不老不死の少女は戦鬼となって戦う! ~餓鬼狩りより

hodinasu

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「ヌよ。化身を解くぞ!」
 と、風のイが言った。大地のヌが、うなずく。
「惟三、おまえも化身を解き、本来のヒキガエルの蒜壷の姿に戻ったらどうだ」
 風のイが、惟三に話を振った。
「言われなくても、化身を解きますがや。人の姿のままでは、那美さんから逃げられないさかいに」
「逃げるというのか⁉ おまえは戦わず逃げるというのか。那美に舌を斬られたくせに、その復讐もせずに」
 風のイが、惟三に不信の眼を向ける。
「わいは、舌を三枚もっているから、なんも不便なことないわ。斬られた舌も、ほっとけば、じきに生えてくるし……。わいは逃げます」
 惟三は、えへらえへら笑いながら舌をだしてみせた。
「ふん、勝手にしろ。俺たちは……」
 風のイの両手が、大地のヌの両手を握りしめた。鼻をならし、全身に気を込める。すると、着衣している黒のライダースーツが弾け飛び、本来の風邪のイと大地のヌの姿が、二人の身体の中からあふれ出た蒸気の中から現れた。
 二本足で立つ、虎を思わせる優雅な体のラインを持つイと、ゴツゴツした筋肉質のヌが泰然とそこに存在し、精悍な顔つきの人面が、獰猛な猫の顔に変形した。
 猫の顔が獰猛なのかと疑問に思う方もいるだろうが、口から血をしたたらせ、鋭い牙を生やした化け猫の姿を想像してみるといい。
 猫はネズミなどの小動物を狩って食う生き物だ。時には野獣にもなる。
「わいも、戻ろう」
 惟三も、また、風のイたちと同様に、人の姿から本来の蒜壷の姿に戻った。二本足で立つヒキガエルの蒜壷の姿に。
「化瑠魂、また、もらわんといけないわやな。わいは、化瑠魂がないと化身できないさかいに……」
 惟三は化身を解くと、直ぐに大岩の陰に、その身を隠した。
 那美が言う。
「呂騎、あなたは安全な場所で待機していて。空を飛べないあなたでは、地を砕く、大地のヌの攻撃は避けられない」
《わかりました。私は、残存している食法をかたずけることにしましょう。大地のヌとて、食法がいる地を割ることはできないでしょうから》
 呂騎は、そういうと、食法らと戦っている室緒たちの方へ駆けて行った。
 那美の胸元に忍ばせている香袋が、青藤色に光る。空を自由自在に飛ぶことができる足玉(たるたま)が、発動したのだ。
 那美は五メートルほど、宙に浮かび上がった。光破剣の切っ先を風のイ、大地のヌに突きつける。
 大地のヌが、咆哮した。那美がいままでいた地面が盛り上がる。大地が割れ、大量の土砂が宙にいる那美、めがけて、舞い上がった。
「那美、これでもくらえ!」
 風のイが、胸元で腕を交差する。風のイの傍らに二つの竜巻が起こった。二つの竜巻は、猛獣の吠え声のような音をたてて、那美に迫る。
 那美は、気合をこめた。光破剣で迫ってきた竜巻と土砂を、中心から真っ二つに斬った。
「馬鹿な⁉ 竜巻を斬っただと」
 風のイが、信じられるものをみたような眼で、那美を見た。
 身を斬り割くような凄まじい竜巻を退けた那美に、大地のヌの攻撃が迫る。大地のヌは、再び、大量の土砂を、那美に降り注いだ。
「光破剣、旋風陣」
 那美は光破剣を高々と掲げて、叫んだ。
 すると、見よ。那美の頭上に掲げられた白く輝き始めた光破剣が、那美の身体を中心にして烈風を起こした。烈風は、押し寄せる土砂に、真正面からぶち当たる。烈風はものの見事に土砂を粉砕した。
「おのれっ、那美」
 風のイが毒づく。
「風のイ、いま、あなたの業を断ち切ってやるわ」
 那美は、光破剣を中段に構え直した。
「くるなら、来い!」
 風のイが、突風を造りだし、それを那美、めがけて投げつける。那美は光破剣の切っ先を突風、めがけて突き立てながら、突風の中を、突進した。
「覚悟!」
 那美は、光破剣を大上段から振り下ろした。
「なに⁉」
 光破剣の餌食になったのは、風のイではなかった。大地のヌが、那美と風のイの間に立ちはだかったのだ。
 大地のヌの身体に光破剣が食い込む。
「俺の身体は、刃物など受けつけやせん」
 そう、うそぶく大地のヌ。大地のヌは、袈裟懸けに叩きこまれている光破剣を、右腕一本で、引き抜こうとした。
「光破剣で斬れぬ悪しきものの身体はない。大地のヌ。光破剣の力を、思い知るがよい」
 那美が、光破剣に気を送る。眩いばかりの光がきらめいた。大地のヌの身体が音をたてて熱くなり、小刻みに震動した。
「馬鹿……。馬鹿な!」
 大地のヌの身体が、袈裟懸けに真っ二つになる。大地のヌは、蒜壷一族随一と言われた岩のような頑健な身体を、斬り割かれ、絶命した。
「おのれっ、那美! ヌの仇、とらしてもらうぞ」
 風のイの瞳は、憎しみの色に染まった。

 那美の双子の妹、ナギは、姉である那美を装い、人間体に化身している琥耶姫、刻とともに組織AHOの研究施設の前にいた。
 施設のサーチライトが、三人に集中し、防護塀に取り付けられてある遠赤外線付きセキュリティーカメラが、三人の姿を捉える。
「那美⁉ 那美だと。那美が蒜壷のH-Aシリーズを連れて現れたというのか」
 研究施設のなかにある作戦本部にいる組織AHOの男たちは、モニターに映っているものが信じられなかった。
 那美は、AHOと共同戦線をはることを拒んでいたはずだ。いくら大野たちが、那美を説得してもAHOに協力などできないと、言い続けてきたはずだ。
 那美は気が変わったのだろうか。
 大野が言う。
「二人の蒜壷の手元をアップしてくれっ。なにか、手錠ようなもので縛られているみたいだが……」
 作戦室のモニターが、琥耶姫と刻の手元をアップして見せた。女の蒜壷と女の子の蒜壷は、確かに拘束されている。おとなしく、那美に装ったナギに従っていた。
「那美が、女の蒜壷と子供の蒜壷を捕まえてきてくれたというわけか……。大野くん、どう思う?」
 五十嵐参謀が、大野に訊いた。
「我々を拒んでいたに那美が、態度を軟化させて、我々に協力するとでも?」
 大野が、懐疑の眼を凝らす。
「なにが那美の態度を変えたというのだ。谷野、マイクを貸せ。俺が直接、那美と話す」
 大野は、モニターの前にいるオペレーターに指示を出した。オペレーターが外部スピーカーのスウッチをオンにし、マイクを大野に渡す。
「ようこそ、組織AHOの研究施設へ。その女の蒜壷と子供の蒜壷は、我々への手土産というわけか……」
 大野の良く響く声が、ナギと二人の蒜壷の元に届いた。
「この二人が蒜壷のものだとわかるの?」
 ナギが、大野に応える。
「我々は、特殊な遠赤外線を使っているのでな。蒜壷の者と、そうでないものとの区別ができる。おまえが連れているその二人から出ている熱量は蒜壷の者のものだ」
「そう。じゃあ私は? 私は何者?」
 ナギが訊く。
「おまえは……。おまえは、蒜壷ではない。我々人とも、違うが……」
 組織AHOは、那美とナギが、人と蒜壷との間に生まれたものであることを、まだ、知らない。
「この施設に入るつもりか?」
 大野が言った。
「そのつもりよ。そのつもりがなければ、わざわざこんなところまで来やしないわ」
「施設の中に入りたかったら、そこにいるH-Aシリーズの蒜壷のことを教えろ。その二人はどんな能力を持っている蒜壷なんだ? どうやってその蒜壷を捕まえた?」
 五十嵐参謀が、スピーカー越しに、ナギに訊ねる。
「さあね、この二人がどんな能力を持っているか、そこまで分からないわ」
「分からない、なぜだ?」
 蒜壷のものが、おとなしく那美に従ったとは思えない。この二人の蒜壷は、那美と戦ったはずだ。
「そこにいる二人の蒜壷は特殊な能力を使わずに、おまえさんの前に跪いたわけではあるまい」
 餓鬼と呼ばれるHーBシリーズさえ、炎を吐いたり、毒液を散らして、敵を攻撃するものがいる。それより上位のH-Aシリーズの蒜壷が、持てる特殊能力を使わないで、敵と、それも強敵那美と戦ったとは考えられない。
「私をみくびらないで。私には十種神宝があるのよ」
 と、那美が言った。
「十種神宝か。その力を使ってその二人の蒜壺が能力を使う前に捕まえたというわけか」
「そうだとしたら……」
「信じられないな……蒜壷のA-シリーズがその能力を使わず、むざむざ捕まるなんて」
「私を侮らないでと言ったでしょう」
 那美は不敵に笑った。
(この人を下げずむ笑みはなんだ。まるで、魔女のようではないか)
 大野は、モニターに映る那美から、前にあったことがある那美とは違うと感じていた。
 那美は、孤高で凜々しく気高い印象だったが、このモニターに映っている那美は、孤高で凜々しく気高い印象とは別に、人を見下しているような感じがした。
「参謀、どう思います。那美の言うことを信じますか?」
 大野が五十嵐に意見を求める。
「わたしは、あの二人の蒜壺がどんな能力を持っているのか分からないうちは、この施設の中に三人を入れることには賛成できないよ。この施設は、我がAHOの要だ。もしもの時が遭ったら取り返しができないことになってしまう」
「私も参謀に同意見です」
 と、大野が言った。
「それよりも、なぜ、那美がこの施設のことを知っている? この施設の存在は我々以外決して知ってはいけない極秘のものだ」
 五十嵐は銀縁の眼鏡を右手で擦った。
「那美に聞いて見ましょう」
「ああ」
「那美、ひとつ聞いてもいいか?」
「まだ聞きたいことがあるの?」
 那美に装っているナギが応えた。
「ひとつ聞く。君はなぜこの施設のことを知っている? なぜ、この場所に我々の研究施設があることを知っているんだ」
「十種神宝の中に、地上に現れた蒜壺一族を探知する奥津鏡というものがあるの。奥津鏡は、N島に現れた蒜壺一族のことを私に伝えたわ。奴らの目的は組織AHOに囚われた伽羅の奪還でしょうね。そう思ったから、ここに来たまでのこと」
 那美を装っているナギは、十種神宝など持ってはいない。所持してはいないが、蒜壺の頭(かしら)洪暫から十種神宝のことを伝え聞き、その十種神宝がどのようなものなのか知っている。
「ここに来る途中、そこの二人の蒜壺を捕虜にしたというわけか」
 と、大野が言った。
「ええっ、そう。この二人はいわばあなたたちへの贈り物よ。こんな若くて綺麗な女性の蒜壷、観たことないでしょう。それに、子供の蒜壷……。子供の蒜壷は、滅多にこの世界には降りてこないのよ」
 蒜壷一族の平均寿命は、二千歳と言われている。平安時代に生を受けた琥耶姫の実年齢は、千二百歳を超えているが、人に化身したその肉体と容姿は、結婚適齢期の若い女性のそのものだ。
「参謀……。あの女、本当に蒜壷なんですか? 私には信じられませんが……」
 オペレーターが、琥耶姫の美貌に眼を奪われる。
「綺麗だな……。美しすぎる」
 五十嵐参謀は、ため息をついた。
 つややかな光沢を持ったセミロングの漆黒の髪。二重瞼の黒目がちな瞳は魅惑の光を湛えている。透き通るような白い肌は、触ると溶けて行ってしまいそうだ。青色のライダ―スーツに包まれた胸の膨らみは、大きくもなく、小さくもない。腰からつま先にかけてのラインは、ファッションモデルのそれだった。
 モニターを操作しているオペレーターが言う。
「蒜壷が、みんなあんなのだったら、こちらは大歓迎ですね」
「馬鹿なことは言うな。あれは仮の姿だ。実際の姿は奇怪な化物なんだぞ、奴らは……」
 と、大野が、オペレーターを戒めた。
「ここを開けてちょうだい。扉が閉まっていたら、中に入れないでしょう」
 那美に装っているナギが言った。
「施設(なか)に入って来る気か」
 大野が、スピーカー越しに応える。
「当然、そのために来たのだから」
 ナギは鼻を鳴らした。
「施設の中に入った途端、その二人の蒜壺が暴れたら、どうするんだ」
 と、大野が言った。
「その時は、私がこの二人を殺してやるわ」
 那美の言葉を受け、大野が、五十嵐参謀を見る。五十嵐参謀はうなずいた。
「開けてやれ。ここは那美を信じることにしよう」
 五十嵐参謀の指示に、大野はオペレーターに指示を出した。
「よかろう。セキュリティーシステムを解除する」
 オペレーターが機器を操作すると、鋼鉄製の扉が左右に分かれ、開いた。
(ナギ、ダイジョウブカ? バレヤシナイカ?)
 刻が、小さな声で、ナギに訊ねた。
「まかせてください。たとえ正体がばれても、決して、やられはしないわ。私を誰だとおもっているんです」
(ナミノフタゴノイモウト、ナギ。ヒトデモ、ヒルコデモナイ、チョウゼツサイキッカー)
 刻が、ナギのことを円らな瞳で見つめると、琥耶姫が、
「あら、難しい言葉、知っているのね。超絶サイキッカーだなんて、どこで覚えたの? 刻」
 と、言った。
 那美を装ったナギが、琥耶姫と刻を連れて、組織AHOの施設の中に入ると、数人の警備の者が、三人の前に立ちふさがった。
「ここからは、我々が案内します」
 形状記憶可能なレアメタルを織り込んだプロテクターを身に着けた警備員が、用心深そうに琥耶姫と刻を視る。
「大丈夫。心配しないで。彼女らは、何もできやしないわよ」
 那美に装っているナギが言う。
「H-Aシリーズの蒜壷は、油断できません」
 と、警備員の一人が言った。
「あなたたちは、そのH-Aシリーズの蒜壷と、私をどこに案内するつもりなの?」
 ナギが言う。
「H-Aシリーズは、それぞれ地下のクリスタルゲージの中に監禁します。那美さんは、作戦室Aの隣の部屋で待機していてください」
 警備員が言った。
「伽羅は、どこにいるの? この琥耶姫たちが監禁されるという地下のクリスタルゲージの中?」
「H-3Aが、どこに監禁されているかは、我々警備員は、知らされていません」
 と、警備員が、事務的に言うと、天井に設置されているスピーカーから、野太い男の声がした。大野だ。
「そのH-Aシリーズの蒜壷は、琥耶姫というのかね? どちらが琥耶姫なんだ?」
「若い女の蒜壷が琥耶姫で、女の子の蒜壷が刻よ」 
 ナギは、うっすらと嗤った。

 相棒である大地のヌを失った風のイは、血眼になって、大人の身長ぐらいの竜巻を造り続け、それを、那美、めがけて投げつけていた。
 那美は光破剣を駆使し、迫りくる竜巻を、ことごとく粉砕する。
「おのれっー おのれっー おのれっ」
 風のイは、自ら造り出した竜巻群を消されてしまっても、執拗に那美に攻撃を加える。
「それで、おしまい?」
 那美は、風のイが造った最後の竜巻を消し去り、地上に降りた。地上に降りた那美の右の膝がしらに、惟三の長く伸ばした舌が絡みついた。
「那美はん、痺れるだろ。わいの毒舌にかかったら、あんさんでも数分で倒れてしまうがな」
 惟三は、逃げたわけではなかった。逃げると見せかけで、隙をうかがっていたのである。
 那美の胸元が、紅梅色に光る。若草色の香袋の中に入っている紅梅色の勾玉が光ったのであった。那美の胸元が紅梅色に光ると、那美の右の膝がしらに絡みついていた惟三の舌が、業火に焼かれ燃え上がった。
「うぎゃあぁー」
 舌を焼かれた惟三は、口を押えて、もんどりうった。
「戦いから、何も学んでないのね。品物比礼(くさぐさのもののひれ)が、私の手の中にある限り、あなたたちは、私に触れることはできないわ」
 那美が、光破剣の切っ先を、惟三の貌に突きつけた。その那美に……。
「これでも喰らえ!」
 風のイが、背後から性懲りもなく竜巻を投げつけようとした。呂騎が、風のイの左のふくらはぎに喰らいつく。
《感心しませんよ。後ろから襲うとは》
 呂騎が、テレパシィーを使って風のイに言った。
「おのれっ、呂騎!  いつのまにー 餌非一派の廃れ者がー」
 風のイは、呂騎に食いつかれ、体制を崩した。
 銃声の音が続けざまに響く。
 呂騎とともに食法を、すべて葬った室緒が、この場に駆けつけ、機銃を撃ったのだ。
 50ミリマグナム弾が、風のイの身体を粉砕する。貌の半分が吹っ飛び、左胸にバレーボール大の大穴が開き、右わき腹が跡形もなく消し飛んだ。
「ありゃま、イさんまで、やられてしもうたがや。やばい。やばい。ほんまにやばい。ここは逃げるが勝ちやがな」
 惟三が、ピョンピョン、跳ねて逃げ出した。
《那美さま、惟三が逃げてゆきます。あとを追いますか?》
 呂騎が言う。
「惟三は、室緒さんたちに任せて、私たちは、この島に来ているはずの琥耶姫たちを追う」
 那美が、呂騎に言葉を返す。
《琥耶姫と刻……、もう一人の蒜壷は》
「私の推測が正しければ……もう一人の蒜壷は、ナギ、私の妹」



                      
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