【夢小説】夢まち 「痛みは消せない。忘れるしかないんだよ」記憶の奥の物語によって

ロボモフ

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不戦敗と硝子細工

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 敵は長考に沈み、実際困ったような顔をしていた。指されたのは一番ありがたい手で一気に勝勢となり気づくと敵玉が詰んでいた。こんなことってあるのかな。「どう指されても自信がなかったです。例えば……」そうして僕が示す手はどれも冴えない。感想戦では常に聞き手だったが、すべての変化で僕が悪くなる順は現れなかった。おかしなことがあるものだ。次の対戦者はサイトーさんだ。「サイトーさんってあのサイトーさんですか?」受付でたずねるとどうも違う人のようだ。サイトーさんは攻めの棋風でとても勉強熱心な方らしい。年齢は非公開とのことだ。

 外食はどこにも入るスペースがなかった。仕方なく地べたに座り込んでパンを千切り千切り食べた。すぐそばを迷惑そうに通り過ぎる人が後を絶たない。地べたの文化が浸透していないのか。あるいは、僕の地べたセンスがよくなかったのだろうか。(ドア付近の地べたなのが疑問手だったか)露骨に嫌な顔を向けながら、悪口まで言って行く人がいる。それも一般論のような口振りで言うのだ。おかげで夜は人生の本を読んだ。気づくと7時だった。少し仮眠しなくちゃ。

 1時間程眠ったつもりが正午を回っていた。まだ対局に間に合うだろうか。会場に急行して受付でパスポートを提示した。近頃はセキュリティーがいちいち厳しい。空いたスペースではイベントの硝子細工教室が催されていた。なかなかの盛況振りだ。対局会場の方に向かうと外まで熱気があふれていた。「ちょっとすみません」ギャラリーをかき分けて前に進んだ。ボードにトーナメント表が貼られている。途中で棒線で消されているのが僕の名前だ。(やっぱり間に合わなかったか)サイトーさんがずっと上まで勝ち上がっている。そっか。じゃあ硝子細工だ。
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