【夢小説】夢まち 「痛みは消せない。忘れるしかないんだよ」記憶の奥の物語によって

ロボモフ

文字の大きさ
25 / 28

社長さんそれはない

しおりを挟む
 遅れてきたわけでもないのに置き去りにされている。そのような宴の中にいた。話すことは何もない。話せる人はどこにもいない。ドリンクは一つも届かない。社長だけがそれを注文できるのだ。天井を見上げる。どこまでも高く、星が透けて見えるほどだった。視線を元に戻すと哀れな宴が戻ってきた。社長のいる一角だけが光って見えた。あそこへ乗り込んでアピールできたら……。唾を飲み込む音がはっきりと聞こえるほど、僕の周りは静かだった。耐えきれなくなって目を閉じた。見上げなくても遙か遠くにある星を見ることができた。その中のいる人の声に耳を傾けることもできる。現在地から限りなく引き離されていく。宴の中にも座布団の上にも、自分の肉体はなくなっている。
(駄目だ)
 自分だけの世界に入り込めば、寂しい宴を消すことはできる。同時にそれは自分を消すことだ。もはや誰からも見つけられることはないだろう。そうなれば負けだ。(何の負けだ)恐ろしくなって席を立った。


 いっそ離れよう。遠くへ。上も下もない。勝ちも負けもないような、遠くへ……。経験を置いて、しがらみを断って、自分を知る者がまるでいないほど、遠くへ。そこで言葉は通じるだろうか。すべてをリセットするようなことが簡単にできるのだろうか。潔い決断と引き替えに失うものの多さを想像して身震いした。そうするくらいならもう一度……。ためらいの中に落ちて一層強く震えた。
 社長に向かって、最も厄介な存在に向いて、笑うなり、要求するなり、することは、本当にできないことなのか。


「なあ、あんた。これをお願いできないかな」
 遠い街で突然話しかけられたような気がした。(僕はまだここにいたのか)
「銀将をあの通路に等間隔で並べてくれないかな」
「えっ?」
「俺たちにはできないことだからさ」
 あまりにも簡単で、妙に心に響く言葉だった。世の中にそんな望みがあったなんて……。
「銀だけでいいの?」
 うれしそうに男は笑い、先の望みを話し始めた。
「その次は楽しみがあるんだ。この街を金や銀や飛車や角や桂や香で飾り立てるんだよ! 勿論、歩もいっぱいいっぱい……」
 夢の先端に手を貸せることが誇らしくうれしかった。僕は男の手から四枚の銀将を預かった。ドリンクも何もなくても、もう寂しくはなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...