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side トール
side トール 2
しおりを挟む進学校だけあって、頭が良くてお行儀のいい高校生がいる中、1人だけ輝くようなイケメンがいた。
色素の薄い天然物のアイスブロンド。日本人離れしているようで、少しだけ親しみやすい顔立ちをしているくせに、瞳の色だけは綺麗なエメラルドグリーン。
そんな風に、人から一目を置かれそうな姿をしているのに、目があったら「透流」と語尾にハートマークでも付けるような声音で甘えてくるあざとさを持ってて、口でも頭でも素手でも喧嘩は強いパーフェクト超人。
それが先輩だった。
ハーフだかクオーターだかで、日本人離れした顔立ちで、病弱で儚げな外見をしているくせに、詐欺みたいな社交性の塊みたいな人で、周りの人間はもちろん、透流のやさぐれた心もこじ開けていった。もちろん、精神的にも物理的にもだ。
人同士のつながりに飢えていた透流にとって、先輩は実の兄よりも兄のような人になった。
固執したいわけではなかったが、当然のように透流は先輩に懐いたし、先輩も透流を実の弟のように可愛がってくれた。
大学は先輩を追いかけて同じ大学に入り、気がつけば大学を卒業して、ちょっとだけ就職したりはしたが、いつの間にか先輩と同じホストになっていた。
意味は分からなかったけれど、考えることを途中で放棄したので、なぜそうなったのか透流には今も分からない。
家は大学卒業と同時に、義務は果たしたと言わんばかりに追いだされたので、問題なかった。
三つ子の姉達が「奴隷がいなくなる」と騒いでいた気がしたけれど、透流の人生にはもう、彼らは関係ないのでどうでもいい。虐げられたわけではないけれど、家族として思うにはその関係は希薄で、複雑すぎた。
彼らを家族と思うなら、先輩達の方がよほど家族だった。
さて、
物心ついた頃には家族の顔色を窺い、三つ子の姉の奴隷をしていた透流は、顔だけは無駄に綺麗だったのもあって、ホストクラブに通うお姉さま方の母性を刺激した。
所属するホストクラブで一位になるタイプではなかったけれど、気が利いていて、なおかつ甘え上手だった透流は、気がつけばそこそこに指名を貰える売れっ子になっていた。
もちろん、尊敬する先輩は瞬く間にホストクラブで一位を争うほど人気の売れっ子になっていて、やっぱ先輩はすげえなと透流は思っていた。俺様系でも、強引でも、あざといタイプでもなく、ものすごく親しみやすくて、お節介で、とんでもなく顔がいいイケメン。
老若男女問わず魅了する先輩は、アンチも多かったけれど、それ以上に味方がたくさんいて、それを割と近いところで見られる位置にいるのが透流は嬉しかった。
別に透流は一位になりたいとか、女にモテたいとか、思っていない。
ただ、先輩に「凄いな」って思われたら嬉しい。
先輩の両親が早くに事故だか何だかで死んでしまって、10以上も年の離れた妹を立派に育てるために色々と頑張っていたのを透流は知っている。
それにホストとかして、色んな女の人にモテてやべえのにだって好かれてるくせに、幼馴染の彼女さんには全然頭が上がらなくて、ずっと一途に想ってることも知っているし、その彼女さんの前でだけ、筆舌しがたいポンコツになるのも知っている。
小言の煩い母親みたいなやつだと言っていたけれど、ほんのり頬を染めながら愚痴という名の惚気を披露する先輩たちが大好きで、透流は早く結婚して、子供作って幸せ家族になってくれないかなといつも思っていた。
透流はそれまでの人生で、恋人ができたことはあったけれど、全部相手からの告白だった。
みんな透流の事を甘やかしてくる大人のお姉さまで、だいたいいつも「先輩を紹介してほしい」と言われて関係が終わるのが常である。そのため透流は女性というものをあまり信じていなかった。
女性不信というわけではないし、お客さんなら逆に好ましい面白い人もいる。透流目当てで通ってくるお客さんは、その大半が既婚女性で、透流を猫かわいがりしたいお姉様だったから、そう言う意味では有難かった。
だけれどプライベートでニコニコ近づいて来る人は、大体裏があって面倒くさい。
どうしようもなくなるほど人肌が恋しい時は甘えたりもしたけれど、それだけだ。
だって彼らは透流の事を好きではないのだから。
飽いたら捨てる飾り物だと思われているのが分かっているから、透流は決して彼らを信じない。
信じるのは、透流を宝物みたいに思ってくれる先輩たちだけだ。
先輩の彼女さんに「真っ当に彼女とか作らないの? 結婚とかも考えない?」と聞かれた時、透流はしばらく考えて「彼女さんが先輩を想うくらい、俺の事好きって言ってくれる人ができたら結婚したいな。家族ほしいし」と笑って答えた。
透流は家族が欲しかった。
自分の事を大切に想ってくれて、自分も大切に想える、宝物みたいな家族が。
透流は自分が真っ当な人間ではないことは分かっていたけれど、家族ができたら誰よりも、何よりも大切にするつもりだ。
お嫁さんは無茶苦茶可愛がって甘やかしたいし、子供には男の子だろうと女の子だろうとパパって呼んでもらいたい。
泣いて笑って喧嘩して、いくつになっても手を繋いで歩いて、人生に悩みながら、生きて、生きて、生きて……
子供や孫に囲まれて、生まれてきてよかったと思いながら死ぬことが、透流の夢だ。
透流が酒を傾けながら答えたら、彼女さんは赤くなって、青くなって、泣き出した。
先輩と妹ちゃんがそれを見て「おい透流! 俺の女を泣かしてんじゃねーよ」って怒られたけど、その直後に「誰が誰の女だって!」とブチ切れた彼女さんが先輩の綺麗な顔にビンタして、事情を聞いた妹ちゃんが「透流ちゃん、おこってごめんね。飴ちゃん舐める?」と飴をくれてよしよししてくれたのでいいことにする。
先輩に至っては一切合切聞いた後両手で顔を押さえて「皆で焼き肉食いに行くぞ」って言ってくれたし。
その日の焼き肉はすごく美味しかった。
だから透流は、いつか先輩の結婚式で「先輩は俺の自慢の兄ちゃんです」ってスピーチして、自分にも自分の事を大好きだと言ってくれる人と結婚して、それから先輩の妹ちゃんも幸せになってくれたらいいなぁと思ってた。
けれどもそんな未来は来なかった。
いや、きっと来たのだろうけど、その未来に透流は辿り着くことを許されなかった。
先輩が、妹ちゃんが大学を卒業したのをきっかけに、彼女さんと結婚することになってホストをやめることにした。
元から頭もよかったし、ホストをしながら培った人間関係と資金のおかげでホストをやめても問題ないし、むしろ起業すると言いだした。
何の仕事だろうと思ったら、お洒落なカフェだとか抜かすので、透流はゲラゲラ笑って、先輩にくっついて行く気でホストをやめた。
「春から俺もカフェ店員ですよ」なんて笑ってたら、視界の端に銀色が光って、気がついたらとっさに体が動いた。
ぐっさり刺されたと気がついた時にはもう遅かった。
相手は先輩のメンヘラストーカー。
超絶やべえタイプのお客さんで、ホストクラブ出禁になるような女だったから警戒はいつだってしてたはずだった。
ナイフを持ってこっちに向かってきてるって気がついてたはずなのに、透流は声をあげることもなく、ただそのまま庇うように先輩とその女の間に入る事しかできなかった。
血がたくさん流れる感覚がして、一気に体が冷たくなって、先輩が何度も名前を呼んでくれた気がした。
まぁ、夢は叶わなかったけど、悪くない人生だったなぁ。
と、思って透流はどうにか声を絞り出した。
「幸せになってくださいね。俺の分まで」
透流は誰かに愛されたかったし、誰かを愛したかった。
どうやらそれは無理なようなので、尊敬する先輩と、その家族たちには幸せになってほしかった。
その願いが届いていればいいなと思って目をつむり、彼はそのまま目を覚ますことはなかった。
……はずだった。
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