めてもらえればあるいは……

 そこまで話して彼女の方を見る。
「そうしたら、にゃーも一緒に王都に行くニャ」
 そう言って、隣に座る私の肩に頬をすり寄せた。


 町に帰ると、まだ司祭様はいらっしゃった。
 司祭様は以前に王都の教会に送った手紙を読んでくださっていたらしい。私が名乗ると、ああ貴女あなたですねと、にっこりと微笑まれた。

 それから、話はとんとん拍子に進んだ。
 私の望み通り王都に連れて行ってくれると。大教会に来れば、それなりの地位に就かせてもらえると。

「よかったニャー」
 隣で話を聞いていた彼女が、私に笑いかけるのを見て、司祭様の表情が変わった。

「その獣人は?」
「私の友人です。一緒に――」
「獣人は大教会には連れていけませんよ。汚らわしい」

「え?」

 司祭様が言うには、大教会に入れるのは人間かエルフだけなのだそうだ。
 獣人の彼女は……王都へ帰る教会の馬車にすら、乗ることは許されないのだと。

 王都の大教会で勤めたくば、彼女を捨てろと、司祭様はそう仰った。

 そんな……
 一緒に行こうって、約束をしたのに…… 

「うん」

 彼女はひとことうなずいた。そうして、
「にゃーは故郷に帰るニャ」
 そう言って微笑んだ。

「だから王都に行けるニャ。にゃーは大丈夫だから」
 彼女は深々と私に頭を下げた。

 倒れていた自分を救ってくれて感謝していると。
 一人では敵わなかったあの魔獣を倒せたのは私のお陰だと。
 家族のかたきも討つことができた、ようやく故郷にと。
 故郷には自分を待っている人がのだと。

 わざと司祭様に聞かせるように彼女は言った。

 さようならと言って駆けだした彼女を追いかけて、私も走り出していた。

 * * *

 王都に繋がる街道を行く馬車の一団を、丘の上から眺める。
 その姿が遠く小さくなった頃に、隣に立つ彼女が口を開いた。

「行かなくてよかったのニャ?」
「いいんだ。あんな風に獣人を小馬鹿にするような連中とは、一緒に仕事をしたいと思えなくなった」

 獣人は強くて、こんなに可愛らしいのに。
 それに彼女は、こんなにも優しいのに。
 私は大丈夫だと伝えたくて、彼女の手をぎゅっと握った。

「でも王都に行こう。あそこなら、一緒に冒険者になれる」
「にゃーも一緒に?」
「ああ」
 頷く私に、彼女は今までで一番の笑顔を見せる。

「ふふふ、これからも一緒に居られて嬉しいニャ」
 そう言って笑う彼女と、こつんと額を合わせた。
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