皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

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ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期

反撃の狼煙

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 その日の午後の予定は滞りなく進んでいき、何事も異常なく夕食の時間になる。
 会話も食事に彩りを添える。
 そんな中でロワーナはこの国の事情を少しでも掴もうと、話の流れに乗りながら自然に話題を変えていく。

「……残すところ一日とわずかになりました。私のことを歓迎し、大切にしてくださっていることは十分伝わりましたが、社会的立場、今後の外交も視野に入れるなら国際的立場はどうなるのでしょう?」

「そう言えばあちらの方達の待遇についてもお話ししなければなりませんな。今までは我が国の防衛対応策は十分に立てられいるので家内にも娘にも、ロワーナ王女の親衛隊のような部署はありませんでした。だがこれからはそうもいきません。出来れば彼女達にもこの国に移住してもらい、ロワーナ王女の身辺警護を担当していただければとは思いますがな」

 ニューロスはこれまではオワサワールとロワーナの話はしてきたが、親衛隊のことにはほとんど話題に触れていなかったことに気付く。
 そのことを詫びながら、今後の展望についても自分の考えを述べる。

「しかしそうなると、私もこの国の防衛事情をある程度知る必要はあると思うのですが」

 ロワーナは遠慮がちに進言する。
 ニューロスに警戒されるかも知れない懸念はあったが、かれは大いに歓迎の意を表した。

「ヘミナリアもミラノスも、そちら方面の見識などに乏しくてな。ギュールスにも相談しようかと思っていたが彼の負担も増すことになって頭を悩ましていたところでした」

 王妃と王女は、国民との親睦を深める役割以外、政治的な役職にはついていないことが分かった。
 更に深くこの国の事情を聞くロワーナ。
 ニューロスは、彼女がこの国に好意を強く持ってくれたと思ったのか、一段と機嫌良く話しを続ける。
 しかし地下の研究室について話しを聞こうとするが、途端に厳しい顔をロワーナに向け、その話題には応じなかった。

 しかしその反応はロワーナにとっては好都合。
 魔族の力の研究は、ニューロスとギュールス、そして研究員三人にのみその存在を留めていることを示していた。
 最低でもヘミナリアとミラノスはどれほど魔族の件に関わっているかを知るだけでも十分。

「コホン。ところで次回の来訪予定についてですが」

 気まずい雰囲気になり、自身に何らかの疑いがかけられそうな予感がしたらすぐに誤魔化せるように、変える話題を用意していたロワーナ。
 
 ヘミナリアとミラノスが、ギュールス以上に強い関心を示す。
 次に会えるときを待ちきれないふうでもある。

「う、うむ。婚約発表となるから、今回みたいに直ぐにお出でいただくのは難しいでしょうな」

「かと言って、一ヶ月も待たせるわけには行きません。二週間位で十分でしょう。更にその次は結婚式。これは短い期間で準備を整えるのは難しい。それこそ一ヶ月は必要でしょう」

 ギュールスが意見を述べる。
 その意見をニューロスはそのまま受け入れた。
 ニューロスからの信頼をどれほど受けているかということもおおよそ分かる。
 研究所に案内されてから、自分が背負うべき目的が大体見えてきたロワーナは、ここで具体的に確定した。
 あとはその五人を拘束した後のこの国の動向をどうするか。
 こればかりは母国や同盟国の助力を受ける必要がある。
 ロワーナは、その後のこの夕食での会話は上の空で聞き流す。

 そして気になる一言がギュールスから発せられた。

「ニューロス王、今夜あたりからこの後の時間は普段通りに戻しましょうか」

 ロワーナ、ヘミナリア、ミラノスが互いに会話をしている間に、ギュールスは小声で言いながら、ニューロスに小部屋の方へ目配せする。ニューロスはそれに応じ無言で頷く。
 しかしロワーナにはその声が聞こえ、地下の研究室の話であることを察知する。
 しばらくして先に席を立つニューロス。

「少し用事があるから私はここからいなくなるが、そのまま私は寝室に行くからいつまでもここでくつろいでくれていい。今回の来訪で、ここにいる時間も少なくなってきたからな。夜を徹して語り合いつくしても構わんぞ」

 四人に笑いかけながらそう言い残し、小部屋に入っていった。
 それから時間が経ってからギュールスも、ミラノスに自分のことは気にせず好きに時間を過ごすように伝え、小部屋に向かう。
 残された三人は談笑を続ける。
 しかしロワーナはその心ここにあらず。
 その話に付き合いながら、今後おこす行動の下準備や手順などの綿密な計画に頭をフル回転させていた。

…… …… ……

 ニューロスが言い残したことは流石に冗談だっただろう。
 残された時間は少なくなってはいくが、翌日もその次の日も、特に何もなければ予定は入っているレンドレス共和国への来訪期間。
 どのみち体調を崩すわけにはいかないロワーナはもう休むことにして、間もなくして親衛隊と共に寝室に向かった。

 寝室に入ってから、ロワーナ達は作戦会議を小声で始めた。

「地下の研究所は、全員が押しかけたら存分に立ち回るほど広くはない。元第一部隊のみで突入。他の者は、王の部屋にもし王妃と王女がいたら身動き出来ないようにするように。手荒な真似はしたくはないが場合によっては拘束も止む無し」

 ロワーナの皇族の紋章の力により、彼女らの能力の程を把握している。
 他の八人で十分取り押さえることが出来ることを確信しての人数の分配である。

「突入する時間はいつにするんです?」

「王宮内の護衛兵が異変に気付いたときに、大勢駆け付けられたら困る。やはり夕食後のこの時間の方が、いくらかはその人数は少ないだろう。緊急の報せが宮内に渡っても、地下まではすぐにはいくまい。討伐できれば問題ないのだが、差し違えてでもあの五人は止めねばならん」

 ロワーナの胸の内の覚悟を聞き、全員が生唾を飲む。
 王女からの本音を直に聞かせられれば、分かってはいても自ずと切羽詰まった状況が迫っていることを改めて強く実感させられる。

「だがその五人を抑えればいいというものではない。大きな組織であれば、潰えて消える前に、例え一刻であったとしても代役は必ず立つものである。それをも抑えなければ、この国が抱える野望が再び芽生えないとも限らない」

「そこまでは手が回りません。大きな組織、すなわちこの国ということですよね? ならば本国に助けを呼ぶ必要がありますが、その手段がありません」

「問題ない。この国からすぐにでもオワサワールに移動できる門を設置したのだ。こっちから向こうに責めるための手段だろうが、帰還することも考えねばならんだろう。それはオワサワールからこの国に移動するための手段でもある」

 つまりロワーナ達が助けを呼ぶために移動する手段にも使える、レンドレスの攻め手を逆手に取った方法を、既にロワーナは思いついていた。

「そしてあの部屋も割と広い。あの部屋を武装で占拠出来るほどの戦力も一度に呼び寄せることも出来る。場合によっては王妃と王女をオワサワールに連れて、あまりしたくはないが人質にすることも出来なくはない」

 ニューロスの企みをオワサワールに報告してすぐに動いてくれるかどうかは分からない。
 しかし実兄の私兵くらいならすぐに動かしてくれるだろう。
 いや、動いてくれないと全てが終わる。
 そして少しでも兵を動かしてくれるなら、そこから国軍が動くことはたやすいはずである。
 国がレンドレスへ動けば、足並みが揃っていてなかったとしても、反レンドレス同盟国は間違いなく動く。
 レンドレス再建の時間を与えることはしないだろう。

「いつ皇帝、元帥に報告されますか?」

 親衛隊からの質問にロワーナは即答する。

「今すぐに私が向かおう」

 夜遅くまであの部屋を使ってもいい。
 ニューロスはそう言っていた。
 言質はとってはいるだろうが、ひょっとして騙されているのかもしれない。
 だが騙しているにしても、一晩中あの部屋に誰かがいるわけでもないだろう。
 行き来できる隙をどうつくか。

「これがあるじゃないか。たとえ遠距離であったとしても、その距離を縮める門がある。その門を通せばこの機能は大いに役立つ」

 ロワーナはニヤリと笑い、いつかギュールスが作ってくれたティアラを変形させた髪飾りを指さした。 
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