モテたかったが、こうじゃない 魔力ゼロになったおれは、あらゆるスパダリを魅了する愛され体質になってしまった

三ツ葉なん

文字の大きさ
66 / 86
web版設定第二章

46

しおりを挟む
地味なちょっかいを掛けてくる兄貴と戦いながら待っていると、ノックの音がした。

兄貴が立ち上がったので、おれも習って立つ。

開いた扉からみんなが部屋に入ってきた。

カール様、アレク、レイヴァン様に続いて、トワイス皇太子と変態司教。そして…

その人が部屋に入ってきた瞬間に目が奪われる。

肩下で切り揃えられたコシのある艶やかな黒髪。気の強そうな黒い猫目。白い肌。華奢な首や手足。

そして何より纏う空気が別格だった。そこだけ空間が違うような気さえする。

息をするのも忘れるほどの『美』が、そこにいた。

「綺麗…」

自然と漏れた言葉は小さなものだったが、彼女の耳に届いたらしい。
おれをまっすぐに見て、ゆっくりと目を細めた。

そのまま、まっすぐにおれに向かって歩いてくる。

周りの静止も無視して、彼女のヒールの音だけがやけに耳に響いた。

棒立ちのまま動けないおれを庇うように兄貴が一歩出たが、彼女はそれすら無視する。

危害を加えない限り、自分は守られる存在だと認識しているようだった。

手を伸ばせば触れられる距離で足を止め、うっすら微笑みながらおれを見る。

身長はおれの方が高い筈なのに、見下ろされているかのような圧だ。逸らすことは許されない。圧倒的な美しさ。

最後に入ってきたグランツ様が扉を閉めるのと同時に、彼女はぷっくりと膨らんだ唇を開いた。

「ありがとう『偽物くん』。でも、あなたは違うのね」

その言葉に部屋中の空気がピリついた。

自分に向けられた厳しい視線に気づいているのかいないのか、彼女はにんまりと口の端を上げる。

黒い瞳には嫌悪が混じっていた。彼女は明らかに、おれのことをよく思っていない。

「全体的に凹凸の少ないのっぺりとした顔、痩せた身体、荒れた肌、くすんだ髪。それに、度胸もないみたい。あなた、私に圧倒されているんでしょ。顔が引き攣ってるわ」

「聖女様、それ以上は…」

教会の御付きの人だろうか。白い服を着た男の人が嗜めるが、彼女は鼻で笑った。

「だって事実でしょ。彼、凄く浮いてる。ここにいて恥ずかしくないのかしら。服だって無駄にフリルなんて付けて、チヤホヤされて勘違いでもしちゃった?もしかして鏡見たことないの?」

全て本当のことだ。今言われた特徴は全部、本来のおれの姿。

見すぼらしい、田舎者の平凡男。

「そこはあなたの居場所じゃないのよ。もう十分楽しんだでしょ。ねえ、返して」

あまりにも真っ直ぐな正論に反論も浮かばない。

だって全部本当だ。彼女はなにも間違ったことなんて言ってない。嫌われるのも当然だ。

彼女からしたら、おれは居場所を奪った『偽物』で、盗人なのだから。

「もう口を開くな」

ずん…っ!っと部屋中の空気が重くなった。御付きの男の人が苦しそうに床に膝をつく。

これ、この感じ…っ。前にどこかで…。

息苦しさを感じ胸を抑える。カール様と聖女さん以外、みんな苦しそうにしているが倒れてはいなかった。

黒いモヤ視界の端にうつる。あ、これ…医務室でレイヴァン様が出した、魔力圧だ。

レイヴァン様が、怒ってる。

「マシロはいるべくしてここにいる。なにも知らない貴様が口を出すことじゃない」

「残念ね、私に魔法は効かないの。確かに『偽物くん』のことは知らないわ。でも、『本物』のことはよく知ってる」

「くだらない」

吐き捨てるよに言ったレイヴァン様の言葉に、聖女さんが憎らしげに顔を歪める。

そしてレイヴァン様を睨みつけた。

「そもそもアンタが…ッ!アンタが相手を間違えたからこんなことになってんでしょ!?しっかりしてよ…っ!!」

「意味のわからないことを言うな。僕は間違えてなどいない」

「間違えてるわよ!全然違うじゃない…っ!色が一緒だからってねっ、ちゃんと見なさいよ、ダメ王子!」

「…なっ、…っ!?」

感情的に怒鳴る聖女さんは次第に涙声になり、ついには泣き出してしまった。

高圧的に怒りを向けていたレイヴァン様も、流石に泣く女の子にまで強く出られないようでたじろいだ。重い空気がぱっと霧散する。

「『本物』はもっと目がクリクリして、髪の毛もふわふわサラサラだし、華奢に見えるのに筋肉もしっかりついてるし、お人形さんみたいに可愛いのに芯はしっかりしてて剣も魔法も強いし、家庭的で歌も上手いし、成績優秀だし、乗馬もできるし、なによりお姉さん想いの心優しい美少年なのにぃ…っ!!」

うわーん!と声を上げて泣く聖女に、みんな思った。

『『『誰、それ…?』』』

バッと一斉にみんなの視線がおれに向く。

慌てて両手を振って知らないとアピールした。おれに姉はいません。

てっきり聖女さん自身のことかと思っていたのに何か根本が違うみたいだ。だって美少年って言ってるし。

子どものようにヒックヒックと泣きじゃくる聖女さん。

その姿に毒気を抜かれた全員が、どうしたものかと困惑した。もうさっきまでの張り詰めた雰囲気はない。

「ゔー、しかもマシロって、ひっく、名前がマロン君に似てるのも、うぅ、むかつくぅー…っ!」

『『『いや、マロンって誰?』』』

情報が出れば出るほど混乱する。

唯一聖女さん側の御付きの人は、レイヴァン様のせいで床に伸びてるし。

とりあえず聖女さん自身から聞くしかなさそうだ。
若い女の子を落ち着かせるのに向いてそうなのは…。

全員の視線がアレクに向く。

任せたぞ、お前のチャラさが今こそ輝く時!

意図が伝わったのか、アレクは青い顔をしてブンブンと首を振った。

「あーん!どこに居るのよぉ…っ、私のマロンくーん…!」

ガチャ、と音がした。

「あら、どういう状況ですの?」

遅れてやってきたアイリーン様が不思議そうな表情で部屋に入ってくる。

た、助かった…っ。

部屋中から期待の眼差しを浴びて、ますますアイリーン様はきょとんとしていた。









しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。