この星でいきぬく!

來帝

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宿と一悶着と人工衛星

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『安息の止まり木』へ行きながらVSEのメインコンピューターにアクセスしてVSE艦内に転送中継基地(トランスリレーベース)になりそうな打ち上げ可能な小型人工衛星を探しだす。検索結果は16基(き)。

16基の内4基は惑星の静止衛星軌道に乗せ静止衛星として、残りの3基は準天頂衛星として静止衛星の死角をカバーするために運用、そして9基は低軌道衛星として転送成功確率を上げるために運用。

これで小型人工衛星を転送中継基地として運用することが可能となる。

もっともVSEのメインエンジンである超光速推進(ワープエンジン)の燃料が枯渇しており再結晶化させるのにかなりの年月が必要となる。
なので、小型人工衛星を使ってまで面倒な運用をしなくても転送が容易なのだが文句は言っていられない。

「ダイチどうしたにゃ?さっきから黙っててお腹でも壊したにゃ?」
「ん?ああ、ちょっとした作業をしていてね。集中していたみたいだ。心配かけてすまない」
「にゃ???無事ならいいのにゃ。」
《ロロ姉さま。ダイチって何か作業してたかにゃ?普通に歩いてるようにしか見えなかったにゃ。》
《さぁ~?わっちにもわからないわ。そんな素振りしてなかったけどぉ。》
「二人ともどうかしたか?」
『なんでもないにゃ!わ!』
「そうか・・・。」

ネリーに心配され、二人で内緒話か。踏み込んで聞くようなことでもないからそのままにしておくか。
そんなやり取りをしていたらいつの間にか「安息の止まり木」へと着く。

扉をぎいっと開けると受付カウンターがあり明るい声でいらっしゃいませと案内される。

「あら。ネリーとロロじゃないか。元気にしてるかい?それとそちらの見かけない方は二人の連れかい?」
「こんばんは!リラおばさま。この方は大密林シーヴァの神龍様の寝床近くで拾ったのよ。」
「何だって!?神龍様の近くってあんた一体何者なんだい・・・」

リラと呼ばれた猫族からとても強い殺気が放たれロロとネリーが冷や汗をかいていたが私にはその殺気が感知されずポカーンと双子の横に立ったままになる。

「リラおばさん、怖いにゃぁぁ・・・。」
「うぅ・・・この殺気は立っているだけで精一杯だわ」
「ん???二人とも何を怖い顔しているんだ???」
「この殺気に耐えるとはね!・・・これならどうだい?」

より一層強い殺気が放たれるが私の一言で殺気が止む。

「リラ「お姐さん」さっきから何をしているんだ?」
「お姐さんだなんてそんな年じゃないよ。全く・・・」
「二人とも連れを見習いな!何この程度の殺気でへたってるんだい!」
「えええ・・・リラおばさまの殺気に耐えられるなんて人間では無理にゃ~。それにダイチはじゃないにゃ!」
「そうよーリラおばさま。ダイチはではないの。」
「は?何を言ってるんだいどうみても人間じゃないか。」
「私は人間ではありませんよ?」

そう言って金属バイオノイド体の左腕を外す。

「ひ!左腕が体からのいただって・・・」
「だから、人間じゃないって言ってるにゃー」
「だったら何者だっていうのさ!魔族とでもいうつもりかい!」
「おばさま。ダイチはこの星以外から来た異星人ですわ。わっちとネリーも戦ってみてようやく納得したのよ。それに神龍様が永住権を与えたとも神龍様から直接聞きました。」
「そうだったのかい・・。ダイチと言ったっけ?すまないことしたね。」
「いえ、納得して頂けたのなら結構です。」

一悶着はあったが左腕を元に戻してリラが宿の手続きをして部屋の鍵を貰い一息つく。あとで宿にある食堂へ集まって食事の予定だが少し時間があるので準備していた小型人工衛星をVSEから打ち上げる。
その夜宿場町ブリーリャや大密林シーヴァ付近の国々では地上から天へ昇っていく光の塊が観測され災いが降りかかってくる予兆だと人々は噂した。

食事の時間になったので食堂へ行くとロロとネリーそしてなぜかリラが待っていた。

「待たせてすまない。」
「みんな今来たところだから大丈夫よ。」
「お腹減ったにゃあああ~」
「はいはい、お待たせ~たーんと食べておくれ!ダイチは食事とるんだよね?」
「ああ。頂くよ。」

リラが食事を持ってきてみんなで食べ始めた。

「ねぇ、ダイチよ。あんたはどこからきたのさ?」
「信じられないかもしれないが、地球という惑星から宇宙へ出て別の移民できる星を探す宇宙船に乗ってたんだ。しかし、とある事故で船ごとこの星へ落ちてラナ・・・神龍とロロとネリーに出会うことになったんですよ。」
「へぇー大変な経験をしてきたんだね。それじゃ今日は出会えたことに乾杯しなきゃね!あんた飲めるんだろ?」
「ああ、問題ない。頂くとしよう。」

これがのちに地獄絵図へと変わろうとは私は思わなかった。
『安息の止まり木』の朝が明けたころ食堂には3体の酔いつぶれた姿があった。

「ま、まぁ~だだよ。まだいけるからね!さぁのm・・・うぷっ・・・」
リラが呂律の回らないままトイレへと駆け込む。ロロとネリーは床でスヤスヤと寝息を立ててるし。
リラの介抱をすることにした。

「リラさん、無理して飲むこたぁないですよー」
「何いってるんだい・・・うげええええ。」

背中をさすりながら水を渡してリラは水を飲むが回復するまでは時間がかかるだろう。

「どうする?気つけ薬でもいるか?」
「すまないねぇ、貰えるかい?」
「じゃあ腕出してくれ。」
「腕ね。ほらよ」

医療キットから二日酔いに効く薬を調合してリラの腕に無痛注射を打つ。

「何にか今変なの当てなかったかい?薬なんだろ?」
「今のが薬だ。腕に当てたのは注射器という医療道具だ。薬はすぐに効いてくるから心配するな。」
「お?本当だ。二日酔いがなくってきたよ。不思議な道具もってるんだねぇ」
「一応、飲み薬の方も出しとくよ。あとで二人に飲ませてやってくれ。私は少し部屋で休むとするよ」
「わかったよ。ありがとうね。さて、開店準備しなきゃね!」

リラは二日酔いから解放されるとテキパキと動き開店の準備を始める。
私は部屋に戻って人工衛星が軌道上にあるか正常に動作するかなどの最終チェックを行う。そして軽く仮眠をとることにした。
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