【夢小説】夢まち 「痛みは消せない。忘れるしかないんだよ」記憶の奥の物語によって

ロボモフ

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寝返りの旅

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 寝返りを打ちながら君から離れた。眠ることはすべてにおいて必要な動作だった。寝返りを打つこともそれに劣らず必要な仕草だった。眠るのは主に夢の中で記憶を整理して、日々をフレッシュに保つためだった。けれども、その多くはハッピーな色彩からは遠く、ほとんどは悲鳴を上げたくなるような悪夢だった。眠りながら生き延びるためには、寝返りを打ち続ける他はなかった。隣で眠る君が、どんな夢を見ていたかは知らない。僕は寝返り寝返り、君から遠ざかっていったのだ。
 遠ざかりながら、僕は何かを待っている。雨がずっと同じ台詞を繰り返している。破れた台本の切れ端を、猫がくわえて逃げていく。追いかけるほどに、それは大事なことのように思え始める。

 ラップをかけて待つ。あなたは戻らない。ラップの中で熱は保たれている。どこにもない、私がこの手で作り上げたラップだから。夜は更ける。冷めることないラップの中で、時間ばかりが過ぎて行く。あなたはまだ戻らない。深夜になっても、ラップは終わらない。とうとう猫も踊り出す。踊りながら、出て行こうか。出て行ったスペースは、誰かの待ち望む場所にもなるのだろう。

 寝返りを打てば離れるだけでなく、離れた分だけ戻ることもあった。同じように寝返りを打つ君に近づき、ついにはぶつかることもあった。衝撃の強さによって小惑星が生まれ、それが新しい夢を引っ張っていく。その時、二人は必ず逆の方向へと進んでいく。触れ合った時でさえ、言葉を交わすことは一切ない。既に心は、新たな発見とより魅力的な対象へと向かっていたのだから。寝返りを打ち合いながら、互いの夢は引き裂かれていったのかもしれない。

 引き裂かれた夢の切れ端を追っていると、いつの間にかそれは星と入れ替わっている。星を追うので吊り橋がゆれた。危ないじゃないか! 彼女は足を止めなかった。もっと足元を見なきゃ。水面がゆれる。彼女は遠くを見ていた。私、恋をしたのよ。何も怖くないのよ。それは錯覚だよ。非日常が作り出した。目を覚まして。恋の相手は、あなたじゃないのよ。もうすっかり落ちたのよ。

 錯覚と教えられるほど、何かを強く信じたくなった。そして、信じられるのははっきりと目に見えるもので、どこかへ向かわせるものであった。
 三羽烏を数えて深い森の奥へと入って行った。数え終えたところでどこからともなく新しい烏が舞い降りた。今までお目にかかったことはなかったが、三羽目の烏と比べ勝るとも劣らない。迷いに迷い、その分捨て難くなっていく。私は一番最初に選んだ烏を手離した。やっぱり君に自由をあげるよ。

 寝返りの中で、君がどんな夢に運ばれていたかはわからない。僕の夢の登場人物としての君は次第にフェイドアウトしていったように思えるし、それに応じて悪夢としての色合いは少しずつ薄まっていったように感じられる。君の存在自体が、悪夢の脚色に大きく関わっていたとも考えられる。夢の断片に運ばれながら、君から離れていくことこそが僕には必要な運動であったのかもしれない。君の面影が入らないほど、僕は遠くまでくることができた。それは日々の旅が作り出した大きな距離だった。
 目の前に広がる距離がどれほどのものなのか、それは理屈でわかっていても、感覚の中ではいつも揺らいでいる。ゆらぎが過信に変わった時には、もう体は先に動いている。

 思い切り助走をつけて、思い切って踏み切った。体は宙に浮き、完全な孤独と連帯を同時に手にしたことを知った。どこにも着地点がないことを、遅れて理解した時、浅はかだった跳躍に後悔を覚えたものの、それは最後の選択だったと思い出した。もう、飛び続ける他はない。誰かが拾ってくれる瞬間まで。
「すべて遊びのようなものでした」
「夢の旅路で多くを学んだのね」
 夢の扉の前に猫が立っていた。戻りなさい。
「ここは夢の終点です」
 寝返りの途中に現れる猫の言うことをまともに聞くこともない。多くの闇を転々とした間に、少しは夢の渡り方を学んできた。

「君は幻か何かじゃないの?」
 扉はまだ、他の場所にもあるに違いない。僕は両腕を大きく広げて、胸いっぱいに夜を吸い込んだ。
 どこまでも転がってやるぞ。
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