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二章
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一世一代のプロポーズで幕を閉じた俺のお披露目式は、皆の
ざわつきが収まらないままお開きとなった。
まだ嗚咽を漏らしながらプロポーズ相手に抱きついて離れない俺は
そのまま彼に支えられるようにして階段をもたもたと登る。
「……陛下、失礼致します。」
覚束ない足取りを不安に思ったらしい彼に軽く持ち上げられ
いわゆる姫抱っこをされてしまった。
同じ男に姫抱っこをされて情けないが、囁くような優しい声と
優しい手つきに俺は嗚咽が止まらない。
コツ、コツと彼の足音が響く。
俺を揺らさないように静かにゆっくりと階段を登ってくれているのが分かって
更にたまらない気持ちになり、彼の首に抱きついて逞しい胸に顔を埋めた。
彼からはなんだか良い香りがして思わず深呼吸。
微妙に彼が震えた気がする。
暫く彼にしがみついていると、いつの間にか俺の部屋に着いたらしく
柔らかいベッドの上に静かに降ろされた。
彼の温かさが離れてしまうのが嫌で、とっさに服の裾を掴む。
「やだ……行かないで…。」
涙でびしょびしょだろう顔で彼を見上げると、彼はまた跪いて
俺をまっすぐ見つめてくれた。
「何処にも行きません…陛下。」
なんて誠実な人なんだろうか。更に涙が溢れてまた抱きつきそうになった時。
「失礼します、陛下。」
扉を開けて部屋に入ってきたのは先程の紫の髪の司会者だった。
「申し遅れました。私はゲヴィタ・ヴリクスト。ゲヴィタとお呼び下さい。」
優雅に礼をして微笑むゲヴィタと名乗る男。
涙でぼやけてよく見えないが、多分美形だ。
彼は司会者ではなくこの国の大臣らしい。主に政治に関するあれこれを
担当しているそうだ。
「陛下をお迎えに上がったアネモスらから大体のお話は伺っております。
ですが、再度陛下ご自身から陛下のお話をお聞かせ願えればと
思っているのですが、幾つかご質問させて頂いても宜しいでしょうか。」
あの中年はアネモスというのか。
まだ涙が止まらないのでひとつ頷いて返事をする。
「ありがとうございます。では、まず陛下がこのアクラシエル魔国に
いらっしゃる前の事をお伺いしても?」
「……はい。」
あまりにも情けないので話したくないが、ヤケクソだ。
聞きたいのなら俺の悲しい武勇伝を聞かせてやろう。
「えっと、俺は日本という国に住んでいて…それで今日は俺と彼女が
付き合って一年の記念日だったから、指輪を渡して結婚を申し込もうと
していたんです。」
隣にいた騎士がピクリと少し動いたのが分かった。
「そしたら彼女はお…俺と彼女の住んでいる家で、他の男と浮気していて……
余りにショックで…それで、俺は発作的に死のうと思い屋上から飛び降りました。
そしたら森の中で寝ていました。」
自分で思い返しながら喋ったが、我ながら全く意味不明だ。
「それは……お辛い思いをされたのですね、陛下。それでは……。」
「情けない男だ。見損なったぞ。」
お労しやと眉を下げるゲヴィタの言葉を遮って隣にいた彼…確か
ルナノワと名乗った男が立ち上がり、今までと違う、視線だけで
殺されそうな程の冷たい目が俺を射抜いた。
「他の男に女を取られ、戦いもせず自ら命を断とうとするとは
情けないにも程がある。
その上この私に、その女に渡すはずだったなどという物を渡して
あのような………侮辱するのもいい加減にしろ!」
それだけ言うとルナノワは俺に指輪を投げつけて、部屋を出ていってしまった。
どうしよう。初めての夫婦喧嘩だ。…いや、まだ気が早いか。
「もっ…申し訳ありません陛下…!ライラータが無礼な態度を……!」
青くなって慌てるゲヴィタに平気だと首を振る。
「……いえ……確かに、今思い返すと彼に相当失礼過ぎることを
してしまいました…。」
少し落ち着いて考えてみると、確かに失礼だ。
結婚を考えていた彼女に浮気されたから、渡し損ねた指輪を渡して
プロポーズなんて彼じゃなくても本気で怒るに決まっているだろう。
しかもあれだけの人の前で盛大に男から男にプロポーズされたんだ。
嫌じゃないわけがない。いくら頭がおかしくなっていたとは言え
これでは彼が侮辱されたと思っても仕方ない。
「陛下…なんと広い御心……私、感動致しました…!」
「いえ…それより、彼は…。」
キラキラと目を潤ませて俺の手を握るゲヴィタ。
やはりスキンシップが多い。
「ライラータならば、きっと修練場でしょう。それより陛下。」
修練場か。後で行ってみようと考えていると真剣な声。
「先程屋上から飛び降りたとおっしゃりましたが、陛下は
死んでなどいないのです。」
「…え?」
ざわつきが収まらないままお開きとなった。
まだ嗚咽を漏らしながらプロポーズ相手に抱きついて離れない俺は
そのまま彼に支えられるようにして階段をもたもたと登る。
「……陛下、失礼致します。」
覚束ない足取りを不安に思ったらしい彼に軽く持ち上げられ
いわゆる姫抱っこをされてしまった。
同じ男に姫抱っこをされて情けないが、囁くような優しい声と
優しい手つきに俺は嗚咽が止まらない。
コツ、コツと彼の足音が響く。
俺を揺らさないように静かにゆっくりと階段を登ってくれているのが分かって
更にたまらない気持ちになり、彼の首に抱きついて逞しい胸に顔を埋めた。
彼からはなんだか良い香りがして思わず深呼吸。
微妙に彼が震えた気がする。
暫く彼にしがみついていると、いつの間にか俺の部屋に着いたらしく
柔らかいベッドの上に静かに降ろされた。
彼の温かさが離れてしまうのが嫌で、とっさに服の裾を掴む。
「やだ……行かないで…。」
涙でびしょびしょだろう顔で彼を見上げると、彼はまた跪いて
俺をまっすぐ見つめてくれた。
「何処にも行きません…陛下。」
なんて誠実な人なんだろうか。更に涙が溢れてまた抱きつきそうになった時。
「失礼します、陛下。」
扉を開けて部屋に入ってきたのは先程の紫の髪の司会者だった。
「申し遅れました。私はゲヴィタ・ヴリクスト。ゲヴィタとお呼び下さい。」
優雅に礼をして微笑むゲヴィタと名乗る男。
涙でぼやけてよく見えないが、多分美形だ。
彼は司会者ではなくこの国の大臣らしい。主に政治に関するあれこれを
担当しているそうだ。
「陛下をお迎えに上がったアネモスらから大体のお話は伺っております。
ですが、再度陛下ご自身から陛下のお話をお聞かせ願えればと
思っているのですが、幾つかご質問させて頂いても宜しいでしょうか。」
あの中年はアネモスというのか。
まだ涙が止まらないのでひとつ頷いて返事をする。
「ありがとうございます。では、まず陛下がこのアクラシエル魔国に
いらっしゃる前の事をお伺いしても?」
「……はい。」
あまりにも情けないので話したくないが、ヤケクソだ。
聞きたいのなら俺の悲しい武勇伝を聞かせてやろう。
「えっと、俺は日本という国に住んでいて…それで今日は俺と彼女が
付き合って一年の記念日だったから、指輪を渡して結婚を申し込もうと
していたんです。」
隣にいた騎士がピクリと少し動いたのが分かった。
「そしたら彼女はお…俺と彼女の住んでいる家で、他の男と浮気していて……
余りにショックで…それで、俺は発作的に死のうと思い屋上から飛び降りました。
そしたら森の中で寝ていました。」
自分で思い返しながら喋ったが、我ながら全く意味不明だ。
「それは……お辛い思いをされたのですね、陛下。それでは……。」
「情けない男だ。見損なったぞ。」
お労しやと眉を下げるゲヴィタの言葉を遮って隣にいた彼…確か
ルナノワと名乗った男が立ち上がり、今までと違う、視線だけで
殺されそうな程の冷たい目が俺を射抜いた。
「他の男に女を取られ、戦いもせず自ら命を断とうとするとは
情けないにも程がある。
その上この私に、その女に渡すはずだったなどという物を渡して
あのような………侮辱するのもいい加減にしろ!」
それだけ言うとルナノワは俺に指輪を投げつけて、部屋を出ていってしまった。
どうしよう。初めての夫婦喧嘩だ。…いや、まだ気が早いか。
「もっ…申し訳ありません陛下…!ライラータが無礼な態度を……!」
青くなって慌てるゲヴィタに平気だと首を振る。
「……いえ……確かに、今思い返すと彼に相当失礼過ぎることを
してしまいました…。」
少し落ち着いて考えてみると、確かに失礼だ。
結婚を考えていた彼女に浮気されたから、渡し損ねた指輪を渡して
プロポーズなんて彼じゃなくても本気で怒るに決まっているだろう。
しかもあれだけの人の前で盛大に男から男にプロポーズされたんだ。
嫌じゃないわけがない。いくら頭がおかしくなっていたとは言え
これでは彼が侮辱されたと思っても仕方ない。
「陛下…なんと広い御心……私、感動致しました…!」
「いえ…それより、彼は…。」
キラキラと目を潤ませて俺の手を握るゲヴィタ。
やはりスキンシップが多い。
「ライラータならば、きっと修練場でしょう。それより陛下。」
修練場か。後で行ってみようと考えていると真剣な声。
「先程屋上から飛び降りたとおっしゃりましたが、陛下は
死んでなどいないのです。」
「…え?」
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