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第十九話 不器用な男

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 私は、執務室で、ある資料を読んでいた。

 この噂の真偽は、どれぐらいだ?

 フェリアとの話に違いがありすぎる。

 私が、今読んでいる資料には、フェリアの元父親の最近の行動が書かれている。

 ラーカ侯爵は、フェリアを探し回っているみたいだ。

 膨大の金を使って。

 家だけ移したから、私には、会えないからか。

 そして、ラーカ侯爵自身も痩せ細っているようだ。

 その姿は、溺愛する娘を探すようだと書かれている。
  
 会ってみるか。

 1度、話してから、フェリアに伝えるか。

 私は、部下に指示を出し、場をセッテングした。

 フェリアには、仕事と言い、家を出て、応接室で、ラーカ侯爵を待っていた。

 5分ぐらいすると、ラーカ侯爵が、入ってきた。

 入ってきたラーカ侯爵は、痩せ細っていた。

 そして、顔色も良くなかった。

 これは、本当にフェリアのことを心配しているだな。

 「初めまして、ラーカ侯爵。私、雨男、ルーク・レイシー申します」

 「これは、ご丁寧に。私は、ラーカ侯爵家の現当主だ。そして、フェリアの父親だ」

 「私は、あまり回りくどいのが好きではありません。ですので、単刀直入にお聞きします。ラーカ侯爵は、フェリアのことを愛していましたか?」

 ラーカ侯爵は、私の目を見た。

 「ああ、愛している。心の底から」

 その目からは、嘘を感じなかった。

 どうやら、本当に愛しているみたいだ。

 「フェリアからは、愛されてないと聞いていましたが?」

 「言い訳に聞こえると思うが、私は、親の愛を知らずに育った。だから、フェリアとの関わり方が分からなかったのだ。だから、お金があれば、幸せだと思っていたんだ。だが、それは私の幸せを押し付けただけだった」

 「本当にフェリアのことを愛しているんですね」

 「当たり前だ。フェリアは、妻が残してくれた大事な娘だ」

 「では、何故、フェリアを勇者パーティーに参加させたのですか?」

 「それは、王命だった。私は、拒絶したが、不可能だった。本当は、危険なことをしてほしくないのだ。拷問をうけたと聞いた時は、気を失いそうになってしまった」

 そうか。

 ラーカ侯爵は、不器用だったのか。

 フェリアから、誕生日プレゼントは、毎年貰っていたと聞いていた。

 愛していたが、愛し方が分からなかったのか。

 「不器用だったということですか」

 「ああ、不器用だった。相当な」

 ラーカ侯爵は、頭を下げた。

 「お願いだ。レイシー殿。私をフェリアに会わせてくれ。今までの謝罪と不器用な愛を伝えたいのだ」

 会わせるべきだ。

 長い間、すれ違っていた。

 だが、全てを話してフェリアが、拒絶したら、会わせない。

 フェリアが、嫌がることはしたくないからな。

 「わかりました、ラーカ侯爵。ですが、フェリアが、拒絶したら、諦めて下さい」

 「ああ、勿論だ。ありがとう、レイシー殿」

 一旦、退出し、家に帰った。

 家にかえると、フェリアは、庭先で、本を読んでいた。

 私は、フェリアに先程あったことを話した。

 フェリアは、驚きの表情を浮かべていた。

 「フェリアが嫌なら、会わなくても大丈夫だ」

 フェリアは、首を横に振った。

 「お父様と、もう1度話してみたいから。会いに行く」

 そうか。

 なら、ラーカ侯爵のところに行くか。

 私は、フェリアを連れて、ラーカ侯爵が待つ応接室に入った。

 ラーカ侯爵は、フェリアを見て、安堵の表情を浮かべていた。

 私とフェリアが、ソファーに座ると、謝罪と不器用な愛を話し始めた。

 フェリアは、それらを私の手を握りながら、黙って聞いていた。

 「フェリア。これで、私の話は終わりだ。嫌なら、拒絶してもいい。だが、これだけは、信じてほしい。私は、フェリアのことを妻と同じくらい愛していたことを」

 フェリアは、私の手を離し、ソファーから立ち上がった。

 そして、フェリアは、ラーカ侯爵に、抱き着いた。

 ラーカ侯爵は、突然のことに唖然としていた。

 「お父様。不器用ながらも私を愛してくれてありがとう」

 「フェリア?私のことを許してくれるのか?今まで、寂しい思いをさせてきたのに」

 「ん。確かに、寂しかったけど。愛されるとわかったから」

 ラーカ侯爵は、震える腕で、フェリアを抱き締めた。

 そのまま、フェリアとラーカ侯爵は、抱き合い続けた。

 16年分の愛を取り戻すように。
 

 
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