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第九話 墓参り

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 父上に再会してから1週間が経った。

 その間、私は後処理をしていた。

 ただの傭兵だと思っていた人物が大国でもあるシーリスア帝国の筆頭公爵家でもあるウィズリー公爵家の次男だと判明したので、態度が変わったのだ。

 特に王位を未だに狙っている元王族が面倒くさかった。

 まぁ、そんな者達に対応していたら、1週間も経ってしまった。

 ちなみにお嬢様と姫様にはナリス・ウィズリーではなく、傭兵のウィザーとして接して貰っている。

 雇い主だからな。

 だけど、国王陛下にはそれは受け入れ無かった。

 それは父上が影響しているだろうな。

 父上は放任主義なのだが、過保護でもある。

 矛盾していると思うが、子供の選択を肯定し、それを陰ながら手伝うのだ。

 そして、手を出されたらそれを慈悲もなく潰す。

 だから、放任主義で過保護なのだ。

 そんな父上は私とお嬢様との契約を勝手に解除させた王家に対して、制裁を行ったのだ。

 内容としては輸入と輸出を禁止したのだ。

 王家に対してだけで。

 その結果、王家は甚大な被害を受けたのだ。

 更に影響力が下がり、王家という名前だけになった。

 まぁ、そのことは自己自得としか言えない。

 後処理を終えた私はある場所を訪れていた。

 金色の花束を持って。

 私が訪れた場所は墓地だ。

 ウィズリー公爵家の者が代々眠る。

 私はある墓の前で立ち止まり、片膝を地面についたのだ。

 「お久しぶりです、母上」

 そう言い、私は手に持っていた花束を供えた。

 「まずは謝罪をさせて下さい。私は母上と約束したことを守れなかったので、会わせる顔が無いと思い、これまで墓参りをして来なかったことを。本当に申し訳ございませんでした」

 私は墓の方を向いた。

 「ですが、これからは墓参りをしまう。約束を守れなくても私は母上の息子ですから」
 
 そう言い終えた私は立ち上がり、この場を後にした。

 墓地の出口に向かって歩いていると目の前から現れたのだ。

 私と似た顔の者が。

 「久しぶりだな、ナリス」

 「兄上。お久しぶりです」

 「今から時間あるか。少し話がしたい」

 「勿論、構いませんよ」

 「そうか。なら、ついてきてほしい」
 
 私は黙って頷き、兄上の後に続いた。

 墓地から出て、私達は馬車に乗り込んだ。

 馬車の中で私達が座ると兄上が話し始めた。

 「大体のことは父上から聞いたが、私から1つだけ質問させてくれ」

 「どうぞ、兄上」

 「ナリス。これから幸せというものは来るのか?」

 「幸せはくるでしょう。ですが、心から幸せと感じることは無いでしょう。私は一生花の聖女様の墓参りに行けないのですから」

 「花の聖女様か。名前で呼ばないのか?」

 「呼べる訳ないですよ。私は結婚を白紙にされていますから」

 「そうか」

 そう言い、兄上は外を向いた後、何かを思い出したような表情を浮かべていたのだ。

 「そう言えば、母上もあの花が好きだったな」

 「そうですね。私に仕えているお嬢様と姫様も好きですよ」

 「そうなのか。凄い偶然だな」

 「そうですね。それでは、私はこの辺で」

 「分かった、ナリス。また会おう」

 「ええ、会いに行きます。それでは、私はこれで」

 そう言い、私は馬車から降り、雇い主の方に戻ったのだ。
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