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エンドレス・サマー
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明け方からどこかで洗濯機が回っている。迷い、躊躇い、疑い、憂鬱。おなじみの破れかぶれを入れて、ぐるぐると回り続ける。出口はどこにもない。あったとしても循環が続く間は見つけられない。一瞬の躊躇いが、長い冬の時代を築く。例えばそれは一つのゴミ、一群の洗い物。放置された物に触れることは難しい。鍵も扉もなく手を伸ばせば届く距離にあるのに、世界が切り離されているように遠い存在になることがある。間を打ち破るには、何よりもきっかけが必要だ。
それでも突破口は突然開かれる。終わりなき洗濯機の回転と負の逡巡に疲れ果てて、扉が緩む瞬間。躊躇いの飽和が訪れる時。
最初から何もなかったと思えた瞬間、飛び出すことは難しくない。
(何だそんなことか)
「ヘイ、タクシー!」
楽しいことを探していた。自分に何が楽しいかを問うのは面倒だから、人や星の動きを追いかけてそれに乗っかる方が手っ取り早い。自力で探し切るのは骨が折れるし、見つからなかった時の失望は大きい。
「何やら人が集まってますぜ」
情報通のドライバーに任せて行けば安心だろう。面白ければそれでいい。つまらなければ人のせいにすればいい。そうして数え切れないほどのタクシーを拾ってきた。いつからか自分で小舟を漕いで未知の面白いを探しに行く冒険をやめて、ただ面白そうなところに運ばれる暮らしに染まってしまった。裏切ったのは自分だろうか。きっとこの街がみんなそうさせるのだ。
「何だつまらない」
「だったらあんたがやれよ」
投げつけられたグラブを受け取ってショートにつく。政治、経済、芸能、歴史、科学。様々な問題が飛んでくるのを無難にさばく。無難なだけでも駄目で、時には華麗なさばきで魅せなければ、観衆の意識を引きつけておくことはできない。そして、時には不安にさせる。危なっかしいところも晒してみる。そうしてこそ「自分が応援しなければ」というサポート意識も目覚めようというものだ。
映画、小説、コラム、画像、お題、音声、テクノロジー、コンテンツ、コンテスト、ポエム、エッセイ、フォト、もっと、もっと……。守備範囲を広げ、キャッチ、スロー、アウト、成功はただ見送られるばかりだった。
けれども、一つのエラーには瞬時に獰猛な牙が立ち上がり、それは瞬く間に拡散されて行くのだ。
「責められるのは資格があるからよ」
マネージャーが励ましの言葉をくれる。
ショート・ストップには、秋を待つ人々が集合している。学生、公務員、農業を営む人、うどん屋、金物屋、占い師、自称議員さん、猫、カブトムシ、ギタリスト、館長。
「逆手でキャッチすることよ」
おばあさんが、ルールを知らないからこそむしろいいヒントをくれる。
ここはメロディーを聴いて勝ち取ったポジションだった。だったら長居できるものでもあるまい。ちょっと出っ張れば咎められることもある。
もしも夢でもあるとするなら、もう一つのプレーで賞賛の嵐に変えることもできる。
「バスはまだ?」
「もう行ったみたいですよ」
夏空の下に蛍の光が流れる。残り14分。
ここにきて次々に打ち上がる花火。猫花火、蛇花火、すだれ花火、泡花火、鳥花火、夢花火、花花火、獣花火、大蛇花火、母花火。川辺に潜んでいた隠し球がカブトムシの牽制を受けて、躊躇いを解いたみたいだ。
「みんな眠っていたんですね」
温存された夏の裾に、同じメロディーがリフレインされている。だから、いつでもはじまりのようだ。ポメラから放たれた指が子犬のように空をかけて行く。これからはじまる演目は何も決まっていない。けれども、まだ躊躇いも覚えていないのだ。好きに行け。すべて君の気ままに預けよう。描けない花は何もない。
(エンドレス・サマー)
「お客さん……」
お客さん。もう閉店ですよ。
それでも突破口は突然開かれる。終わりなき洗濯機の回転と負の逡巡に疲れ果てて、扉が緩む瞬間。躊躇いの飽和が訪れる時。
最初から何もなかったと思えた瞬間、飛び出すことは難しくない。
(何だそんなことか)
「ヘイ、タクシー!」
楽しいことを探していた。自分に何が楽しいかを問うのは面倒だから、人や星の動きを追いかけてそれに乗っかる方が手っ取り早い。自力で探し切るのは骨が折れるし、見つからなかった時の失望は大きい。
「何やら人が集まってますぜ」
情報通のドライバーに任せて行けば安心だろう。面白ければそれでいい。つまらなければ人のせいにすればいい。そうして数え切れないほどのタクシーを拾ってきた。いつからか自分で小舟を漕いで未知の面白いを探しに行く冒険をやめて、ただ面白そうなところに運ばれる暮らしに染まってしまった。裏切ったのは自分だろうか。きっとこの街がみんなそうさせるのだ。
「何だつまらない」
「だったらあんたがやれよ」
投げつけられたグラブを受け取ってショートにつく。政治、経済、芸能、歴史、科学。様々な問題が飛んでくるのを無難にさばく。無難なだけでも駄目で、時には華麗なさばきで魅せなければ、観衆の意識を引きつけておくことはできない。そして、時には不安にさせる。危なっかしいところも晒してみる。そうしてこそ「自分が応援しなければ」というサポート意識も目覚めようというものだ。
映画、小説、コラム、画像、お題、音声、テクノロジー、コンテンツ、コンテスト、ポエム、エッセイ、フォト、もっと、もっと……。守備範囲を広げ、キャッチ、スロー、アウト、成功はただ見送られるばかりだった。
けれども、一つのエラーには瞬時に獰猛な牙が立ち上がり、それは瞬く間に拡散されて行くのだ。
「責められるのは資格があるからよ」
マネージャーが励ましの言葉をくれる。
ショート・ストップには、秋を待つ人々が集合している。学生、公務員、農業を営む人、うどん屋、金物屋、占い師、自称議員さん、猫、カブトムシ、ギタリスト、館長。
「逆手でキャッチすることよ」
おばあさんが、ルールを知らないからこそむしろいいヒントをくれる。
ここはメロディーを聴いて勝ち取ったポジションだった。だったら長居できるものでもあるまい。ちょっと出っ張れば咎められることもある。
もしも夢でもあるとするなら、もう一つのプレーで賞賛の嵐に変えることもできる。
「バスはまだ?」
「もう行ったみたいですよ」
夏空の下に蛍の光が流れる。残り14分。
ここにきて次々に打ち上がる花火。猫花火、蛇花火、すだれ花火、泡花火、鳥花火、夢花火、花花火、獣花火、大蛇花火、母花火。川辺に潜んでいた隠し球がカブトムシの牽制を受けて、躊躇いを解いたみたいだ。
「みんな眠っていたんですね」
温存された夏の裾に、同じメロディーがリフレインされている。だから、いつでもはじまりのようだ。ポメラから放たれた指が子犬のように空をかけて行く。これからはじまる演目は何も決まっていない。けれども、まだ躊躇いも覚えていないのだ。好きに行け。すべて君の気ままに預けよう。描けない花は何もない。
(エンドレス・サマー)
「お客さん……」
お客さん。もう閉店ですよ。
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