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魔がさす
あさ
しおりを挟む翌朝、目を覚ますとそこは昨日見た天井だった。
ユシエルはまだ寝ていて、2人とも服を纏っていなかった。
手足は自由で枷はされていなかった。
これは逃げ出す絶好のチャンスかもしれない。
少しふらつきながらも部屋を物色した。
ドアは当然開かなくて、
窓から見下ろした高さは相当なものだった。
お風呂場は高いところに小さな窓しかないし、もう脱出は諦めそうになった。
それでも色々探っていくと、1箇所だけ突破口を見つけた。
トイレの窓だ。
窓の大きさはどうにか通り抜けれそうなもので、しかし窓の形が複雑で金具を割るしか通る方法はなさそうだ。
幸いにも窓のの横には足場のようなものが見えている。
流石に窓を割ったら、ユシエルも起きてしまう。
逃げ出したことがバレれば彼は許してくれないだろう。
でもこのまま囚われの身でいることに納得いかなかった。
小さい頃から誘拐され慣れていて、逃げ出したことは何回もある。
きっと今回も捕まらずに逃げ切れるだろう。
いやそうしないと、俺は生きられないだろう。
ベッドへ戻り、ユシエルが寝ていることを確認する。大丈夫そうだ。
1番硬そうな蝋燭台と体を隠すためのシーツを手にトイレへ行き、鍵をしっかりかける。
シーツをどうにか洋服がわりにして、
意を決して窓の金具を壊す。
カキーンと金属同士がぶつかる音がして、数回しばらく叩いたら、うまく壊れてくれた。
これで窓を全開にできる!
「美都様、なにしているんですか」
そう地を這うような声が扉のすぐ向こうで聞こえたけれど、俺はそれを無視して窓から脱出した。
捕まったら、もう2度とチャンスは来ないだろう。
そう思い、必死に非常階段を降りて、庭というよりは森に近い薄暗いところへ逃げて、この庭園の出口を必死に探した。
いつまで走ってもなかなかこの庭園の端っこにたどり着けない。
そんななか、俺は出会ってしまった。
狼というよりもライオンに近い大きさの魔物に。
そいつは放し飼いにされているようで首輪はなかった。
ここは魔王の別荘。
こんなペットがいても普通なのか!?
そいつは俺を認識するとジリジリと唸りながら距離を詰めてくる。
目を逸らしたら負ける。
それほどの気迫の中で必死に逃げる方法を考えた。
木に登ればどうにかなるのか。
それとも全力で逃げれば撒けるものなのか。
その生物に対する知識はあまりに乏しくて最適解が弾き出せない。
そうしている間にも距離はどんどん縮まる。
ヤバい。喰われる。
いつもなら考えつくのに、恐怖で体が固まって逃げることすらままならなくなっていた。
もう諦めて目を瞑った瞬間、
ふっと肩に誰かの手を置かれた。
恐る恐る目を開けると、
人睨みであの怪物を退散させた、
それ以上に怖い目をしたユシエルがそこに立っていた。
「…ユシエル…」
「美都様、覚悟はできてますよね」
そう死刑宣告されてしまった。
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