2 / 2
2.イタズラ好きのサクラさん
しおりを挟むふう……やっと痛みが引いてきたぜ。
立ち上がって玄関に靴を置き、部屋の中に入らせて頂くと……って、違う違う。ここは俺の部屋のはず。サクラさんに遠慮する必要なんて無いはずだ。
「どや、アンタが部屋に来てからマンコ性病くらいしか経ってないけど、もうこんだけ快適な空間にしといたったで。狭いけど、男女二人が住むにはこのくらいが一番……」
「それを言うならコンマ数秒だろ!いきなり引くレベルの下ネタぶち込んでくるなよ!仮にコンマ数秒って言おうとしたんだとしても絶対もっと時間経ってるわ!小指の回復の遅さナメんなよ!」
「おうおう、見かけによらず結構キレのあるツッコミかましてくれるやんか。それでこそボケ甲斐があるってもんやで。楽しみやわ……ところで、話変わるけど、名前なんて言うんやっけ?」
幽霊と普通に会話してるなんて、一人暮らし初日からおかしいよな俺。
「田所純一」
「へぇー、なんや全然変わったところの無い名前やな。聞き返しボケがでけへんのが残念や」
「つまんなそうだからいいや」
「なんでそんなん言うねんウチかわいそ!」
だから疲れてるんだって。もしかしたらこの幽霊さえ、俺の脳みそが見せてる幻覚なのかもしれないな。一旦寝させてもらうことにするか。
サクラさんが言っていた通り、スーツケースは勝手に開けられ、中に入っていた敷・掛布団と枕が綺麗に用意されていた。残りのスーツケースの中身は、ラップトップPCとインターネットのルーターのみだ。それ以外の物は要らないと、贅沢をするつもりは無いと親にも告げてここへ来ている。
「ずっと何もない部屋におったウチが言うのもなんやけど、自分他に家具とか置けへんのかいな?」
布団の横にあぐらをかいて、サクラさんが言った。
「ああ。布団とパソコンだけあれば生活できるからね。邪魔な物は置かないようにするんだ」
サクラさんが訝しげな表情で、布団に入る俺を見る。
「もしかして自分……ニートになるん?」
「ちげーよ、フリーターだ」
ちょっとPCがネットにつながるか確かめてから寝るか。電源を点けた。
「なんや、本物のヲタニートっちゅうもんが見られるかと思ったのに。フリーターってあの、バイトしてお金稼いで生活する奴?なんでちゃんとした仕事に就けへんねん」
「そんなもの見てどうするんだ――いくつか職場経験したんだけどさ、どこも俺に合わなくて辞めたんだよ。目指してる物があるから、バイトしながらちょっとずつやっていくつもり」
「そうなんや、大変やねんなぁ。ウチは一体生前どんな人やったんか全く分からんけど、きっとめちゃんこ可愛いしモテモテやったんやろなぁ……チラッ」
「俺の方なんて見て一体何がしたいのか分からないけど、疲れたから寝るよ……寝てる間にパソコンいじったりすんなよ?」
「ほんまつれへんなぁ。分かっとるよ。ほなおやすみ~……また後で会おなぁ」
***
うう、さぶっ。布団の中に居て暖かいはずなのに、冬とはいえ相当冷え込んでるみたいだな。
寝ころんだまま腕時計に目を移すと、夕方の五時だった。結構寝たけどまだ外は明るい。
……?サクラさんはどこだ?
やっぱり疲れが見せた幻覚だったのかな……まあ、うん。いっか。
「幽体離脱!」
そう言いながら、俺をすり抜けて同じ場所で重なるように寝ていたらしいサクラさんが勢いよく上半身を起こし、俺は驚きすぎて枕に頭をぶつけてしまった。ついでに、俺を包んでいた冷気が消え去ったことを報告しておこう。きっと幽霊に触れられていたからゾクゾクしていたんだと思う。
サクラさんが座ったまま、俺の方へと体を向ける。心なしか頬が少し紅くなっている。
「この姿勢、騎乗位みたいとちゃう?」
「うるせぇ!幽霊のくせになんでそんなに性欲フルスロットルなんだ!びっくりしただろ!……ちょっと待って、幽体離脱のネタが今頃じわってきた」
「アハハハ!ウチ自慢のギャグにはどんな男であれ笑いを禁じ得えへんねん!……可愛いからやろか?可愛いうえにおもろいから、笑ってあげな、ってなるんやろうか?純一おもろいからおっぱい見せたるわ」
「ちょ、やめ、やめとけよ――ってそうだ、ご近所さんと管理人さんの挨拶回り行かなきゃいけないよね?こういうのってさ」
「遠慮せんでええのに……せやなぁ、お土産とか持っていったら喜んでもらえるんとちゃう?」
「そうだよな、どんなのが良いのかちょっと調べるわ」
ネットがあれば安心だね…………なるほど、隣人さんにはせっけん、管理人さんには二千円程度の日本茶とかのセットが良いのか。
「この階って全部部屋埋まってる?」
「いや、八階は確かこの隣の部屋に誰か女の人がいてるだけで、他の部屋は使われてへんと思うで」
「そうか、意外と少ないんだな。じゃあ予算は大体三千円程度か。近くにスーパーがあるらしいから行って買ってくる……地縛霊だから来れないんだよな。パソコンいじったりすんなよ?」
「なになに~?ウチにも一緒に来てほしかったん?っちゅうか、パソコンえらい大事にしてんねんな。何か理由でもあるん?」
「そのことは後で話すよ。時間も無いし、じゃあ」
扉を開けて外へ出る。部屋の中って暖かかったんだな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
(゚ ◇、 ゚)読ませていただきました。
コンマ数秒のところで吹きました。
先が気になる展開です。
更新頑張ってください!
読ませていただきました。
面白そうな始まり方ですし、文章もとても上手なのでこれから楽しみにさせていただきます!
頑張って下さい!
おお、初日から感想が頂けるとは光栄です!ありがとうございます。
下品なネタとか色々詰め込んでいくつもりなのですが大丈夫でしょうか……。よろしければこれからも応援宜しくお願い致します!